宇宙際タイヒミュラー日記

今日も良い天気だった。
少しだけ商店街を歩いた。
大学生っぽいカップルは結構見かけたけれど、ここ数年観光で盛り上がっていたこの街としては異常な人の少なさだ。
どのお店も閉めてしまったから仕方ない。
みんなゴールデンウィーク明けには再開できると信じて耐えているが、どうなるかは分からない。
いくつかのお店は、それまでしてこなかったテイクアウトをはじめていた。
ラーメン屋さんとか創作料理屋さんとか。
ポジティブなリアクションだ、と言う以外はできない。
お母さんたちはどうしているのだろう。

駅前広場のベンチにはたくさん人がいた。
帰りにコーヒー豆を買った。
インドネシア。
コンビニで84円切手を一枚買った。
パートのお母さんがレジをしてくれたが、寿のデザインしかないけど大丈夫ですか、と訊かれたので、大丈夫です、と応えた。
快晴で、気持ちがいいから芝生の上で瞑想したかったが、私は恥ずかしがり屋なので、勇気が出なかった。
外出自粛のムードが強まってから、今こそ瞑想に時間を費やすチャンスだ!と思ったが、なかなかできない。

この2、3日は、数学に興味が沸いてきて、YouTubeで数学の講義形式の動画ばかり見ている。
高校の頃、数学は一番興味があったが、どんなに興味を持っていても授業の内容が全く理解できず、自分の中に、数字によって表現される抽象世界や数学的論理性を理解する素養が全然ないことに気付いて愕然とした。
ほんとに数学となると、まるでダメだった。
むしろ数学が出来れば、絵なんて描かなかったかもしれない。
数字が3つ並ぶと、それだけでちょっと頭がこんがらがった。
英単語ならいくら並んでも、視界に理路整然としているのに。
好きなのに、苦手というか。
いや、単純に憧れているだけだったかもしれない。
ただ、努力以前に、私の本来の能力として数学的思考が抜け落ちていたのは、確信している。
何度でも言うが、まるで、ダメだった。

最近また私の中で数学ブームが来ているのは、京大数理解析研究所の望月新一教授が、2012年に数学史上の超難題である"ABC予想"を証明した、と発表した論文の中で示された新たな数学理論「宇宙際タイヒミュラー理論」に興味を持ったからだ。

実は論文の発表当時も大変に興味を引かれて、WIREDなどで「未来から来た論文」とかって取り上げられているのを見て、興奮した記憶がある。
しかし、望月教授が発表した論文はあまりにも難解過ぎて、当初は、どのメディアも、なんか日本人の数学者が歴史的な偉業を成し遂げたらしい!くらいの情報しかなかった。

その後も、500ページに及ぶ内容の難解さゆえ、査読(論文の内容が正しいかどうかを他の研究者が検証する期間)が進まず、まず論文内に登場する理論に精通した人物を育てるところからのスタートだったらしい。

そして、「宇宙際タイヒミュラー理論」の斬新さは、これまでの数学を根底から覆すようなものだったので、既得権益からの不当な妨害も数多くあった"らしい"。
(望月教授は、論文を取り巻く陰謀について、ご自身の楽天ブログで痛烈に批判している。独特のブラックユーモアが非常に面白いので、ぜひ読んで欲しい。)

しかし、ついに今年の4月3日に論文が正式に専門誌に掲載されることが決定され、8年越しに望月教授の研究が、現状正しいと認められたのだ。
8年という歳月の中で、超難解な内容を噛み砕いて話してくれる本や動画も増えて、私みたいなド素人も、やっときちんとミーハーできるようになったのだ。

本当に本当に恐縮だが、簡単にどんな理論かまとめたい。
私みたいに数学が全くダメな人でも分かるように超アバウトに、そして、理解が曖昧な専門的なことは一切言わないようにする。
(このnote自体、個人的な日記の延長くらいなので許されたい。)

まずは、ABC予想について。

これは1985年に提唱されて以来、数学上の超難問として多くの数学者にモチベーションを与えてきた問題で、ある数の個数に関する「予想」(まったく証明されていないけど、およそこういう結果が期待されるだろうと、提案された問題)だ。

そして、なぜこの問題が難しいかというと、それは問題の中で加法と乗法(足し算とかけ算)が、非常に複雑に絡まりあっていて、そのことが問題の難易度を非常に高くしているらしい。

実は、足し算とかけ算の関係は、あまりに複雑であるため、これまでの人類史上で、その関係性について完璧に理解した人間は一人もいないらしい。

望月教授は、ABC問題に取り組む中で、この難問の解決は既存の数学の枠組みでは不可能だということを悟って、問題解決のために一から新しい数学理論を作り始めた。

要するに、この人は、今までの数学とは異なる全く新しい数学をたった一人で作り上げてしまったのだ。

そのまったく新しい数学こそが、「宇宙際タイヒミュラー理論」。

まず名前からしてトンデモな感じがする。
しかし、その内容は分かれば意外と受け入れやすい。
もちろん分かるといっても、やりたいことの雰囲気が、分かる程度の「分かる」だ。

キーワードは「宇宙際」という言葉。
ここで言う「宇宙」は私たちの想像する宇宙ではなく、あくまで数学的な「宇宙」。
意味としては、もうそれ以上何も、それを包含するようなことがない最大の括り、だ。
つまり、「宇宙」を一番大きな集合として、その「宇宙」をさらに内包する集合はありませんよ、とする概念だ。
そして、この「宇宙」=数学の舞台の"一つ"とする。

ここまで言えば、次に控える「際」という言葉から、この理論が一体何をしようとしているのか想像できた人もいるかもしれない。

この「際」は、国際の「際」と同じ意味だ。
つまり、国際を、「国家間の~」と言い換えたとすると、「宇宙際」は、「宇宙間の~」という意味になる。

そう。この理論は、数学の舞台(世界観)を唯一絶対の一つに制限することをやめて、複数の数学の舞台を設定し、それら複数の舞台を行き来しながら、問題解決を図ろうという理論なのだ。

もう少し分かりやすく言うと、例えば「足し算」という数学の舞台があったら、「かけ算」という別の数学の舞台も用意して、それぞれをそれぞれの「宇宙」の中で考えながら、問題(例えばABC問題)にアプローチするときに、「宇宙」間で、通信(対称性通信)をして、それぞれの「宇宙」で見つけてきたことを、別の「宇宙」に持ってきて、解決しようとするのだ。

そして、その通信の際に生じるバグ(歪み)のようなものも計算して、きちんと値(定量化)を出してしまおうと言うのである。

なんだか超壮大なスケールで、凄そう!ということくらいは伝わるだろうか。
私は、こういう壮大なアイデアに弱いので、すごく惹かれてしまった。

すべての宇宙を一斉に操作しながら一つの答えを目指す。

なんか、かっこいい。

以上。