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脱サラドラマーブルース3

親父が通販で衝動買いしたユーキャンのCDプレイヤーがやっと売れた
まだらボケで新しい物好きだからタチが悪い上に、齢77でパソコン使うからネットでバカスカ買いやがる。メルカリには感謝しか無い。
売れ残ったら棺桶に全部ぶち込んで一緒に焼いてやろうか。

1918年に世界で大流行したスペイン風邪。
これは最初に発見されたのがスペインだからこの名が付けられたが、
発症は中国だと言う説がある。
このパンデミックによる死者は1億人にも上ると言う恐ろしい規模だ。
現代の日本人がほぼ死滅する事になる。

それから100年。世界は新たな流行病に侵されることになる。
新型コロナウイルス(covid-19)は中国武漢のウィルス研究所から世界に凄まじい勢いで広がり、世界は誰も経験したことのないパンデミックを嫌というほど経験することになる。2023年12月現在で罹患者は2億5千万人、死者数は500万人近い被害をもたらす。

年明けの我々のバンドwonkyの練習は1月と2月の2回のみだった。
最後の2月の練習の時、止める家族を振り切って渋谷に向かうと、スタジオはおろか、普段は人が溢れて入れないカフェも、入り放題の閑古鳥が鳴いている有様だった。当時練習後の飲みに使っていた店(jemではない)は元々ガラガラだったので違和感はなかったが。

3周年のライブでは豪華にも原宿クロコダイルで開催されたJemStyleも他人事で済まされる訳がなかった。元々酒をあまり飲む方ではない私は、バンドの練習後や、ライブの打ち合わせなどで行くことはあっても、純粋に飲むために訪れたことはない。元々人付き合いがあまり得意でない上に、いわば恩人の様なW氏に気後れしていたし、行くと常連客に挨拶させられたりするのが煩わしかった。まぁ私の事はどうでもいいが。

酒の提供が禁じられ、飲み屋がカフェ営業を強いられたりと、不条理な行政と無能な政治によって苦しめられ、駅前からチェーン店の居酒屋が姿を消し始めていた。そもそも駅前に人がいないのだ。ライブカメラで見た土曜昼間の渋谷スクランブル交差点は衝撃的だった。

緊急事態宣言中の渋谷(2020年3月)

映画でよくある、朝起きたら誰もいない世界の設定が現実世界にそのまま投影されたのだ。恐るべきことだ。自分の目が信じられなかった。
この頃、私の職場ではチームを2つに分けて一日置きに出勤したり、デスクに衝立を置くなどの対策に追われた。父親が水虫から蜂窩織炎という皮膚病になり、立てなくなって入院したりと、プライベートでも大変なことが多かった年だ。

翌年の2021年6月に、知人と約束して久しぶりにJemStyleを訪れたが、3時間いたが他に誰も客は来なかった。W氏の他に学生のアルバイトが来ていた。
客の数と店員の数が同じだ。この時点で300万の持ち出しがあると聞いた。

また更に翌年、他の友人と行ったときはカフェになっており、やたら女子が多かった、この時W氏はワンオペで、店内を駆け回っていた。

ワードセンスだけはある東京都の緑のおばさんが「三密」とか言い出し、密集、密接、密閉を避けるよう呼びかけた。
地下の狭い飲み屋はこれにすべて該当する。しかもバンドのスタジオやライブハウスでのライブ鑑賞などは禁忌とされる時期が長く続いた為、唯一の趣味ともいえる音楽を封じられて苦しかった。

マスクも相まって本当に息苦しい3年間を過ごした。読者の皆さんも同じ思いをされた事だろう。

実はこのコロナは、当初から何度も波が訪れると言われていた。確か最後の波は第9波だったと記憶している。2020年の1月の時期に、私は店を閉めてしまった方がいいのではないかと思っていた。コロナ前から決して順調ではなかった店がこんな未曾有の災厄で生き残れる訳もないし、どのみち年齢的にあと数年しか続けられないのだ。借金だけ背負うことになるのは目に見えている。しかしW氏の店への思いも知っていた私は到底そんな事を言えるはずもなかった。

今現在、店がどのような経営状態なのかわからないし聞く気もない。
W氏とはあくまでも音楽のつながりである。分を超えた事は出来ない。

2023年5月、あらゆるコロナの規制は解除され、ライブ、里帰り、スポーツ観戦に飲み会と、4年ぶりに日常が戻ってきた。

しかし、変動をやめない渋谷の変化にJemStyleは更に巻き込まれていくのだ。



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