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手の届く範囲
同じ道場で、すごく強い後輩がいた。地道にフィジカルを鍛えていた彼は、打たれ強く、パワーもあり、技の威力も相当なものだった。
まだ一緒に練習し始めた頃は、スパーリングにおいても、まだ技術と経験で何とかなっていたけれど。後輩は重量級。軽量の僕はすぐに、どうにもならなくなった。
その後輩は道場推薦で全日本にレギュラー出場するようになり、有名な選手とも互角の戦いをするようになった。
「二重作先輩、あの〇〇選手と再延長まで行きました」
嬉しそうに、そんな報告もしてくれた。もし僕が〇〇選手と戦ったら、本戦はおろか、1分もたないと思う。それだけ後輩は実力をつけてきた。
だが、ひとつ気になることがあった。
「強い選手といい勝負をする」それが、彼の目標に思えたのだ。実力はある。でも上まで行けない。有名選手にも勝ってはいない。
僕はある時、その後輩にこのように話した。
「全日本の常連選手になったのは、すごいことだ。だけど、小さな大会でいいから、いちど出場してみて、優勝してみたらどうだろう?きっと何かが変わると思うんだ」
だが、彼は全日本にこだわり、地方大会には出なかった。
結局、キャリアの最後まで「善戦マン」で終わってしまった。
僕は選手としては逆のタイプだった。当時は、新人戦、道場内試合、県大会、に出まくっていた。すると「優勝者として次のトーナメントに挑む」といった経験ができた。「調子に乗った自分では勝てない」という経験も。「背負うからこそ勝てる」という経験もできた。
小さくとも山を登ってはじめて見える景色がある
実力的にはすごく強かった後輩。もし彼が、地方大会王者として全日本に挑んでいたら、選手として大成したんじゃないかと思う。
「上を目指す」「意識を高くもつ」は大切だ。だけどそれと同じくらい「手の届く範囲の結果を出す」って重要だと思うのだ。
・今も手探り、パフォーマンス医学