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LOG ENTRY: SOL 9

 今日はいつもより少し遅めに家を出た。昨日とは打って変わって、今日は快晴。ここは高い建物がないから、空が広い。

 高速に乗ると、逆方向はいつも渋滞しているが、幸い僕の通勤方向は混まない。その代わり、最初は東方向に向かうので、真正面から太陽が照り付けてきて、高速の運転は結構怖い。サングラスってかっこつけるためだけにあると思ってたけど、本当に役に立つんだな…。JPLに着いたのが9時前。これだけ遅くなると、もう近場の駐車場はどこも埋まっている。山の上の方に停めて、下山するしかない。遠い…。

 キャンパス内には銀行がある。それもATMではなく、有人の店舗だ。その名も、Caltech Employees Federal Credit Union (CEFCU)。名前の通り、カリフォルニア工科大やJPLの職員のみが口座を持つことのできる銀行だ。CEFCUの利率は、普通の銀行の(譲渡性)定期預金と同じくらい良いので、先輩の教えに従って、ここに給料が入るように就職前に口座を開いておいた。車や家のローンにも良いそうだ。

 またキャンパス内には、ランチを食べられる社食のようなカフェテリアが全部で3つある。それぞれ、Red Planet CafeCrater CafeOrbit Cafeと名前が付いているが、職員たちは、167、190、303と建物の番号で呼んで区別している。ただし、3つともCulinArt Groupという同じ会社が入っているので、メニューは若干の違いこそあれ、基本的に代わり映えはしない。今日は初めて190に行き、ここでしか食べられないというサラダを食べてみた。まぁまぁうまかった。健康的。ちなみに、キャンパス内に夜までやってるお店はないので、遅くまで仕事をする場合は、わざわざ車で街まで行くしかない。

 午後は、スーパーバイザーのJ.H.が、また別の有力者L.F.のところへ連れてってくれた。今度は初老のおばあちゃん。魔女の宅急便でニシンのパイを焼いてたみたいな、感じの良いおばあちゃんだ。

 JPLでのエンジニアの働き方はさまざまで、複数のプロジェクトを掛け持ちして、それぞれのプロジェクトに対し、毎週働いた時間分をチャージして自分の給料を満額そろえるというやり方が一般的。僕は、ハーフタイムは火星ローバーの仕事が決まっているが、もう半分のハーフタイムでどのプロジェクトに就くか選ぶことができる。別の言い方をすれば、探さなければならない。そしてプロジェクトによっては、3ヶ月でまとめるような回転の速いものもあるので、就職したからといって安心してはいられない。常に社内ミニ就活が必要なのだ。こちらの記事を見ていただくと、友人の小野がこのような環境の中でどうやって生き抜いてきたかがわかるだろう。

 そういう背景があって、J.H.やR.S.は僕をいろんな有力者に合わせてくれているのだ。つまり、上司や先輩が僕を売り込む営業を一緒にやってくれているようなものだ。僕はさしあたって50%は埋まったが、残りの50%はL.F.との仕事になるかもしれない。彼女曰く、まだどの程度予算がつくか来週末までわからないそうだ。が、種は蒔いておいて損はない。僕は自分の研究経験をできるだけ簡潔に、できるだけ網羅的に話した。ひととおり話して別れ際、彼女はこう言った。「JPLってね、就職しても10年くらい経たないと、どんな仕組みで回っているのかわからないのよね」。僕は自分のデスクに戻って、彼女に自分の履歴書と彼女が一番興味を持ってくれた研究の論文を送った。

 僕は現在、東大の非常勤講師でもある。今冬には数回ほど、遠隔から講義もする予定だ。だが、これをするにはJPLで副業許可なるものを取る必要がある。自分の上司と、そのまた上司と、さらにそのまた上司と、最後にEthics Office(倫理担当室?)のサインが必要なのだ。なかなかややこしい手続きのようだが、大学の講師くらいならほとんどお咎めはないらしい。僕はその書類を仕上げて、J.H.のところへ持っていった。

 それから、J.H.が僕に「何でも好きなコンピューターをオーダーしていいよ、スペックも妥協せず一番高いやつをオーダーしなさい」と言ってくれたので、お言葉に甘えて最強のセットアップを注文したら、総額が90万円近くになってしまった。一般的な技術系企業に就職して自分のコンピューターをそろえるときの相場は知らないが、僕個人でこんなに高額なセットアップを購入したことはないので、密かにびびっている。許可が下りるかどうかは来週のお楽しみ。もしかしたら、J.H.が血相を変えて「調子に乗るなばかもぉぉおん!」と怒鳴り付けてくるかもしれない。

 さて、今日も長い1日だった(遅く出社したくせに)。車まで登山。熊に遭いませんように。

熊には遭わなかったが、シシ神様に遭遇。かの有名な宇宙映画「シシとの遭遇」ってこれのことか。夜になったらディダラボッチになるかも…!早く帰ろっと。サササ≡≡≡ヘ(* ゚-)ノ


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