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格闘技医学検定 記述問題 解答例 

格闘技医学検定には、選択問題と記述問題があります。ここではご参考として記述問題の回答の一部を公開しています。

今後の格闘技の発展や安全性確立のために、どんなことが必要だとお考えですか?ご自由に記してください。(400文字以上)


空手指導者・岡田努さん

先日とあるTV番組で10年前に起きた韓国の船舶事故について取り上げられていて、その事故の原因などを深く考えると、今の格闘技、武道武術の安全につながる点が多くあるのではないか?と考えました。

船舶事故の大本の原因は違法改造、利益重視の加重超過などが挙げられていましたが、私は乗船する際の安全確認や安全指導(浮き輪や防具、小舟のありか等)を一切していなかったことや、安全よりも利益を重視したことによる「考え方自体」に重点を置きました。

ここから学べることは、安全を二の次にした考え方の恐ろしさ、古くからある道場などでよくみられる、「今まで大きな事故がなくやってこれたのだから、これからも大丈夫」という慢心、新しいジムなどで見られる利益を重視したことによっておこる安全指導不足。

指導者自身の怠慢によって引き起こされる関心の無さ等、一概には信じられないほどの問題が多く存在していることを懸念しております。

 一般的に子供を教育指導する場合には教員免許という国家資格が必要なのに対し、武道や武術、格闘技などの指導にはそういった資格が存在しません、各道場内やジム内では先輩後輩、実力などで指導等を行っているかと思いますが、本当の意味で安全とは何か?と考えた事のある指導者がこの日本においてどれだけいるのか?子供達の命を預かっているという責任の重さを本当に感じているのだろうか?と考えます。

 脳や心臓など、外からではわからないものを判断する時に大切なのは知識であると考えます。決して自分達の経験からくる考え方ではないと思います。医師や医療関係者であるならばともかく、医療に携わらない人間の経験など一切当てにする必要はありません。

ほんの数十年前までスポーツの世界では「水分をとってはいけない」「うさぎ跳びが脚力を強くする」等の考え方が当たり前でした。

今でこそそれは間違いだと胸をはって言えますが、ではなぜ間違いなのか?までちゃんと説明を出来る指導者はどのくらいいるのだろう?と考えます。

私自身まだまだ勉強不足は否めませんので偉そうなことは言えませんが、それでも自分の指導している空手でどのような危険が存在し、もし万が一にも救急手当が必要な場合にどのように動けばよいのか等は常に勉強しています。

冒頭の船舶の事故の際に、修学旅行で乗っていた多くの子供達が犠牲となりました、多くの大人たちが乗船していたにもかかわらず、子供達の安全を守るためにどのような事をしたら良いのか?を知らない人間ばかりだったそうです。安全確保の為の動き方、パニックにならないように誘導、救助が来るまでに多くの知識と協力があれば亡くなったり行方不明になった多くの子供達の命は救えたかもしれません。

これと同じ事が今の格闘技、武道武術、格闘技、スポーツ全般の指導者にも当てはまると私は考えます。

道場やジムなどで、怪我や病気等突発的な事が起きた際に、正確な知識と方法を知っていれば守れる命があります。

たまたま今まで大きな事故や怪我がなかっただけで、これから先も同じ様に行くとは限りません。世の中は大きく変動します。ですから私達も常に新しい知識をアップデートする必要があるのだと思います。

長々と考えを書きましたが、まとめとして今後の格闘技の発展や安全性確立の為には、指導する側もされる側も同様に安全について学ぶ必要があると考えますし、それは正しい医学の知識を常にアップデートする必要が重要だと考えます。

いちばんいけない事は「今までは大丈夫」などの曖昧な感覚での指導、救急に対する無関心、そして何より自分の責任を自覚していない事。

これらの問題を解決する事がこれからの発展や安全性確立には必要不可欠であると私は考えます。


大東流合気柔術指導者 中吉繁幸さん

私は脱力、力と力のぶつかり合いをやらない、無理な身体の使い方をしない等を重点的に稽古をしています。

格闘技医学の〈競技の最大の才能とは〉に書いてあるイチロー選手のエピソード、『普段から力を抜くようにしている』、『子供のように力を抜いていれば大怪我につながりにくい』、『身体ごと移動してリーチの範囲内で取ったりする』など試合や練習中だけでなく日常の生活動作でも身体を壊しにくい動きを習慣化することが大事だと思います。

〈身体の声を〉に書いてあるように『その声が周囲に届きやすい環境づくり』も大事なことです。以前よりは減りましたが日本のスポーツ界は根性論や精神論,先生や先輩の言うことにはうなずくしかないというところがあります。安全性向上および社会的評価どちらにもあてはまると思うのですが身体動作、ものの考え方どちらも力を抜くこと『日常に武を』。格闘技、武道、武術だけが強いのではなく礼儀や人に対する配慮など稽古を通して伝えていくことで安全性向上そして社会的評価も得るこができると思います。

またAEDの取り扱い方等を受講して道場生や保護者の方に安心してもらえる環境づくりをすることも必要なことだと思います。


キックトレーナー LIGHT HOUSE GYM 篠原広耀さん

指導者としての立場から考えると、安全性を確保するために、まずお客様の情報を知ることが大切だと思います。

 既往歴だったり、今日の体調、精神状態など。それを元にレッスンを構成していく。体調が万全ではない方には追い込み過ぎず、様子を見ながら負荷を上げていく。体調が良い方でもレッスン中に調子が悪くなる可能性もあるのでお客様の様子を見ながらレッスンを進めていいく。

 また水分補給の頻度も程よく、怪我をした時の対処法、など、 お客様がより安全に快適に楽しく動いてもらえるように、指導者側が正確な知識を持つことが大切だと思います。 お客様の安全性を確保して、満足度が上がれば、格闘技の需要も伸び、格闘技が発展していくと考えます。

 選手を指導する際も同じ。ある程度無理をさせることも大切だが、見極めが重要。それも知識がないとどこまでやっていいか分からないので、正確な知識を持つことが必要だと思います。 安全性確保にも格闘技が発展していくためにも、指導者が日々学んで、正確な知識を取り入れて安全に快適に楽しくお客様を指導していくとが大切だと思います。

元キック王者・LIGHT HOUSE GYM代表 江幡睦さん


 格闘技の発展に関しては キックボクシングという競技がエンターテイメントとして盛り上がる事もとても大事だと感じますが、 同時に日本のキックボクシングだからこそ伝えられる「武道」の精神が育まれていけば、 エンターテイメント精神が兼ね備わった素晴らしい競技になるのではないかなと思います。

そしてキックボクシングはエクササイズ効果も高く、精神性も高められる運動です。

しっかりこのエクセサイズとして身体を理解して教えられる技術と「武道」で教わる精神を伝えられるトレーナーが増える事がキックボクシングの未来に繋がると考えてます。

 格闘技をやる上での安全面での知識や、運動力学などを学ぶことも大切だと思います。 キックボクサーだからキックボクシングを教えられる訳ではなく、こういう知識を多くのトレーナーが身につけて「キックボクシングフィットネス」が多くの人に正しく人々の「健康」となるように。これからも学び続けたいと思います。

空手家・空手指導者 纐纈卓真さん



 まずは指導者となる人が安全知識を学ぶことが大切だと思います。 「心臓震盪」や「セカンドインパクトシンドローム」など、死に繋がることにも関わらず、僕は安全に関する知識を教わるまでは、その言葉さえ空手界で聞いたこともなかったですし、そんな状態なので僕自身がその危険に晒された時も全く気付きませんでした。

 そして、そういった危険は「知らなければ目の前にあるリスクにさえ気付くことさえできない」という事は、僕自身が学ばせて頂く中で身に沁みたことでした。

 特に空手の道場などは指導者の考えだけで道場内の雰囲気が一変する部分があるのですが、逆を言えば指導者が学び、リスクを知れば道場の安全意識も一変する可能性は非常に高いとも思いますので、指導者として道場生の安全を守っていかなければいけない立場の人が最も積極的に学んで貰うことが、今後の格闘技の発展や安全性確立のため必要だと思います。

 また、現在の空手道場はどこも子どもが多いため、成長期の子ども達に於いては「心臓震盪」や「セカンドインパクトシンドローム」をはじめ、骨が未発達であることや、成長中で頭部外傷のリスクが高いことなど、様々な面で大人達よりもリスクが高いことを知っておく必要があります。

 可能であれば選手をしているお子さんを持つ保護者の方々や子ども達の相手をする壮年部の方々にも学んで頂くことで、多くの層に「安全に強くなる」という前提が広がっていくのではないかと思います。

理学療法士・柔道トレーナー 勝井洋さん


 競技、スポーツとしての発展を考えるときに、安全性の確立は必須だと思います。そのためには、まず重大事故が起こり社会的に批判されることのないような「予防」が大切と考えます。具体的には、脳震盪や心臓震盪など命に関わる事故を防ぐことが優先的に考えられます。

 特に発達途上の子供はさらにそのリスクが高まると考え、練習段階から頭部や胸部への打撃や無理な投げ技を行わないようにすることを指導者が理由も含め伝えることは大切だと思います。大人であっても起こりうる事故ですが、格闘技の特性上どうしても避けられない面はあるので、予防の徹底と、正確な応急対応を知っておくことが必要です。

 頭部外傷に関しては復帰への段階的なチェック、心臓震盪は心肺蘇生法やAEDの使い方、救急車を呼ぶなどの手順の事前周知が必要だと思います。多くの選手・関係者が「知ること」で自然と現場の考え方も変わると思うので、SNSでの発信や現場に関わる方への講習会・テストは有益だと思います。

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