英検ライティングと,卒・英検ライティング
英検フォーマットの功罪
一口に英検フォーマットと言っても,きっと色々あるのだろう。
ここでは下に書いたものを「英検フォーマット」とし,その功罪をまとめる。
白か黒かを求める
何かの問題に対して「白か黒かで答えろ」というのは「難題」であることをミスチルを聴かない私でも知っているし,「白と黒のその間に無限の色が広がってる」ことはミスチルを聴かないけど,勤務校のYouTubeのサムネ作りのためにカラーコードを少し勉強した私は知っている。(いや,むしろカラーコードを勉強したことで色の有限性を感じたのが実際のところだが)
過去に一度だけ英検1級にチャレンジした時のお題は確か「死刑制度に賛成か反対か」だった。「そんなこと200語やそこらで書けと?」という感じだが,まぁ大人なので,色々白と黒の間にあることを分かりながらもどちらかに寄せて理由を3つ書いた。
あまり嘘は得意ではないので自分が本当に思った方で書いたはずなのだが,agreeと書いたかdisagreeと書いたか,覚えていない。そして今ならどう書くかも分からない。死刑制度に対する私の知識や思考した経験が乏しいと言ってしまえばそれまでなのだが。
中高生がよく受ける準2級のライティングのトピックを見てみる。
過去3回の英検準2級で出題されたテーマがこちら。
Which do you think is better for people, borrowing books from libraries or buying books at stores?
"Do you think it is a good idea for people to have a car?"
Do you think school classrooms in Japan should use air conditioners in the summer?
「死刑制度」の問題や,上の3つ目「教室でのエアコン使用」の問題については,白か黒かを求めてくることも,まぁ許せる。
なぜなら「政策」的なことに関わり,「死刑制度を認めるべきか廃止すべきか」「学校の教室にはエアコンを完備すべきか」といった白か黒かの投票が求められる可能性もあるからだ。
一方,過剰な一般化が必然的かつ無意味に求められる問題はいただけない。
"Do you think it is a good idea for people to have a car?"に対して,英検の出している模範解答には"if people have a car, they can move easily from place to place"という理由が述べられているが,車移動がかえって不便な土地も普通にあるだろう。そういう様々な状況・立場の人の存在を考えた譲歩の姿勢が求められていない。問題文の(意味上の)主語は"people"とされているが,これを自らの英作文において(関係代名詞などを使って)一定程度限定することが認められるべき,というか求められるべきだと私は考える。でなければ,ほとんどの文章が過剰な一般化に起因する「過言」になってしまうからだ。
「図書館か書店か」問題は,著者への還元を考えたら「(1)書店で新品を買う,(2)図書館で借りる,(3)書店で古本を買う」の順番も大いに考えられる。そのあたりも譲歩したり,話題を限定したりすることが積極的に促されて然るべきだろう。
一方で,英検で求められる数十語から数百語のライティングで白と黒のその間に無限に広がる色をあれこれ表現するのもまた容易ではない。
究極的にはagree/disagreeのどちらかと明確には言えないのだけど,「ひとまずここではagreeの意見として1パラグラフ書きますね」というスタンスでライティング出来ればいいのかもしれない。書こうと思えばdisagreeの立場でも書けますよという状態で書く。つまり,外的に立場を決められるディベート的な感覚だ。
テストとしても実際に書かせることが可能な数十語の中で両論併記を求めるのも新たな形骸化を産むことが予想され,片方の意見だけを述べさせる英検フォーマットもそういう現実を考えれば悪くはない。
ただし,それならば,採点基準として「主語や話題の意図的な限定」を求め,「過言」にならないことを重視するべきだ,と言っても過言ではないと信じたい。
また,「あなたの意見」という言葉を使うのをやめてみるのも手ではないだろうか。
「QUESTION について,あなたの意見とその理由を2つ英文で書きなさい」
という問題を,
「QUESTION について,賛成・反対どちらかの立場を想定し,その主張を支える理由を2つ英文で書きなさい」
ぐらいに変えてみる。
これだけで英検のライティング問題に向かう生徒の姿勢も,それを授業内で指導する教師の見方も変わるのではないだろか。
表現の幅が狭い
英検フォーマットには表現のワンパターンさという特徴もある。
日頃お世話になっている大学院生の方がL2学習者のライティングの研究をされており,その方によると,なんだかんだ英検フォーマットの英作文は読みやすさの点で高く評価されるらしい。
確かに言いたいことは明瞭だし,ある程度内容を考えてほしいと思ったら,こうして型の部分は整えておく方がむしろ学習者もやりやすい。
自力で一文を書くことがまだ難しい生徒たちには,その一文を書くことに集中するべく,論理展開の部分は英検フォーマットに任せてしまって構わないと思う。
最初から真っ白の紙を渡すより,英検フォーマットの定型語句を入れたプリントで書かせるところから始めても全然良いだろう。
一方,もう英検フォーマットから卒業してみてもいいんじゃない?というレベルの生徒もいる。
中3にして英検準2級や2級を取得済みで,英検フォーマットでしっかり伝えたい内容をグローバルエラー無く書けるようになってきた生徒達だ。
そのまま放っておけば英検フォーマットを使って準1級とかのレベルのライティングに挑戦していくのだろうけど,そこに書き方のオルタナティブを導入したい。
私は,英検フォーマットの最大の弱点を「重み付けの無さ」だと考えている。
理由を2つ述べる際,1つ目の理由の前に"First",2つ目の前に"Second"が置かれる。
この時,その2つの理由は全く同等に重要なものだろうか。
仮に2つの理由の重要性が(書き手の中で)異なるのであれば,英検フォーマットを乗り越える必要がある。
"Most(More) importantly"とか,"Last but not least"とか,使える表現は色々あるだろうが現状の英検に向けた英作文だけをやっていたらなかなか多くの表現に触れることは難しい。
"Second"の代わりに"In addition"を使う生徒も結構多いが,ただ「語数稼ぎ」のために使っているのがほとんどだ。「なんとなく"First","Second"だと味気ない」ぐらいの感じからで良いから,何か違いを生むために使ってほしい。
おわりに—授業での英作文指導をどうするか
英検フォーマットの英作文について「白か黒かを求められること」と「表現の幅の狭さ」の功罪を述べてきたが,ここまで書いてきて気付いたことは結局は日頃の授業の在り方次第だろうということだ。
主に英語の初級学習者もある程度の文章が書けるようになるという観点で見ると英検フォーマットはそんなに悪くない。
一方,英検フォーマットで全て済んでしまうという考えに繋がる指導がなされてしまうと,白と黒の間に想いを馳せるような思考は促されず,表現の幅も広がってこない。
最初は英検ライティングをディスるだけの記事になるかと思って書き始めたが,書けば書くほど「自分がちゃんとやればいいや」という気持ちになる。
こういう「書いたからこその気づき」を得られることが,書くという行為の最大の価値だ。
というわけで,次回の記事では「卒・英検フォーマット」を目指した生徒のライティングを紹介してみようと思う。
(生徒にnoteの存在がバレた今,堂々と許可を貰いに行けるのはメリットだ。)
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