ルポタージュ:デンマークのHVDC変電所へ潜入
オールボー大学で履修している「高電圧工学」の授業の一環で、なんとHDVC「Konti-Skan Link」のデンマーク側の変電設備を見学することができました。
一般にはなかなか見ることが難しい内部設備まで見せてもらえたので、今回はその興味深い HVDC 変電所の見学の様子をご紹介します。
HVDCって何ですか🤔
注釈:技術的な説明は省いていますmm
HVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流)の略称であるこの言葉は、主に高圧直流送電技術の総称として用いられています。
高圧送電は交流(High Voltage Alternative Current: HVAC)形式が一般的ではありますが、近年は技術的な進歩やニーズの変化もあり、一定のメリットがある箇所においてはHVDCが送電形式として採用されるようになってきています。
A Alashi らのHVDCレビュー論文では、HVACと比較したHVDCのメリット・デメリットを以下のように説明しています。
メリット
遠距離の高圧送電における損失 (losses / costs) が少ない
送電線を省スペース化できる
周波数同期されていない2系統間を接続可能
デメリット
コストが高い
上記で触れられているように、日本においては、東西の異なる周波数帯の系統をつなぐ周波数変換所にHVDCが利用されています。
加えて北海道ー本州間などにもHDVCが採用されています(北本連携設備)。これが意味するところは、北海道の系統と本州の系統は、同じ周波数ながら実は同期していない状態ということです。
OCCTOの資料でも、北海道/東日本/中西日本/・沖縄の4同期系統があることが述べられています。(交直変換所=HVDC)
Konti-Skan HVDC Link の概要
さて、Konti-Skan *1 HVDC Link はデンマーク北部の Vester Hassing と スウェーデン西部の Stenkullen をつなぐ、直流高圧送電線です。
デンマークのTSO(Transmission System Operator: 送電事業者)である Energinet が管理・運用しています。
1965年にPole 1(250 MW 250 kV)が稼働開始、1988年にPole 2(300MW 300kV)が稼働開始、その後2019年にリプレイスされながら、現在も稼働しています。
以下のポストで紹介したとおり、デンマークのユトランド半島は Regional Group (RG) Continental Europe に位置していて、スウェーデンは RG Nordic に位置しているので、同期電力系統が分かれています。
二つの同期電力系統を結ぶため、HDVCラインを使うモチベーションがあった、というわけです。
Konti-Skan では日立エナジー(導入当時はABBの送配電部門)製の他励式HVDCが利用されています。詳細は以下をご覧ください。
Konti-Skan 見学の行程
以下の行程で見学させてもらいました
Energinet による Konti-Skan の概要説明、会社紹介
Konti-Skan 設備見学
資料拝見、Q&Aなど
Energinetの会社紹介でも興味深い説明があったのですが、それは次回に持ち越して、今回の記事では設備見学の報告に限ることとします。
潜入の様子はこんな感じで、安全装備を着用して入場。
Konti-Skan の変電設備ですが、ざっくり系統側のAC 150kVを400kVに昇圧する「①交流変圧器」、交流400kVを直流250~300kVへ整流するサイリスタを用いた「②他励式コンバータ」(Line-Commutated Converters: LCC)が広い敷地を跨いでつながっています。
(電力系統)150kV AC <-①-> 400kV AC <-②-> 250 ~ 300kV DC (HVDC)
面白かったポイント
見学を通じて興味深く感じたポイントを紹介します。
変電所が醸すSASUKE感
アスレチックな外観で我々を魅了する変電所ですが、これらは主に「電線」と「絶縁ガイシ(Insulator)」、それらを支える躯体で形成されています。
高電圧の電気が我々が暮らす地面側へ漏電しないように、絶縁体で直接電線を支えているのですね。
いまも現役!ASEA製同期調相器
ASEAはABBの前身(Aの部分)であるスウェーデンの重電メーカーです。
1988年にスイスの重電メーカー Brown-Boberi(BBの部分)と統合・ABBとなったのを機に、ASEAの名をあらたに拝める機会はなくなってしまったものと思っていました。
ただ、Konti-Skanには現役のASEA製同期調相器(Synchronous Condensor)が。感動してガイドさんにいろいろ聞いてみたところ、この同期調相器は60年ぐらい使っていて、あと20年ぐらいは使えるのではないか、という話でした。長寿ですね。
実演!400kVブレーカーのデモ
いくつかある交流ラインの1つを点検中で使っていないとのことで、400kVブレーカーを実際に開放するデモをしてもらいました。
点検中とはいえ、使用中の400kVバスバーと繋がっている設備なので、ブレーカーを開放する際にアーク放電が生じます。バチバチに音を鳴らしながら動作する機器を現場で見れたのは貴重な経験でした。
あ、写真で見たことあるHVDCだ
交流400kVを直流250-300kVに変換する巨大なLCCは、建屋内に格納され、どでかく宙に吊り下げられていました*2。
(建屋内は撮影禁止とのこと…ただ、日立エナジーのWebサイトで拝見できるイメージそのままでした)
ガイドさん、高電圧設備をさする
「これは 150kV - 400kV の交流変圧器だよ、接地されているからこれも触れるね Hahaha」といいながら稼働中の変圧器をさするガイドさん。
他にもいろんな高電圧設備をさすりながらガイドをしていました。
いや、理論上はそうなんだけど!
それだけ点検など普段の運用をしっかりやっている、ということですね。
私は、ほどほどにしておきました✋
終わりに
高電圧工学の現場を見にいき、コロナ放電の音を聞いたり、開閉器の利用時の絶縁破壊を見たり、回路図の実物を見れたのは貴重な経験でした。
デンマークまで来た甲斐があった。
HVDCを見学したい学生はぜひオールボー大学へ留学しましょう!(?)
*1 : Konti-Skan は Continental(大陸) と Scandinavia(スカンジナビア)の2地域にまたがる、というところから名付けられたようです。
*2 : 地震対策とのことでした。デンマークには地震はほぼないのですが、日立エナジーの製品基準でそのように統一して作っている、らしいです。独シーメンス製の製品は地面に設置するタイプと伺いました。