Grid Readiness とは何なのか
オールボー大学エネルギー工学院の Project based learning のプロジェクトにて「地方のエネルギー柔軟性(Local energy flexibility)に向けた Grid readiness の推定」の研究を実施することになりました。
Energy flexibility は欧州を中心に聞く言葉で、IEAの定義によると「電力システムが、予見しているかどうかによらず(需要等の)変動に応じて電力の生産または消費を変更できる範囲」です。
他方で、Grid readiness という言葉は恥ずかしながら初耳でした。
ということで、耳慣れない言葉について理解を深めるべく、参考までに日本だとどのように呼称されているのかを Google 検索で調べてみました。
> Grid readiness とは 🔍
これが…日本語資料が全く見つからない!
結局英語でヒーコラ調べたことを供養すべく、
本ポストでは、今後 Grid readiness とは何なのか思い悩む方に向けて、日本語概要を記載することとします。
正確性には可能な限り留意はしていますが、本記事の内容は参考程度にとどめていただき、各自で引用先文献や、他の文献を辿るなどしていただければと思います。
Grid readiness の定義
`readiness` は `ready` が名詞化した単語であり*1、「備え」や「準備できていること」と訳せます。つまり Grid readiness は直訳すると「電力系統の備え」です。
しかし一体、何に対する備えなのでしょうか。
インドエネルギー省の関係機関(GREENING THE GRID)のレポートにおける Grid readiness の紹介文を引用しつつ、その意図を探ってみます。
新しい技術(電気自動など)が電力系統につながったときに、それに対してどの程度、電力系統側が順応できるのかを示す数値的な指標を「Grid-readiness metrics」と呼んでいる、とのことです。
電力系統へ統合されてきた新たな技術を思い返すと、以下のようなものが浮かびました。
新たな発電源としての太陽光や風力などの変動性再生可能エネルギー(Variable Renewable Energy)
充電と放電ができる蓄電池や電気自動車
新たな需要として注目され始めたデータセンター
(とりわけデンマークでは)余剰電力から水素を生成するプラント(Power-to-X)
「Grid-readiness metrics」は、上記のような新たな技術って今の電力系統ではどのエリアにどのぐらい繋げられるんだっけ、将来繋げるとしたら系統をどのぐらい強化しなければいけないんだっけ、を考えるために活用される指標というわけです。
Grid readiness metrics の紹介
上述の文献では Grid readiness metrix として以下が利用されています。
各指標は本論文において、系統電圧、無効電力、損失など異なる評価項目に着目して定義されたものです。
利用の際には評価目的に基づいて(下記指標に限らず)複数の指標を複合評価することが望ましい、と個人的には理解しました。
System Average Voltage Magnitude Violation Index (SAVMVI) [p. u.]
バスバーにおけるノード間電圧異常の深刻度(severity of nodal voltage violation on a bus)を定義し、許容可能量に対してノード間電圧がどのぐらい外れているかを評価する指標です
System Average Voltage Fluctuation Index (SAVFI) [p. u.]
ある時刻 t と、その前の時刻 t-1 における平均電圧の電位差を測定し、対象期間の測定値を足し合わせることで、電位差や電圧変動(voltage deviation or fluctuation)を評価する指標です
System Average Voltage Unbalance Index (SAVUI) [%]
特定の期間におけるバスバーの平均電圧と3相交流の各相電圧の差分が最も大きい時間における電位差がどの程度あるかを評価する指標です
上記文献(p.53)によると、3%は許容範囲(usually acceptable)とのこと
System Control Device Operation Index (SCDOI) [回/日]
日別の平均的な電圧調整器やキャパシタバンク (voltage regulator and capacitor bank) の運用回数を測定、評価する指標です
System Reactive Power Demand Index (SRPDI) [kVar]
変電所の力率 (Power factor) を計測することで、追加的な電力需要が系統の無効電力 (Reactive Power) にどのように影響するかを評価する指標です
System Energy Loss Index (SELI) [%]
系統中の損失を評価する指標です
Grid readiness metrics の使い方
同文献では「現状ベース(Baseline)、従来的な系統/変圧器増強ケース(Thermal Upgrade)、系統用蓄電池のピークカット導入(BESS)の2ケース」の計4シナリオについて、 Grid readiness metrics の評価結果が比較されています。
上図から「SAVMVI, SAVFI, SAVUI の比較より、電圧影響をもっとも抑えられるシナリオは Thermal Upgrade であること」「SCDOI_cap の比較より、BESS導入シナリオのキャパシタ運用回数(89回/日)が Thermal Upgrade(59回/日)より少し多くなっていること」「SRPDIの比較より、無効電力は Baseline と比較して Thermal Upgrade では上昇するが、BESS導入では削減できること」「SELIの比較より、いずれのシナリオでも系統損失はさほど触らないこと」が結果として示されていました。
文献はその他、経済合理的なBESS導入のシミュレーション分析等も経て、
最終的にはSELIの比較結果による「いずれのシナリオにおいても損失に大きな差がない」ことに立脚し、BESS導入促進を評価する結論に至ってます。
Grid readiness 研究の現在地
文献検索サイト Google Scholar においても grid readiness に関係する文献はあまり多くないようでした(検索結果数:283,000件)。
参考までに、個人的に耳馴染みのあるテーマの検索結果数は以下のとおりでした。日本語文献に行き着かなかったことについて、これで納得しました。
Virtual Power Plant (検索結果数:4,580,000件)
Power to X(検索結果数:5,200,000件)
Unit Commitment(検索結果数:4,660,000件)
Energy Flexibility(検索結果数:7,430,000件)
文献に示された Grid readiness metrics の各指標も、私個人が調べた限りでは本文献で定義付けられたものと読めました。
各国の系統の状況・導入が見込まれる需要・電源の種類によって、異なる Grid readiness metrics を定義し、検証する必要がある(研究領域として発展の余地がある)もの、と考えています。
Grid readiness metrics の活用可能性
日本においては、OCCTOにより2023年3月に「系統増強マスタープラン」が示されました。
ここでは主に第6次エネルギー基本計画の達成に向け、どのぐらい送電線容量の増強をするのが費用帯効果を考慮して妥当であるか、が議論されたと理解しています。
他方で、系統運用管理者である一般送配電事業者やマイクログリッド運用事業者の視点では、どのぐらい送電・配電網に新たな技術・需要を導入可能なのかを考える必要があります。
本件について「送電線空き容量問題*2」「系統連系時の逆潮流による電圧変動対策(力率設定)*3」の話題は目にしてきましたが、他にも評価できると嬉しい Grid readiness metrics が存在するのではないかと思います。
日本の送電・配電系統における Grid readiness metrics 評価に興味が出てきており、つまるところはこの Project 頑張ろう、と思った話でした。
*1: readiness を当初は「read」が名詞化した単語だと思っていたのは内緒です。系統の可読性?格好良いな?と思っていた。。。
*2: 経済産業省 資源エネルギー省:「送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み」(2017年12月)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/akiyouryou.html
*3: OCCTO 第7回 グリッドコード検討会:「個別技術要件検討 「電圧変動対策(力率設定)」」(2021年9月)
https://www.occto.or.jp/iinkai/gridcode/2021/files/gridcode_07_07.pdf