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LOG ENTRY: SOL 66

 長い長い大統領選がようやく終わった。ボストンやロサンゼルスで会う僕の周りの人は皆ヒラリー派だったけれど、きっと積極的ヒラリー派も消去法的ヒラリー派もいただろう。口だけヒラリー派やほんとはトランプ派だっていたかもしれない。が、少なくとも目に見える範囲では、周りもニュースも「最終的にはヒラリーだろう」と言っていたので、なんだかんだでヒラリーなんだろうな、程度に考えていた。

 僕自身はどっち派でもなかった。二人の候補をあまりよく知らないし、興味を持って調べたこともないし、感情を振り回されたこともない。投票権もないけれど、どちらがアメリカや世界にとって「結果的に」良いのかを深く考えたこともなかったので、○○派を名乗る決定的な何かを持っていなかった。女性の大統領も見てみたいかなー、とか、トランプになったら僕や妻の永住権が危ぶまれるのかなー、くらいにしか接点を感じていなかった。

 そんな僕でも、トランプが大統領選に勝利したのにはさすがにちょっと驚いた。あ、何かが変わってしまうかも。そんな気持ちになった。ただ、心のどこかでちょっとだけわくわくする気持ちがないわけでもない。こんなことを書くと軽蔑されるかもしれないが、僕は昔からどこか、非常事態や逆境にぞくぞくして少しだけ楽しくなってしまうような不謹慎なところがある。

 NASAでは、トランプが大統領選に勝利した翌朝、ボールデン長官から全職員にメッセージが届いた。その中に"Trump Administration"という言葉を見て、本当に次の時代がやってくるんだ、と改めて実感した。MIT時代からの長い付き合いで、その日一緒にランチを取っていた同僚S.D.は、その字面にひどく落胆していた。そして「おれたちの永住権は大丈夫なのか」「もし永住権を取り上げられたら、今やってる仕事もアクセスしてる情報も全部見れなくなるな」「オフィスにも入れなくなる」「ここも辞めなきゃいけないな」「というか国に帰るしかないか」と半分冗談で話した。

 長官曰く「我々は皆、トランプ政権が、オバマ大統領が掲げ、君達が可能にしてきたこのビジョンをこれからも継続していくと確信している」。そして、

"Take away my people, but leave my factories, and soon grass will grow on the factory floors. [But] take away my factories [and] leave my people, and soon we will have a new and better factory."
私から人々を取り上げ工場を残すならば、まもなく工場の床には草が生い茂るだろう。私から工場を取り上げ人々を残すならば、まもなく私たちは新しくより良い工場を建てるだろう。

というカーネギーの言葉を引用して、全職員を讃え、感謝の意を述べていたのが印象的だった。長官のメッセージはどこから出回ったのか、こちらの記事で全文読めるようだ。ボールデンはNASAの歴史の中で、初めてのアフリカ系アメリカ人長官であり、3番目に長く長官を務めているが、おそらく近い将来トランプは次の長官を選ぶだろう。

 前回の日記から2週間空いたので、ここからは、この2週間にあったことをつらつらとランダムに。

カリ免許ゲット

 ついにカリフォルニア州の運転免許(通称カリ免)が送られてきた。カリ免が届くまでの間、マサチューセッツ州の免許にはパンチで穴が開けられているので、バーで年齢確認されるときに「これは無効になってるからダメね」と言われ、グリーンカードを見せて何とか凌いだこともあった。これでナンバープレートも免許もそろって、正式なカリフォルニアンドライバーになった。

 先日NASAの駐車場で、黒塗りのTesla Model Sを見かけた。ナンバープレートがNASA ECOだった。カッケーー(*゚∀゚)ーー!! ナンバープレートの7文字、少し余計にお金を払うと、他の誰かとかぶらない限り自分で決められる、というのは知っていたけど、実際にDMVのウェブサイトに行ってみると、リースではできないようだった。試しに「NASA JPL」と入力してみたら、当然ながら誰かに取られていた。

Palos Verdes

 ロサンゼルスの南西に、太平洋に半島状に突き出したPalos Verdesという町があり、そこに海に向かってスターバックスがあるという。小野が書き物するときに行くと言っていたので、ドライブがてら行ってきた。家から車で約1時間半。スタバに入る前に海沿いを散策。天気こそ曇りだったが、普段の自宅と職場の往復では見られない開放的な景色だ。いましがた結婚式を挙げたばかりの二人がウェディングドレスの姿で歩いていた。"Congratulations"と、すれ違う人々に声を掛けられていた。僕はしばし空想に耽り、火星の暦を考えた。

 火星の1年は668日と、地球よりかなり長いので、1週間12曜日制にしよう。火星には月が2つあるので卫曜日を加え、さらに地曜日、天曜日、海曜日、冥曜日を加える。1週間は「日 月 火 水 木 金 土 卫 地 天 海 冥」となる。ただし、冥曜日は年に4回ほどスキップする。1年は56週間。日土卫冥を休みにしよう。地球のブルーマンデー症候群を持ち込まないために思い切って月も休みにしよう。火星だけに火曜からワークウィークが始まる。4日働いて2連休、3日働いて3連休のサイクルで。

JPL伝説

 うちのセクションでは、毎年クリスマスに新入社員が寸劇かショートムービーを作る伝統になっている。それで今年の新入社員は何をやろう、というミーティングが週2で開催されている。今年は、JPLが80周年なので、それを記念して、JPL伝説をパロディ化したムービーを作ろうということになった。新入社員はひとり最低1シーンは登場することになっている。

 最終的に選ばれたエピソードは3つ。①JPLが地球を破滅させようとしている宇宙人と交信していると思い込んで、JPLに侵入しアンテナを焼き払おうとした人物の話。②火星ローバーが撮影した写真に写り込んだ謎の生物「ジェリードーナツ」をJPLが詳しく調査しなかったとして、ある学者に訴えられた話。③ランチに出かけ銀行強盗をして帰ってきて普通に仕事してた事務職員の話。いずれも穏やかではないねぇ(笑)。

HAKUTO

 Google Lunar XPRIZEという、Googleがスポンサーとなって開催されている民間による月面無人探査を競うコンテストがある。2017年末までに月面に純民間開発の無人探査機を着陸させ、着陸地点から500m以上走行し、高解像度の画像を地球に送信したチームに優勝賞金2000万ドル(約20億円)が贈られるというコンテストだ。

 日本から唯一参加しているHAKUTOというチームがあり、その代表をされている袴田さんとは2回ほどお会いしたことがあった。彼はispaceという宇宙ベンチャーのCEOでもあり、XPRIZE後は宇宙資源開発事業を行っていく予定だ。宇宙資源開発は僕の専門分野でもあり、袴田さんがあるとき僕の研究を見かけて声を掛けていただいた、というのが知り合ったきっかけだった。

 その袴田さんが仕事で西海岸に来るということで、先週末「HAKUTOパーティー」に参加してきた。宇宙資源開発業界の近況や法整備の話をしたり、HAKUTOやispaceのプレゼンを聞いたりして、とても楽しかった。HAKUTOの技術をリードし、ispaceのCTOでもある東北大の吉田教授も来られていた。翌日にはカリフォルニア工科大で吉田先生のトークも聞いた。

 宇宙資源開発は、僕も「JPLで力をつけて、いずれは携わりたい」と思っている業界なので、個人的に袴田さんたちには日本の宇宙ベンチャーの中で一番注目しているし、何か力になれることがあればなりたいと思っている。が、あまり表立った行動を取ると、JPLとの利益相反になるっていうね(笑)。

左が吉田先生、右が袴田さん。HAKUTOの名前の由来は白兎。日本では月と言えばうさぎだ。袴田さんの最初の3文字HAKにもかかってるのかな。良い名前だと思う。HをTに変えれば僕の名前にもなるし。今、月面探査ローバーの命名コンテストを行ってるそうなので、応募してみては。

NASAで麻雀

 ある日、ひとりでランチを食べていたら、友人N.H.に誘われて麻雀をすることに。僕が座ったテーブルは、僕から時計回りに、AIエンジニアのヴィンセント(シャンチー指しの香港人)、宇宙生物学者デイビッド、事務職の女性ウィニーだった。対面のデイビッドと右隣のウィニーは見るからに素人だ。僕とヴィンセントは多少経験あり、といった面子。

 捨て牌をぐちゃぐちゃに置いていく中国式ではなく、ちゃんと並べていく日本式で振り聴ルールもあり。時間がなかったので東3局までで終わったが、3局ともデイビッドが鳴きまくり、3局ともデイビッドがウィニーに振り込んでいた。僕とヴィンセントはあがりも振り込みもしなかった。でも楽しかったー。将棋やシャンチーはやろうと思っていたが、まさかNASAで麻雀をするとは思わなかった。またやりたいなー。

遠隔授業

 僕は東大の非常勤講師でもある(もちろんJPLにはちゃんと申請して許可を取っている)。新領域創成科学研究科という柏キャンパスにある研究科でたまーに授業をするのだ。「最適システム設計」という、少しぼやっとしたタイトルの授業だ。1コマ1時間45分。今年度は、もう西海岸に来ちゃったので、遠隔授業をすることになっていて、今週1回目だった。

 学生さんは大半が日本人。だけど講義は全部英語。画面越しの遠隔授業は、学生の反応が手に取るようにはわからないので、インタラクティブさに欠け、少しやりにくい。僕としては、もっと対話を混ぜながらやりたいのだが。

 この講義の間に大統領選の結果が出たので、授業の最後に学生に伝えたメッセージが「トランプ勝利」っていう(笑)。

小学校の説明会

 小学校の説明会に行ってきた。家族はまだ東京にいるが、上の子が入学することになるかもしれない学校は見ておかなければならない。平日の朝に開催されるので、仕事には遅めに行くことにした。どうせいつものことだけど。

 この学校は公立の小学校なのに、日本語50%・英語50%で授業を行っている少し珍しい学校だ。クラスの半分は日本語を主言語とする子、もう半分は他言語を主言語とする子、という風に定員が決まっている。日本語を主言語とする子は比較的少ないので入りやすいという噂は聞いたことがある。実際に説明会に来ている人もほとんど非日本人の両親だった。おそらく日本語や日本文化に興味のある人たちだろう。

 面白いのは、小学校高学年になる段階で、日英半々のクラスの子は、普通の英語だけのクラスの子と比べて、英語の成績でも劣るどころか勝るのだそうだ。クラスを少し見学させてもらうと、ちょうど日本語で授業が行われていた。アメリカ人らしき子たちが日本式に整列したり合図で動いたりするのが新鮮だった。もう1校同じようなプログラムの学校があるので、来週はそちらの説明会に行く予定だ。

MacBookに鍋こぼす

 最近映画熱が止まらず、この2週間もいくつか映画を見た。
・『アバター』
・『エウロパ』
・『ラスベガスをぶっつぶせ』
・『おくりびと』
・『おっぱいバレー』
・『カラスの親指』

 感想は割愛するが『おっぱいバレー』見ながら鍋を食べていたら、うっかり器をひっくり返して、ポン酢まみれになったキーが6つほど凹んだまま戻らなくなったのだ。完全には死んでおらず、強く押せば機能するのだが、ものすごく使いにくい。一番よく使うenterキーや十字キーを含む6つなので、これは修理してもらった方が良いと思い、アップルストアのGenius Barに予約を取って持っていった。Genius曰く、修理に出せばキーボード総交換になってしまい、保証範囲外なので$755かかると言われた。

 そこでサードパーティーに持って行くことにした。すると「これはおそらく有料になるけど、診断だけは無料でできるわよ。今日中に連絡するから費用を聞いて判断したら?」と言われたので、MacBookを預けた。しかしその日、待てど暮らせど連絡はなかった。週末をはさんで翌週、電話をかけてみると「もうできてるよ」と言われ(え?まずは費用を教えてくれるんじゃなかったっけ?)と思いながらお店に行ってみると、なんと無料でキーを交換してくれていたのだった。Geniusが$755かかる修理を、彼らは$0で済ませたのだ。サードパーティー万歳。

Expediaの不思議

 アメリカでは再来週はサンクスギビングウィークだ。そこで3日余計に有給休暇を足して、10連休を確保し、日本に一時帰国することにした。この2ヶ月、別に死ぬほど働いていたわけではないが、不眠症で昼夜が逆転したり、爪を切るのも忘れるくらいには心の余白はなかった。

 航空券はいろいろ探した結果、今回はExpediaで取るのが一番安かった。このExpedia、航空券を取るときによくあるのが、全く同じ旅程であっても、なぜかexpedia.comexpedia.co.jpで値段が全然違う現象。僕が取ったロサンゼルス−羽田の往復便、全く同じ日程・便名なのに、.comでは$1231、.co.jpでは$872だった。なんでこんなことが起こるの?不思議。やっぱり言語は複数読めたほうがいい。

 そんなわけで来週末、3ヶ月ぶりに子供たちに会える。あと、妻と『聖の青春』絶対観に行く。あと、もつ鍋食べたい。

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