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負けを極める
勝ちと負け。
どちらがいいかと言われれば、多くの人が勝ちだろう。もちろん、僕もそのひとりだ。
どうやったら勝てるか。
カラテ選手としての試合を終えてからも、いろんな場面で自分で勝ち負けを設定しては、「負けたり、負けたり、負けたり、ときどき勝って喜んだり、また負けたり」を繰り返している。
これはある柔道出身、それも全日本強化メンバー選手だった女子総合格闘家選手に聞いた話なんだけど。
まだ学生時代のヤワラちゃんこと、あの田村亮子選手と何度も対戦した選手がいた。
その選手はもう、何をやっても勝てない。
田村亮子選手と当たるところまではいく。
実力もそんなに歴然とした差があるわけじゃない。ただ相性がとことん悪いのだろう、田村亮子選手には連敗続き。勝てそうなのに、やっぱり勝てない。プレイヤーとして「天才」を五感で感じざるを得なかったのだろう。
あるとき、その選手は考え方を変えたそうだ。
「私は田村亮子を光らせる」と。
つまり、「田村亮子選手がいかに華麗に、かっこよく、文句なく勝てるにはどうしたらいいか?」これだけを徹底的に研究したらしい。
この手になれば田村はこうくる。
田村はあの体勢に持っていきたい。
彼女はこのパターンが好き。
ライバルであり、競争相手であることを、いったん脇において、「真剣勝負で田村亮子選手が勝てる確率に貢献する」そのために研究したそうだ。
手を抜くわけじゃない、
ただ、内的目標は、「華麗に負ける」。
田村亮子の負け役に徹するーーーー彼女なりの勝負は続き、見事な負けが重なった。
そして何度目かの対戦で、
ふと、
「あ、こっちが空いてる」
と思って身体をぱたんと動かしたら、それで一本をとってしまった!
天才のパターンを知り尽くした彼女は、田村亮子選手に勝ってしまったのだ。
僕は当事者ではなく、元女子総合格闘家からこの話を聞いただけなのだが、このエピソードには深い学びが含まれている気がする。
勝つ、ということになれば、つい「相手を凌駕しよう」という意識が働きがちだった僕に、「負けるを飲み込む大きさ」そして「相手を尊重し、相手に沿う」道があることに気づかせてもらえたのだ。
・負けと失敗から気づいたこと集、でもあります。