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LOG ENTRY: SOL 15

 今日はやっぱりいつもの駐車場で。なんとなく開放感があっていい。オフィスからは少し遠いけれど、この距離感もちょうどいい。歩きながら、少しずつ心が起きてくる。通り道にちょっとしたスタバ出張所があるのもいい。朝飯を抜いたときは、ドーナツだって買える。

 僕の強みは何だろう。このJPLにおいて、僕は「何屋さん」になれるだろう。ここは、皆それぞれ自分の所属こそあるが、各プロジェクトは横断的に所属をまたいで人を「借りてくる」ので、僕らは皆「何屋さん」という看板を出してレンタル業を営んでいるようなものだ。「○○と言えば誰」と言われるような強い専門を持つことも、ひとつの生き方と言える。

 というわけで、今自分が身に付けておいた方がいいと思うことを少し勉強してみる。僕の博士論文の兄弟のような分野。ひとつの画面で火星ローバーの資料を見ながら、別の画面でその分野の調べ物。そうするうちに、ひとつアイデアが閃いた。今まで何度もその分野のことを脳に浮かべてみたことはあったはずだが、そこまでめくってみたことはなかった。うん、いけそうだ。

 僕の(悪い?)癖だが、僕は何かいいことを思い付きそうになったら、いったん据え置く。いっきに深掘りしない。そうやってアイデアを冷静と情熱の間でいったん寝かせて熟成させているのかもしれないし、もしかしたら「いけるかも」状態をしばらく楽しんで、ぬか喜びを先送りにしたいのかもしれない。長く研究者をやっていると、ぬか喜びに終わることはごまんとあるから。

 何かを書き留めておくノートを持っていないことに気付いた。勉強はいったん中断して、JPLストアに買いに行くことした。常に持ち歩いて、ちょっとしたメモを取っていく手帳のようなものが欲しい。お店に入って、いろいろと物色しているうちに、水筒も欲しかったことを思い出し、手帳と水筒を買って帰ってきた。明日からコーヒーを作って持ってこよう。

 諸々の事務処理をやっていると、隣のキュービクルの同僚J.M.が「ランチに行かない?」と誘ってきた。ロン毛&メガネ時代のジョン・レノンのような風貌。数日前にも誘ってくれたが、そのときはあいにくもうランチを食べた後だった。彼と2人でカフェテリアに向かっていると、彼の友達が現れた。3人でカフェテリアに入り、思い思いの注文をし、支払いを終え、テーブルにつくと、さらにもう1人現れた。アジア系の整った顔立ちの女性。すると彼女が日本語で話しかけてきた。不意を突かれて、とっさに日本語が出なかった。

 彼女はJ.M.の奥さんなのだそうだ。彼らは夫婦ともJPLで働いているのか。彼女は、日本とネパールのハーフだそうで、ネパールは全体的に標高が高く、J.M.が息切れしているのにネパール人は皆けろっとしていたとか、日本の中学の体力測定で、背筋強すぎて背筋力計でエラーが出たとか、楽しい話をいろいろ聞かせてくれた。ランチを済ませて、僕とJ.M.はオフィスに戻ってきた。元来人見知りの僕にとって、こうやってランチに誘ってくれるご近所さんがいるのはありがたい。彼はJPL歴3年と言っていたけど、何屋さんだろう。

 以下は、僕のオフィスの廊下がちょっと面白いので紹介したいと思う。

僕のセクションのオフィス。築何年か知らないけど、JPLの他の建物に比べると、割と新しめで小綺麗な方だ。

扉や廊下の壁や天井には、人工衛星やローバーのシルエットがでかでかと描かれている。未来的な壁画だ。なかなかオシャレ。Team Xとは、様々な部門のエンジニアが分野横断的に集まってひとつのチームを作り、ミッション概念設計を同時並行的にいっきに仕上げてしまう作業の場。

一瞬、火星人?と思ったけど、たぶんロボット。まるでスターウォーズのドロイド。かわゆす。こんな時代来るかな。

 帰りは、郵便局と銀行に用事があったので、17時過ぎに退社。駐車場からメインゲートにかけての道が超混雑していた。なるほど、皆17時頃帰るのね。なんとか郵便局が閉まる1分前に駆け込むと、局員さんが一言「You made it!(やったわね)」と笑顔で言いながら、そそくさと施錠をしていた。

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