LOG ENTRY: SOL 21
先週末、とうとう新車をゲットした。購入ではなく36ヶ月のリース*。1ヶ月間JPLが借りてくれていたレンタカーを返却して、今日初めてマイカーで出勤。ようやく自分の足で通勤できるようになった。あとは近々カリフォルニア州の運転免許を取得して、1ヶ月以内に自動車保険に加入しなければならない。免許はどこかのRDOで取りに行こう。他州からの書き換えでも学科の試験は受ける必要があるので、勉強しなきゃな。保険も勉強しなきゃ。
*リースとは、返却時の市場価格を想定して、そこまでの差額をリース期間で割って月々の支払い額とする、という仕組み。期間が終了した時点で、返却するか、あらかじめ決めた価格で買い取るか選ぶことができる。リースは購入に比べて契約時の支払い額(これをdrive-offと呼ぶ)が少なくて済むので、まとまったお金がない人にはありがたいシステムだ。
NASAカラーにした。昔から青は好きだ。シールとか貼りたいけど、リースだからなぁ。返すときにきれいに剥がれるかなぁ。それにしてもこのガジェットみたいな運転感。しばらくは毎日の運転が楽しみになりそうだ。
JPLが携帯電話を買ってくれるというので、iPhoneが欲しいと先週ITオフィスに伝えていたら、今朝「電話して」とメールが入っていた。早速オフィスの電話機を使って電話をかけた。オフィスの電話を初めて使う用事が携帯電話の購入の件というのも皮肉な話だ。まるでInternet Explorerを使って最初にやることが、Google Chromeをインストールすること、みたいだ。
ITオフィスに電話してみると「来週あたりiPhone 7が注文できるようになるけどどうする?」ということだった。iPhone 7は巷ではもう発売しているのだが、JPLでは仕事用携帯としてJPL仕様に設定するのに少々時間がかかるようだ。iPhone 7は、3.5mmヘッドフォン端子が廃止されたことや、ホームボタンが物理的に凹むボタンじゃなくなったことなど、一部で不評を買っているようだが、仕事用携帯だし、せっかくなので一番新しいやつにしてみる。
その後、先週金曜にしそびれたパスワードの設定で、ある人のオフィス(パリス・ヒルトンとブリトニー・スピアーズの名札を掲げたオフィス)を訪れると、ちょうどパリスはいなくて、ブリトニーがいたので、彼に代わりに設定をしてもらった。用事を済ませて自分のデスクに戻り、パリスに「あなたのオフィスに行ったけど、あなたがいなかったので、the other person(もう一人の人)にやってもらいましたよ」とメールすると、「彼の名前は、"the other person"じゃない。Jamesってんだ」と返ってきた。さすが、ユーモアの塊。あ、今思い付いたけど「ブリトニーちゃうんかい」って返せばよかった。
今週から3つのプロジェクトが本格的に始まる。まず1つめ、火星ローバーのシステム設計のミーティングがお昼に入っているので、それまでその勉強。今はまだひたすらインプット。大量にある資料や論文に目を通し、現状どこまで研究が進んでいるのかと何が問題なのかを把握しなければならない。この段階では、ありとあらゆる可能性を排除せず、ローバーシステムが選び得るアーキテクチャー(設計概念)をできるだけたくさん書き出す必要がある。
お昼のミーティングは、このプロジェクトの責任者E.N.との1対1のインフォーマルなミーティング。これから毎週このミーティングをやっていくことになった。現時点で、僕の知識が彼の知識を上回っていることはないので、素人であることを思いっきり利用できる。とにかくどんなことでも疑問に思ったことや思い付いたアイデアを全部話した。E.N.は「それはありかもしれないね」「それはこういう経緯があってこうなったんだよ」など、1時間超にわたってひとつひとつ丁寧に答えてくれた。こういうスタイルのミーティングはものすごく勉強になるし、毎週アイデアの練り甲斐がある。
そして夕方前に小野とミーティング。こちらのプロジェクトは、彼の書いた火星ローバーの走行ルートを最適化するプログラムを使って計算を回しつつ、必要に応じてプログラムを更新していくという仕事だ。その場には2人だけしかいないので、日本語であれこれ話しながらやっていると、まるで大学生同士が一緒に授業のプロジェクトでもやっているかのような感覚になる。が、ここは紛れもなくNASAで、これは紛れもなく実際に飛ぶミッションだ。
最後に、家探し旅行や引越し旅行で生じたレシートの写真を携帯で撮って、人事部に送る地味な事務作業をして帰宅。今日も帰りに吉野家へ。もうひとつ食べてみたいメニューがあった。アンガスステーキ牛丼。だが、出てきたものは見た目からして、うーむ、といった感じ。そして食べてみて。。。うん、これは普通の牛丼の方がいいな。。。
お隣の酒屋さんで買い物。ここは韓国人のおばちゃんが店番をしているお店。実はこのエリア、すぐ近所に従軍慰安婦像が建てられたことで物議を醸している。2年前、日系人住民たちが撤去を求める訴訟をカリフォルニア州連邦地方裁判所に起こしたのだ。だがそれは棄却された。そして先月の連邦高等裁判所の控訴審でも原告の主張は退けられたようだ。
この店、2ヶ月前に家族で家探し旅行をしたときにも立ち寄ったのだが、支払いのときに「どこから来たの?」と聞かれたことがあった。この街がそういう街だということは知っていたので、そのときは反射的に「日本です。長いことボストンに住んでましたけど」と微妙な答えを返したのを覚えている。そのときは妻も娘も一緒にいた。おばちゃんは「そう」と微笑んだ。
そして今日、またしても「どこから来たの?」と聞かれたときは一瞬止まった。「え?」と一度聞き直すフリをして考え、すぐ「ボストンです」とだけ答えることにした。特に会話は続かなかった。そのおばちゃんがどういう意図でこの質問をするのか僕にはわからない。僕個人としては、慰安婦像の件は特に意見はない。正直どちらでもいい。ただ、政治レベルの問題を個人レベルに持ち込むような愚かなことだけはどちらの国民にもしないでほしいと思っている。それだけだ。政治的衝突があっても個人は仲良くできることを、僕はこの10年の経験から知っている。
何か最後に少し深刻めいたこと書いてしまいました。。
ところで今日「木星の衛星エウロパで水らしき物質が吹き出すのを観測した」とNASAの会見で発表された。エウロパとは、木星を周回する大小含めて60以上ある「月」のひとつで、地下には海があると言われている。今最も地球外生命体に近い星かもしれない。今日のニュースについては、小野のブログや、クマムシ博士のブログがとても参考になる。2人とも今日の発表内容についての予想が見事に的中。わくわくするニュースだ。
そしてこのニュース、小野が今年NIACと呼ばれるNASAのプログラムに提案して研究費を取ってきた無人潜水機にも追い風かもしれない。エウロパやエンセラドゥスのような星の地下海にどうにかして無人潜水機を送り込むというミッションアイデアだ。僕はこれを勝手に「魚探すやつ」と呼んでいる。魚、いないかなぁ。もしいたら「木魚」と名付けよう。
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