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 朝、警備員のいるメインゲートを車で通るとき、職員はわざわざ窓を開けて話をする必要はなく、バッジ(社員証)を窓越しにちょっと見えやすく持ちつつ徐行したまま通過するのだが、本当にそれでいいのかわからない僕は、できるだけ怪しまれないように、バッジを持った左手をフロントガラスぎりぎりまで伸ばした。「この職員、めちゃめちゃアピールしてきよるな。怪しいぞ」と思われてたりして。。

 2日目は、朝8:30からITオフィスの職員がやってきてコンピュータやJPLアカウントのセットアップをすると聞いていた。昨日の反省を生かして普段着で、8:15頃出社。するとJ.H.がやってきて、また連行されることに。J.H.が普段着の僕を見て「Looks good!」。普通、逆なんだけどな。。行き先は所属Section*のトップが集まる定例ミーティングだった。

*JPLは5500人ほどの職員が働く巨大な研究所。まず所長や副所長などの幹部の下にDirectorateと呼ばれる複数の「局」が存在する。各局はDivisionと呼ばれる複数の「部」に分かれ、各部はSectionと呼ばれる複数の「課」に分かれ、各課は複数のグループに分かれる。そして、この4段階の階層において、各職員の所属は4桁の数字ないしアルファベットで区別されるのだ。例えば僕の所属は312C。この1桁目が局を、2桁目が部を、3桁目が課を、4桁目がグループを表す。ちなみに312Cには、18人の正規の職員と6人の契約社員やポスドクや客員研究員等「関係者」がいる。

 ミーティングの出席者は、312 Sectionのマネジャー2人と各グループスーパーバイザー6人。日本の会社で言うところの、課長・課長代理・係長7人による会議と言えば、わかりやすいだろうか。1人40代と思しき女性がいたが、あとは皆おそらく50代以上の方々。マネジャーが僕の服装を見るなり、ガシっと肩を組んできて「Looks good!早速順応してるね!わはは」。なるほど、そういう職場なのね。

 全員簡単な自己紹介をした。僕がMIT出身であるとわかると、誰かが「うちには毎年、MITかジョージア工科大が交互に入ってくるんだ。わはは」と言っていた。同じミーティングにもう一人新入社員の女の子がいたが、彼女も今年MITで博士を終えたばかりだった。家族の話をすると、マネジャーが「私の妻は中国人でね、今度中華のお店を教えてあげよう」。ひとしきりおしゃべりをした後、僕ら新入社員は自分のデスクに戻った。

 少しして、ITオフィスの職員がやってきて、諸々のセットアップをしてくれた。@jpl.nasa.govという念願のJPLのメールアドレスをゲットしたので、自分の個人メアドにテストメールを打ってみたりして遊ぶなど。その他、JPLのネットワーク内でしか見られない様々な情報をネットサーフィン。各職員の従属関係が樹形図になっている図を見たり、各職員の所属や連絡先を調べたりすることもできる。JPLの他Sectionで働く日本人の方から聞いた話だが、JPLには日本人の正規の職員が10人ほど?いるとか。僕が直接知っているのは3人。312 Sectionにも、31 Divisionにも日本人はいないようだった。

 バッジ(社員証)を首から下げるストラップが欲しかったので、キャンパス内にあるJPLストアに行ってみた。このキャンパスそのものが、一般人が自由に出入りできない場所なのに、なぜこのストアはこんな閉じた場所で営まれているのだろうか。一般人が届出なしに入れるところに置けばいいのに。商売根性のカケラもないな。

 同じグループには、実はもう知り合って6、7年になるR.S.がいる。彼とは、僕のMIT時代のボスを通して学会で知り合い、僕にとってJPLの窓口的な存在だった。博士論文の審査委員会に入ってもらったり、グリーンカードの推薦状を書いてもらったり、昨年秋の就活を兼ねたゲリラトークをホストしてもらったり、何かとお世話になっている。彼が僕のデスクにふらっと現れて、ランチに行こう、ということになった。

 彼は年齢的には60を過ぎているだろうか。経済学の博士を持っていて、コスト分析などを専門にしている。JPLは34年目で、うちのグループで主任研究員をやっている。僕が言葉もろくにしゃべれない赤ん坊の頃から、彼はJPLに勤めているわけか。当然JPLやNASAの宇宙史に詳しい。今なら2〜3日でできるコスト分析も、Windows 95を使っていた20年ほど前は半年かかっていたそうだ。僕がやることになったプロジェクトの話をすると、早速関連する論文を2つほど、僕のデスクまで持ってきてくれた。

 午後は、給与課に書類を提出しに行ったり、タイムカードの入力方法を勉強したりした。その他、NASAの職員として機密情報取扱の人物調査の書類(これが計3、4時間かかった…)など。ネットワークのプリンターのセットアップを自分でやろうとして失敗。なんやかやあって午後7時前に退社。

JPLからオファーをもらう前に、願掛けで買った「NASAだるま」。オフィスに連れてきた。NASAとは全く関係ないが、NASAのロゴみたいな色使いなので勝手にそう呼んでいる。このNASAだるまを買ってすぐ、立て続けにグリーンカードが出てJPLからオファーが出た。偶然だけど。

午後7時前、キャンパスには鹿的な何かがくつろいでいた。毎日夕方になるとどこからともなく現れるそう。よろしくー。

宇宙にあるたくさんの人工衛星や探査機との通信を可視化したもの。何らかの信号をこちらから衛星に向けて発信するときには、光が上に向かって上がっていき、衛星からデータを受信するときには、光が下に向かって降りてくる。しばらく見ていると、通常は散発的に光が上がっており、ときどき大量の光がダーっと降ってくるようだ。おしゃれ。


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