LOG ENTRY: SOL 188
50日も更新が空いてしまったが、その間に家族が来た。そして春が来た。
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前回のSOL 138が、単身赴任終了直前。家族の渡米を手伝うために、1週間の休みを取って東京へ。有給休暇が足りない分は、あらかじめ年末年始と土日とRDOを返上して働いておいて、その振り替え休暇ということにさせてもらった。パッキングは引越し業者が全部やってくれるので、僕の滞在の一番の目的は、最後の1週間、妻が子供を預けて友人や同僚との送別会に思いきり行けるようにしてあげることだった。妻の送別会は、毎日びっしり詰まっていた。
子供たちの保育園が開いてくれた送別会では、クラスのおともだちひとりひとりが描いてくれた絵や思い出の写真を綴じたアルバム、先生が寝る時間も削って作ってくれたであろうプレゼントに、思わず涙してしまった。妻が12年勤めたTBSラジオにも行った。スタジオに入るのは久しぶり。入社からお世話になっている【ゆうゆうワイド】の悠里さんやスタッフにご挨拶。この一連の送別を経て、僕は僕の人生に家族を巻き込むのだということを実感した。
いつかのジョブフェアでもらったSpaceXのノートを娘にあげといたら、ひたすらひらがな2文字の名前を43ページにわたって3760個書いていた。なんでこんなことをやろうと思ったのか聞いたら「思い付いたんだよ」と。思い付いただけでよく飽きもせずこれだけ続けられたな。変な子。
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家族が合流すると日記を書く時間がなかなか取れない。単身赴任中に、日記を書いたり映画を観ていた時間は、全部子供たちに取られてしまった。…現に今も、長女が『スーパーマリオラン』でどうしてもクリアできない面があるといってiPadを持ってきたので、5分くらいかけてクリアしてあげて、ここに戻ってきた。これはこれで楽しいのだが、このままでは、あまりに多くの出来事が成仏できずに彷徨ってしまうことになる。てなわけで以下、この50日に起きた出来事をダイジェストで、ひぁうぃごぅ。
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妻、移民
1月29日は、妻が初めて移民としてアメリカに入国する日だった。実はこの2日前に、トランプが「外国人テロリストからアメリカを守る大統領令」にサインして、指定7カ国の関係者の入国が禁止され、アメリカは荒れに荒れていた。僕はすでに永住権保持者としてアメリカに入国済み、子供たちはボストン生まれなのでアメリカ人だが、果たして妻は大丈夫だろうか。
上司から心配のメールが届き、にわかに不安になってきた。僕も妻も日本生まれ日本育ちだし、指定国への渡航歴もないので、おおかた大丈夫だろうが、入国はときに、審査官の心証ひとつでコロコロ変わる危なっかしさがある。
それにしても、なんという引きの強さだ。もともとこれより1週間早く入国する話だったのが、妻の希望で渡米を1週間延ばしたところにこの大統領令。もしこれで万が一入国拒否されたら、運命を呪うしかない。
そんな一抹の不安とは裏腹に、別室審査(初めて移民として入国するときのSecondary Inspection)は和やかに終了した。グリーンカードの送付先を伝えると「アルメニア人は好きか?」と聞かれた。僕らの住む街は、アルメニア人が多く住む街だからだ。ご近所にアルメニア人友だちがいるわけでもないので「まだわかりません」と答えると「ははっ、正直なやつだ」と一笑されて、僕らの入国は無事完了した。妻、移民。(;´∇`)=3ホッ
国境の長いトンネルを抜けると、異様な米国であつた
スーツケース3個、ダンボール2個、ベビーカーをカート2台に乗せて、長い行列に並んだ。税関を抜けて一安心。と思ったら、ここからが想定外だった。ものすごい数の人がプラカードを掲げて立っている。あちこちで上がる歓声。おそらく無事に入国できた家族、親戚、友人を歓迎する人の声と、それを祝福する周りの人だかりの声。そして外に出ると、この騒ぎ↓
"LET THEM IN!"
"It's him, not US"
"NO BAN, NO WALL"
"REFUGEES WELCOME!"
"TRUMP IS THE TERRORIST"
"Love your neighbor as yourself"
"MAKE AMERICA GREAT FOR EVERYONE"
"NO HATE: REFUGEES AND MUSLIMS ARE WELCOME HERE"
そういうわけで、妻は入国早々手荒な歓迎を受けたわけだが、どうにか無事に僕の家に到着し、僕の家はその日から家族の家になった。
その数日後、JPLのあるアメリカ人エンジニアが海外から帰国した際に拘留されたというニュースがあった。入国審査官にJPL支給の携帯を取り上げられ、暗証番号を言わされ、データをコピーされ、その間他の拘留されている人たちが眠る簡易ベッドのある部屋で待たされたそうだ。入国後、彼はJPLの顧問弁護士に相談し、JPLはどんなデータを抜き取られたか、携帯に何かインストールされてないかなど、科学捜査を行ったという。同じ週末に日本から戻った僕は大丈夫だったけど、なんかおかしいぞアメリカ。
また、外国人インターン制限に関する通達も出たそうだ↓
僕の知るアメリカは「国家」ではなく「システム」だった。世界中から優秀な人材が集まり、その能力を遺憾なく発揮する間だけ滞在許可が下り、そこで成果を出した者に永住権が与えられるシステム。トランプ大統領はアメリカを「国家」にしようとしている。「国家」になれば、世界におけるアメリカの特異性は失われるだろう。
とはいえ、トランプが大統領になってしまった以上は、こうしてあらゆる問題で誰かが正面からぶつかり(それは痛みを伴うものだけれども)、改めてひとつずつどうあるべきかを問い直していくことに「トランプ大統領」の価値を見出していくべきだ。バラモスみたいなもんだな。
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【嫁語録】
嫁「NASAってさ、暇人の巣窟でしょ?」
俺「‥‥(°ー° )」
俺(暇人か‥‥そーかもしれんね)
【解説】そもそも人類の叡智が集まった集団が、なぜ宇宙という高尚な、人類の喫緊の課題ではないことに取り組んでいるのか、そんなに天才が集まっているなら、もっと人類にすぐ役立つ卑近なことに知恵を使ってほしいのに、ということらしい (´ー`)┌
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『Mars 2020』着陸地点ワークショップ
火星ローバー『Mars 2020』の着陸地点を選定する第3回ワークショップが3日間かけて行われた。エントリー候補地は8つ。僕も入社以来、小野のチームに参加させてもらってきた。数年かけてレース形式で着陸候補地を段階的にダウンセレクトしていくプロセスは面白い。科学者たちが各候補地の科学的魅力をアピールしあう、まさにM(ars)-1グランプリ3回戦。
実際に議論されている内容はというと、我々エンジニア的には「始生代に~風成砂丘を~苦鉄質鉱物が~砕屑性の~層序して~、なるほど、宇宙地質学全然わからん。とりあえず生き物いそうなとこ教えれ」という具合である。
このワークショップで頻発するワードに"Biosignature"というものがある。英辞郎にも日本語ウィキにも載ってなく、何て訳すんだろうと調べてみたところ、このブログに。クマムシ先生の「生命の痕跡」以上の訳はないんだろうな。あるいは「生痕」とか?クマムシ先生からは「専門家の間ではそのまま『バイオシグネチャー』でよいかな」との回答をいただいた。
8つの候補地のうち、ホールデン・クレーターは、我々エンジニア的に一番「なし」だったが、科学者からの評価もダントツで低く、超カワイソス苦笑。「どの点から見ても評価が低く満場一致で却下する」の意で、"holden"という動詞ができるレベル。結局、決勝ラウンドに残ったのは以下の3候補:
・コロンビア・ヒルズ(グセフ・クレーター)
・ジェゼロ・クレーター
・北東大シルチス
驚いたのは、コロンビア・ヒルズが決勝ラウンドに生き残ったこと。ここは、我々エンジニア的にも、科学者的にも、決して評価は高くなかった上に、2004年にスピリットがすでに行った場所でもあったからだ。僕の印象では最後の最後で大逆転だった。有力者たちによる最後の密室会合で何かが動いたのではないかと邪推しております┃電柱┃_・)チラッ
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イマージョンスクール
妻がこのタイミングが渡米に踏み切ったのには大きく2つの理由があった。ひとつは、自身の米国永住権を獲得するための入国期限が差し迫っていたこと。もうひとつは、娘(5)の夏の小学校入学に向けて、日本語の面接試験を受ける必要があるためだ。
ロサンゼルスには、公立の現地校でありながら、イマージョンスクールと呼ばれる、英語と外国語の二言語教育を行う学校がある。英語50%日本語50%で授業が行われる学校があるのだ。イマージョンとは「浸すこと」という意味。生徒たちを言語に「浸す」のだろう。僕は家族が渡米する前から、説明会などに出向いて情報を集めていた。
イマージョンスクールのもともとの目的は、片方アメリカ人、片方日本人のような両親を持つ子が、どちらの言語も習得しながら成長できるような学校だったのだろうと思うが、近年は両親ともにアメリカ人でも、子供にもうひとつ言語を習得させるためにイマージョンスクールに行かせる家庭も増えてきたそうだ。実際に、説明会にも両方とも日本人でない夫婦が何組か来ていた。
ただし、クラスの中にもともと日本語がしゃべれる子が全くいないのでは、イマージョンにならないため、クラスの定員の少なくとも半分は日本語面接試験をパスする程度にはしゃべれる子で埋めたいのだろう。「兄弟がすでに通っている」などの優先順位に従って振り分けたあと、最終的にはくじ引きで決まるそうなのだが、日本語面接試験をパスし、日本語サイドにカウントしてもらえれば、比較的入学しやすいという話も聞いていた。
かくして娘は日本語面接試験を受けた。娘が先生に連れられて、奥の部屋に入っていく姿を見たときは、成長したなぁ(☍﹏*)ジーン…と少し感動。しばらくして先生に連れられて戻ってきた娘は無事面接にパスし、後日イマージョンスクールの合格通知も来た。日本人の両親の元に育った普通の5歳なら誰でもパスするし、あとはくじ運なので、合格というのも大げさで憚られるが、ひとまず希望の学校に入れそうで一安心。あとは、予防接種、健康診断、歯科検診などの必要書類を集めて提出するだけだ。
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西日本新聞、2月14日朝刊
子供の頃うちにいつもあった西日本新聞。福岡の新聞といえば、最初に挙がるのが西日本新聞だ。僕が読むのはもっぱらラテ欄と将棋欄とほのぼの君だったが、2月14日の朝刊ではとうとう読まれる側になってしまった。当の僕は福岡にいないので全く実感がないのだが、福岡の両親や友人や母校の恩師が喜んでくれたのが嬉しかった。
記者の方の記事のまとめ方にプロの技を見た。ついつい正確を期して長く細かくなってしまう僕の話を誰が読んでもわかるよう簡潔に色彩豊かに書いていただいている。ひとつだけ校閲させてもらえるなら、僕には「難関突破し」てきた自覚などなく、ただわくわくすることが長年変わらなかっただけだと思っている。
ネット版はこちら。Yahoo!ニュースにも一定期間掲載されていたようだ。一昨年、僕の宇宙ガソリンスタンドの研究がちょっとした注目を集め、US版Yahoo!Newsにも記事が出たとき「次こそは日本版Yahoo!ニュースに掲載されるよう頑張ります」とうそぶいてまわっていたのが、現実になった笑。
また、僕の記事の少し前に出た、同じく西日本新聞の歩容認証技術の記事。友美さんは、僕とは違うセクションだが、同じJPLの同僚で、知覚システムのグループにいる。昨年JPLに来たが、それまでは九大の准教授をされていた。福岡同郷仲間だ。あと、お酒が好き(ry
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JPLの本部ビルの前には更紗木蓮の木が1本だけある。今はもうピークを過ぎて色褪せてしまったが、2月の終わりくらいに咲いているのを見たときは「冬終わるの早っ」と思ったものだ。ボストンでかれこれ10年雪に埋もれていた僕にしてみれば、そもそも冬など来ていなかったのだが。
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読売新聞、3月5日朝刊
もうひとつ、新聞記事。こちらは読売新聞の「NASAで活躍する日本の研究者」という科学面の企画。全国版だ。JPLからは、小野とセットで取材を受けた。最初この記事を見たときは、二人の笑顔と背景が、昭和レトロタッチな広告画っぽくて笑ってしまった。こんな科学雑誌ありそう笑。
少年少女よ、夢を抱け╭( ・ㅂ・)و ̑̑グッ
写真撮影中、二人で笑顔を作るために、しりとりをしている。彼が途中、僕の娘の名前をラリーに交ぜてきたので、彼の娘の名前も言わせようとしてトスを上げたら「ミスチル」と答えやがりました。(´ー`)┌フッ
実は一昨年、同じ記者さんに宇宙ガソリンスタンドの件で取材を受けていたのだが「話のスケールがでかすぎて日本ではウケない」とかで本社で没になったそうだ笑。とはいえ、日本も少しずつ宇宙ベンチャーが目立ち始めてきた。このままどんどん宇宙開発に開けていくことを願うばかりだ。
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【娘語録】
娘(5)が大好きなたい焼きをほおばりながら、
「長生きしてよかったぁ~(*´ڡ`*)」
子供が生まれてから、Tax Return(確定申告)で返ってくる額がえげつなく上がったのだけど、今回は転職&引っ越ししたからか、さらにえげつなかった。。最初にそれだけ取られてたってだけの話だが、ボーナスみたいでうれしい($∇$)。いろいろと小ネタはたまっているけれど、長くなってきたので、それは次回の日記ででも。今日はこのへんで。ばぃなぅ。
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