オールボー大学エネルギー工学院(AAU Energy)の Problem based learning (PBL) project で、電力系統の解析・評価を行っています。
留学に来てやりたかったことど真ん中なトピックでワクワクしています☺
そんなプロジェクトの中で、系統シミュレーションツール「PowerFactory」を使うことになりました。今回は本ツールの概要を紹介したく思います。
DigSilent製 PowerFactory
製品概要
「PowerFactory」は、ドイツのソフトウェア企業「DigSilent」が開発・販売している電力系統解析ソリューションです。
本製品はライセンス制で、
・ローカルのシングルユーザーライセンス
・サーバ経由でアクティベーションキー認証を実施する、マルチユーザーライセンス
があります。
AAU Energyはマルチユーザーライセンスの契約を持っているようで、大学内ネットワーク内であれば学生も利用可能になっています。
できること
本ツールのUIで
1. 発電・送配電・需要のモデルを配置して系統図を作成
2. パラメータを設定する
だけで、系統分析のシミュレーションを容易に実行することができます。
ベースプランと、追加購入可能なアドバンスパッケージがあるようです。
(ベースプラン)
以下のように、電力フロー分析、短絡回路分析などを実施することができます。
(アドバンスパッケージ)
追加で偶発事故分析やケーブル分析などの解析パッケージを購入・利用することもできます。
豊富なモデルテンプレート
PowerFactoryでは、IEEE N-bus model のように、系統解析に広く利用される系統図モデルのテンプレートが用意されています。
モデル作成の時間を短縮できるのはありがたいですね。
誰が使っているのか?
AAU Energyにおいては、
・私たちのPBLプロジェクトの指導教官の研究室 iGRID の系統解析シミュレーション
・学部生の授業「Electrical Power System」における電力フロー分析の実習
などでPowerFactoryが利用されています。
(学部あがりのチームメンバーは同ツールの利用経験があるので、急いでキャッチアップをしています…!)
また、先日訪問した「Eurowind Energy」でも、
「発電所の系統連系を行うにあたっての国ごとの規定(グリッドコード)を満たすかどうかのシミュレーションを行うために、PowerFactoryおよびPSCADを利用している」とお話しを伺いました。
PowerFactoryは定常状態な分析(ms単位〜)
PSCADは過渡的なμs単位で生じる応答の分析
という使い分けをしているとのこと。
デンマークのDSOに勤めている社会人学生も同ツールを業務に利用していたりと、少なくともデンマークでは標準的な系統解析ツールとして用いられているようです。
販売元企業のあるドイツは隣国ですし、納得感があります。
ヨーロッパの各国で利用されているツールについても今後調べてみようと思います。
日本で使えるの?
国内でも東光高岳、Uniposが代理店販売をしているようです。
注. 個人調査で把握できたかぎりを掲載。
他に販売代理店があればおって掲載しますmm
電力フロー分析やってみた
プロジェクトに活用するための勉強もかねて、PowerFactory で送電系統モデルを作成し、電力フロー分析をやってみました。
MatlabのSimuLinkのようなUIで、ブロックを配置して系統図を作成、パラメータを指定し、その後「電力フロー分析(Load Flow Analysis)」を実行します。
2巻線変圧器(150/60kV)を介する送電系統モデルでの結果:通常時
今回はチュートリアル動画を参考に「2巻線変圧器(150/60kV)を介する送電系統モデル」を作成しました。
デンマークの一般的な送電電圧である「150kV」と「60kV」の系統を模擬したバスバーを配置し、その間に150/60kVの2巻線変圧器で接続します。
150kV側のバスバーは外部系統(external grid)とつなげ、60kV側のバスバーは需要(load)とつなげます。
外部系統から10MWの送電をうけて、60kV側での同規模の電力需要を賄う想定で、電力フローシミュレーションを実施しました。
定常状態でバスバーおよび変圧器に異常が生じないかを定量的に確認します。
シミュレーション結果は、モデルの系統図上で確認可能です。
電圧等のパラメータを閲覧できるほか、異常の有無を色で把握できます。
さらに、結果サマリの文章出力(TXT、PDF)も可能です。
2巻線変圧器(150/60kV)を介する送電系統モデルでの結果:過電圧、過負荷時
続けて、過電圧や過負荷が生じるようにモデルのパラメータを修正し、シミュレーションを実施しました。
シミュレーションで異常が見つかると、該当部分が赤色で表示されます。
下図の場合は外部系統から1.2puの電圧で電力が供給されたことにより、後段の150/60kVそれぞれのバスバーで過電圧が検出されました。
続けて負荷需要を15MWまで増大させ、過負荷の発生をシミュレーションしました。
下図の結果では、変圧器が赤色で表示されています。変圧器の定格を超過する電流が流れていることを示しています。
終わりに
有り難いことに、PowerFactoryのチュートリアル動画がYouTubeに多数アップロードされておりまして、
今回の記事でご紹介したシミュレーション例の実施するにあたって、そこまで時間はかかりませんでした。
PBLプロジェクトを通じて、現実味のある系統モデルで Grid Readiness metrics の評価ができるよう、引き続き取り組んでまいります。