はじめての景色
2018年の初夏、母校である東筑高校の同期から連絡が来た。
「母校のOB会でさ、二重作に講演して欲しいんだけど」
「えー、マジか。お声かけは嬉しいけど、やめとくよ」
僕は、同期からの話を丁重に断った。嬉しかったけど、断った。
なぜか?
理由はただひとつ。 「自信がなかった」のだ。
それまでの僕は、
・医療関係者の前で話す
・格闘技やカラテの実践者の前で話す
・医療系の学生の前で話す
・プリンスファンの前で話す
これらはそれなりにやってきた。とくに格闘技医学については、ミッションのように感じていて。英語さえほとんど通じない国でもやってきた。
だから人前で話すことには、さほど抵抗は無かった。僕が躊躇した理由、それは
「属性、背景がバラバラな人たち相手に話をするだけのコンテンツを持ち合わせていない」
だった。
母校のOBとはいえ、それぞれの背景、立場、趣味趣向は異なる。端的にいえば「東筑高校」とか「北九州」とか、そのあたりの共通項しかないわけで、そこには「格闘技が嫌いな人」も、「医学にほとんど無縁な人」も、「プリンスを知らない人」もたくさん含まれる。
「そんな人たちの前で、僕は何を伝えればいいんだろう?」
「どんなことをやれば「聴いてよかった」と思ってもらえるんだろう?」
とまあ、それまでほとんど考えてこなかったテーマが、目の前に溶鉱炉のように立ちはだかった。その時の僕にとって、ホントに難題だったのだ。
それから3週間ほど経ってから、このやりとりをしった別の同期から連絡があった。
「二重作、講演断ったってホント?」
会話もイントロも何もなく、いきなり本題に斬り込んでくる、北九州男児。
「うん、気持ちは嬉しいけどね。ごめん、今のオレには無理だわ」
そうこたえたら、
「お前に断られるときついんだ。ここは同期みんなを助けると思って、頼む」
10代から知ってるだけに僕の弱点をパーフェクトに突いてくるこの展開。
「わかった、やるわ。だけど何話していいかわかんないから、ミーティング希望。」
「わかった、美味い店予約しておく」
ということで後日、都内に集合した。同期2人と僕で、美味しい焼き鳥を食べながら、トークの方向性をディスカッション。と思いきや、「お前ら、酒飲みたいだけやん」と僕に突っ込まれながら、
タイトルは「好きを仕事にする方法」でいこう、
二重作が趣味をどんな風に仕事にしてきたか、がテーマで。
というところに落ち着いた。(アルコールは偉大なり)
ジャンルレスな相手に話をする、という当時の僕にとって「はじめての挑戦」になったけど、同期にして真打の落語家・林きく麿さんが前説をしてくれるという、超スペシャルな応援もあり、おかげさまで講演会は盛況だった。
ちなみにその時の様子が動画になっている。
https://x.com/takuyafutaesaku/status/1143816848758063105
同期がもってきてくれた機会は、その後の僕の活動にも大きな影響を与えてくれた。
「背景が異なる人たちにどんなブリッジを架けたらいいか?」
について、僕なりの解を探すようになったのだ。そしてそこに面白さを感じるようになってから、いろんなジャンルの人たちと対談させてもらう機会が増えた。もし同期たちからの連絡が無かったら、僕の活動は今とは違ったものになっただろう。
それまでの延長線のことをやるだけでは、次のレーンには行けない。
誰かが新しいDNAを運んできてくれる。それをキャッチして、真正面から飲み込んだときに、「はじめての景色」が見えてくるのかもしれない。
同期たちのおかげで、何度目かのデビューができた。ありがとう。2月にも同期にまた機会をいただけた。次のデビュー戦に向けて走ることにした。
・最新刊もこの流れから生まれました。