「クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime」
2019.08.29(Thu.)
「クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime」
@国立新美術館
死,宗教,超越性といったテーマが,人物写真と照明,映像,インスタレーションによって表現される.鯨とコミュニケーションを取る装置を用いたインスタレーション<ミステリオス>が一番良かった.金属的な音が鳴き声に聴こえる.クセナキスの曲に用いられる電子音に通じる音.工業的な物質から生命を感じるというのは,恐らく彼の作品に通底しているものの一つとしてあるのではないか.
ヤニス・クセナキスは現代音楽家であり,建築家でもある.電子音楽が有名で,ル・コルビュジエと共同したブリュッセル万博(1958年)のフィリップス館が建築では代表作.
一方で,人物写真と照明を用いた作品群は,教会におけるロウソクの火のメタファーに映る.火が消えるように,照明の明りが消えると死ぬ.しかしそこに映し出されている人物は,過去のある事件や戦争によって命を奪われた名もなき人々である.彼らはそうして脚光を浴びせない限り,再び火が灯ることは無いと言われているようにも感じる.解説文の中で,被害者と加害者の善悪を取り払い,故人である事実のみを表現しているという.
もしそうであるならば,加害者側も同列に配置しても良かったのではないかとも思うが,恐らく,彼の幼少期のナチスドイツに関連するトラウマに起因する偏執症的な気質が,突き動かしているのかもしれない.ミニマリズムやポップアートの潮流の上に,死をモチベーションとした心の揺れ動きを感じる.
それは最後の来世のセクションまで引き継がれていて,もどかしい気分.しかしながら,本展で初公開された新作や後半の映像作品は,もはや死後の世界や霊性との接続を指向していたり,超越的な自然観を意識していたりもしていて,死へのトラウマを超えた先の制作を試みているようにも感じた.
人物写真をモチーフにした作品は正直,表現や意味合いを含めてあまり共感できるものではなかったけれど,後半は良い意味で意味内容が分かり切れない部分が多くて魅力的だった.人物背景を知らないと作品の魅力が分からないっていうのはやはり厳しい.
とはいえ,図録を見て分かったけど,ボルタンスキーの作品を展示するには日本の美術館は狭すぎる.恐らく回顧展という性質上なるべく多くの作品を展示したいというキュレーションと展示構成サイドの意図は分かるものの,魅力を伝えるにはもっと余白がほしかったのが正直なところ.