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DigSilent製 PowerFactory で電力系統シミュレーションをしてみる

オールボー大学エネルギー工学院(AAU Energy)の Problem based learning (PBL) project で、電力系統の解析・評価を行っています。
留学に来てやりたかったことど真ん中なトピックでワクワクしています☺

そんなプロジェクトの中で、系統シミュレーションツール「PowerFactory」を使うことになりました。今回は本ツールの概要を紹介したく思います。


DigSilent製 PowerFactory

製品概要

「PowerFactory」は、ドイツのソフトウェア企業「DigSilent」が開発・販売している電力系統解析ソリューションです。

PowerFactory is a leading power system analysis software application for use in analysing generation, transmission, distribution and industrial systems. It covers the full range of functionality from standard features to highly sophisticated and advanced applications including windpower, distributed generation, real-time simulation and performance monitoring for system testing and supervision.

DigSilent: About PowerFactory
https://www.digsilent.de/en/

本製品はライセンス制で、
・ローカルのシングルユーザーライセンス
・サーバ経由でアクティベーションキー認証を実施する、マルチユーザーライセンス
があります。

AAU Energyはマルチユーザーライセンスの契約を持っているようで、大学内ネットワーク内であれば学生も利用可能になっています。

できること

本ツールのUIで
1. 発電・送配電・需要のモデルを配置して系統図を作成
2. パラメータを設定する
だけで、系統分析のシミュレーションを容易に実行することができます。

Power Factory 送電網解析 イメージ図
https://www.digsilent.de/en/power-transmission.html

ベースプランと、追加購入可能なアドバンスパッケージがあるようです。

(ベースプラン)
以下のように、電力フロー分析、短絡回路分析などを実施することができます。

The PowerFactory Base Package provides analysis modules coupled with a wide range of power equipment models, integrated tools and features for fundamental PowerFactory applications.

Load Flow Analysis
Short-Circuit Analysis
Sensitivities / Distribution Factors
Basic MV/LV Network Analysis
Power Equipment Models
Network Representation
Network Model Management
Outage Management
PowerFactory Administration
Network Diagrams and Graphic Features
Results and Reporting
Data Converters
General Software Information

Features - Base package
https://www.digsilent.de/en/features.html

(アドバンスパッケージ)
追加で偶発事故分析やケーブル分析などの解析パッケージを購入・利用することもできます。

The Base Package can be extended using a wide range of additional functions according to specific user requirements. In addition, various interfaces are available to further customise the PowerFactory package.

Contingency Analysis
Quasi-Dynamic Simulation
Network Reduction
Protection Functions
Arc-Flash Analysis
Cable Analysis
Power Quality and Harmonic Analysis
Connection Request Assessment
Transmission Network Tools
Distribution Network Tools
Economic Analysis Tools
Probabilistic Analysis
Reliability Analysis Functions
Optimal Power Flow (OPF)
Unit Commitment and Dispatch Optimisation
State Estimation
Stability Analysis Functions (RMS)
Electromagnetic Transients (EMT)
Motor Starting Functions
Small Signal Stability (Eigenvalue Analysis)
System Parameter Identification
Scripting and Automation
Artificial Intelligence
Interfaces
DPL/DSL/QDSL Encryption

Features - Advanced features
https://www.digsilent.de/en/features.html

豊富なモデルテンプレート

PowerFactoryでは、IEEE N-bus model のように、系統解析に広く利用される系統図モデルのテンプレートが用意されています。
モデル作成の時間を短縮できるのはありがたいですね。

系統図モデルのテンプレート集。各テンプレートには、パラメータ設定や数式などのドキュメントも用意されています。
IEEE 9-bus system のテンプレートを読み込み、
電力フロー分析を実行した様子。
左)系統図 、右)各バスの電圧[p.u.]の比較グラフ。

誰が使っているのか?

AAU Energyにおいては、
・私たちのPBLプロジェクトの指導教官の研究室 iGRID の系統解析シミュレーション
・学部生の授業「Electrical Power System」における電力フロー分析の実習
などでPowerFactoryが利用されています。

(学部あがりのチームメンバーは同ツールの利用経験があるので、急いでキャッチアップをしています…!)

また、先日訪問した「Eurowind Energy」でも、
発電所の系統連系を行うにあたっての国ごとの規定(グリッドコード)を満たすかどうかのシミュレーションを行うために、PowerFactoryおよびPSCADを利用している」とお話しを伺いました。

PowerFactoryは定常状態な分析(ms単位〜)
PSCADは過渡的なμs単位で生じる応答の分析
という使い分けをしているとのこと。

デンマークのDSOに勤めている社会人学生も同ツールを業務に利用していたりと、少なくともデンマークでは標準的な系統解析ツールとして用いられているようです。
販売元企業のあるドイツは隣国ですし、納得感があります。

ヨーロッパの各国で利用されているツールについても今後調べてみようと思います。

日本で使えるの?

国内でも東光高岳、Uniposが代理店販売をしているようです。

注. 個人調査で把握できたかぎりを掲載。
他に販売代理店があればおって掲載しますmm

電力フロー分析やってみた

プロジェクトに活用するための勉強もかねて、PowerFactory で送電系統モデルを作成し、電力フロー分析をやってみました。

MatlabのSimuLinkのようなUIで、ブロックを配置して系統図を作成、パラメータを指定し、その後「電力フロー分析(Load Flow Analysis)」を実行します。

2巻線変圧器(150/60kV)を介する送電系統モデルでの結果:通常時

今回はチュートリアル動画を参考に「2巻線変圧器(150/60kV)を介する送電系統モデル」を作成しました。

デンマークの一般的な送電電圧である「150kV」と「60kV」の系統を模擬したバスバーを配置し、その間に150/60kVの2巻線変圧器で接続します。

150kV側のバスバーは外部系統(external grid)とつなげ、60kV側のバスバーは需要(load)とつなげます。

外部系統から10MWの送電をうけて、60kV側での同規模の電力需要を賄う想定で、電力フローシミュレーションを実施しました。
定常状態でバスバーおよび変圧器に異常が生じないかを定量的に確認します。

シミュレーション結果は、モデルの系統図上で確認可能です。
電圧等のパラメータを閲覧できるほか、異常の有無を色で把握できます。

作成したサンプルモデル。バスバーが緑色だと容量・力率・位相等の観点で異常なし。
系統からの供給電力10MW, 需要側の力率0.85 (inductive)の設定
Grid : 150kV, 1.0[p.u.], Deg0
Load : 59.3kV, 0.99[p.u.], Deg-150.8

さらに、結果サマリの文章出力(TXT、PDF)も可能です。

シミュレーション結果はサマリーとして出力可能
External power = 10.02MW (Reactive power = 6.41Mvar)
Grid losses = 0.2MW (Reactive power = 0.21Mvar)
Load Power factor = 0.85 (inductive)

2巻線変圧器(150/60kV)を介する送電系統モデルでの結果:過電圧、過負荷時

続けて、過電圧や過負荷が生じるようにモデルのパラメータを修正し、シミュレーションを実施しました。

シミュレーションで異常が見つかると、該当部分が赤色で表示されます。
下図の場合は外部系統から1.2puの電圧で電力が供給されたことにより、後段の150/60kVそれぞれのバスバーで過電圧が検出されました。

系統・需要側のパラメータを変更したサンプルモデル①
バスバーが赤色だと何かしらで異常あり。
系統からの供給電力5MWかつ電圧1.2[p.u], 需要側の力率0.95 (capacitive)の設定で、
Loadの電圧が72kVまで上昇しており、過電圧と判定
Grid : 180kV, 1.2[p.u.], Deg0
Load : 72.1kV, 1.2[p.u.], Deg-150.3

続けて負荷需要を15MWまで増大させ、過負荷の発生をシミュレーションしました。
下図の結果では、変圧器が赤色で表示されています。変圧器の定格を超過する電流が流れていることを示しています。

系統・需要側のパラメータを変更したサンプルモデル②
バスバーは緑だが、変圧器が赤になっており異常あり。
需要側で15MW、力率0.8 (inductive)の設定で、
変圧器2次側に184Aの電流が流れており、過負荷と判定
Grid : 150kV, 1[p.u.], Deg0
Load : 58.8kV, 0.98[p.u.], Deg-151.2

終わりに

有り難いことに、PowerFactoryのチュートリアル動画がYouTubeに多数アップロードされておりまして、
今回の記事でご紹介したシミュレーション例の実施するにあたって、そこまで時間はかかりませんでした。

PBLプロジェクトを通じて、現実味のある系統モデルで Grid Readiness metrics の評価ができるよう、引き続き取り組んでまいります。


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takuroumi
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