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【連載小説】稟議は匝る 17-2 東京・日比谷 2007年5月9日 (専務との対決)
扉の中を見渡すと、役員会議室では、すでにみな着席しており、1番奥に岩井専務が座っている。
順に審査部長以下審査の担当ラインはもちろん、法務部長、コンプライアンス部長までも下を向いて座っていた。
今日の会議はあくまで支店と審査部の協議のはず、関係部署の出席は予定にない。
どうしてと、そんな置かれた状況を考える暇もなく、山本が末席に座ると、支店長が稟議の説明を行うため、立ち上がろうとした。その瞬
【連載小説】稟議は匝る 17-1 東京・日比谷 2007年5月9日 (専務との対決)
東京都千代田区有楽町1丁目。
皇居が見える場所に、農林銀行の本店がある。
戦後の混乱期にGHQが本部を置いたその場所は、大理石造りの古い建物を包み込むように近代的なビルが建設されている21階建てのビルだ。
札幌支店の職員が本店に出張する場合、千歳空港7時発の便で本店到着が9時20分。千歳空港までは電車で40分程度のため、結果、当該職員の起床は5時前後となり、寝不足での本店詣でとなる。当然、札幌
【連載小説】稟議は匝る 16-3 札幌すすきの 2007年3月16日 (ろここ、大熊の話)
「それからあとは、2階のガキどもが言った話であまり変わりません。
弁護士を頼み、双方訴訟となって、つい先日、和解しました。和解内容は、1、本件を口外しない、2、教授は私に150万円を支払う、3、訴訟費用は双方負担そうほうふたん、と、4、教授は指定する店に出入りしない、です」
「もしかして、指定する店って、ここのこと」
「そうです。北大で学会があった時は、必ず二人で来ていました。私はすごく気に
【連載小説】稟議は匝る 16-2 札幌すすきの 2007年3月16日 (ろここ、大熊の話)
小1時間ほどたっただろうか、来年52歳で役職定年を迎える総務課長が、缶コーヒーを2本持って、ベンチの隣に座ってきた。
「上着も着ないで寒いだろ、無糖とカフェオレどっちにする」
雪は降っていないが、大通り公園の気温計は-と表示してある。誤作動じゃない、まさに今、氷点下に気温が下がっていっている途中ということだ。山本は、今の今まで、怒りで気温も感じなかったが、ワイシャツ1枚で、我に返ると途端に冷え
【連載小説】稟議は匝る 16-1 札幌すすきの 2007年3月16日 (ろここ、大熊の話)
その日、山本は大熊に誘われて、すすきのへと繰り出していた。
普段よく連れ立っていく大衆酒場に足を向けようとする山本を制し、大熊は口数少なに山本を先導していった。
どれほど階段を上り下りしたか分からない。通りからはビル自体が全く見えない場所であろう、階段や廊下に荷物が散乱している奥の奥に、その店はあった。
店の前は、今まで通ってきた路地裏の雑然とした雰囲気はみじんもない。
ここだけ急に別世界
【連載小説】稟議は匝る 15 札幌・社宅 2007年3月15日 (格付けと予算)
農林銀行札幌支店の社宅は、札幌オリンピックの会場ともなった大倉山ジャンプ競技場を眺める閑静な住宅街にある。
その社宅の202号室。いつもどおり、山本が0時過ぎに、怪しげな外国の通販番組を見ながら、晩御飯と晩酌を楽しんでいると、横に座っている妻が、話しかけてきた。
「そうそう、今日、社宅の奥様達の茶話会があったんだけど、格付けってなにかしら。みんな銀行出身の奥様達ばかりだから、当たり前のように話