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ルポタージュ:Eurowind Energy社の84MW再エネ発電所 見学記

あなたは回転する風力発電所の真下に身を置いたことはありますか?
私は3回目です!今回は、再エネ発電所の見学の様子をお届けします。

今回も授業の一環…ではなく、
オールボー大学エネルギー工学院(AAU Energy)と CIGRE NGN Denmark という団体の共催で開催された、84MW再エネ発電所「Greenlab Skive」の見学会に参加してきました。

見学会の告知

CIGRE NGN Denmark とは

本イベントの主催者である CIGRE NGN Denmark について簡単に紹介します。

まずCIGRE (国際大電力システム会議) とは、電力系統技術の知見を蓄積し、共有しあうための国際会議団体です。日本の一般送配電事業者も加入していて、国内委員会も存在しています。

CIGRE NGN (次世代ネットワーク) Denmark は CIGRE Denmarkの下部組織で、デンマーク国内の35歳以下の電力系統技術者のためのネットワーク団体です。

所属は学生・企業合わせ30名ほど。
私も会員になりました!😆

若手エネルギー技術者の育成、ネットワーキングを目的にした組織というわけです。学生会員は無料。参加しない手はないですね。
会員はCIGREの文献に無料でアクセスできたり、今回のような視察も無料で参加できます。

私の運営するSlackコミュニティ「若手エネルギー技術研究会」と思想が同じで、かつ運営もうまくてとても参考になります…!

いまも月一でオンライン交流会してまして、
参加者募集中です😉

なお、日本だと「パワーアカデミー」の「学生交流会 GPAN(Graduate students Power Academy Network)」が近いことをやっています。こちらは学生限定ではありますが、同じくネットワーキングや設備見学会に参加することができます。

「GPAN(Graduate students Power Academy Network:ジーパン)」とは、国内の大学や高専専攻科で電気工学を学ぶ学生間のネットワーク形成の機会として開催している学生交流会です。学生主体で行うイベントや設備見学会などを通して他大学や他研究室の学生たちとつながりを持ってもらうことを目的としています。また、電力システムの分野で活躍されている先輩技術者(社会人)たちとの懇談会も企画しました。

パワーアカデミー:GPANとは
https://www.power-academy.jp/event/gpan/gpan.html

残念ながらGPANは日本の大学生限定のようです。学部生のときに存在を知っておけば絶対参加していたのですが…😅

もっと調べてみると、日本のCIGRE国内委員会にも同様の組織がありました。(知らなかった…!)
学生会員無料みたいですよ!全員入りましょう!

さておいて、今回のイベント、ありがたく参加してきました。

Eurowind Energy について

続けて今回の見学訪問先の企業である、デンマーク発の再エネ開発企業 Eurowind Energy 社の紹介です。
同社は2006年創業。ドイツとデンマークでの風力電源開発を祖業として、現在は欧米16カ国に風力・太陽光発電の電源開発(EPC)・管理運用(Asset management)事業を行っています。

大規模な電源開発をするための資本力・体力は、デンマーク最大の電力小売企業 Norlys との資本提携から来ているそう。同社は Eurowind Energy 社の資本の50%を保有していて、お互いのシナジー創出を図っているとのことでした。

現在所有する発電所容量は2GWで2023年の収益(revenue)は232M EUR(378億円)。開発計画・交渉中の案件(パイプライン)は40GWに上っていて、調子良さそうな雰囲気。
ただ「2023年はエネルギー価格の高騰で収益がスポット的に良かったところもある」ともおっしゃっていました。電力マーケットへの売電収益が調子良かったということみたいですね。

Eurowind Energy : 2022-2023 Annual Report の財務諸表
昨年度は増収増益、Equity1.5倍増、営業・投資キャッシュフローも健全そう。
一方で Net revenue per employee が減少しているので人増やしてそうです。
https://eurowindenergy.com/media/fdvdln3q/ewe-annual-report2022_23-final.pdf 

再エネ発電所 兼 研究所 Greenlab Skive

Eurowind Energy社の再エネ発電所 兼 研究所です。ユトランド半島北部の町 Skive 地区に位置していて、オールボーからはバスで90分ほど。

54MW の風力発電と、30MW の太陽光発電設備が稼働しているほか、Power-to-X、畜エネルギー設備などの研究開発も行われています。

Greenlab で進行中の研究開発プロジェクトの抜粋
https://www.greenlab.dk/research/current-research-projects/ 

今回は、CIGRE NGNとEurowind Energyの会社紹介をしていただいた後、Greenlab Skiveの発電所設備(変電所・発電機)の見学をさせてもらいました。

見学の行程

設備内は見渡す限りの草原地帯に、風力発電12基と無数の太陽光発電パネルがずらりと並ぶ壮観な景色となっています。

54MW 風力発電 と 30MW 太陽光発電 の複合施設へ潜入

風力タービンはデンマーク Vestas 社、太陽光パネルはドイツ SMA Solar 社製のものが利用されていました。

4.2MW Vestas社製 風力タービン
タービン上部後方の壁は騒音対策とのこと

各発電機で発電された電気はパワーコンディショナを経て、33kV交流電圧に変換・集約されます。交流33kVは Schneider Electric のスイッチギヤ(遮断機) F400を経由して系統接続用の交流変圧器へ。

スイッチギヤは多重化されていて、点検等の際にも継続的に系統へ売電できるような仕組みになっていました。
(屋内撮影禁止だったので写真はなし)

最後に、交流変圧器で交流60kVに変圧されて、配電系統と繋がります。デンマークは送電管理者(TSO)と配電管理者(DSO)が分かれています。
交流変圧器はルーマニアの会社 Retrasib社製のものでした。
Skive地区はD1というDSOが担当していて、下図奥側の60kV系統接続設備はD1が設置・管理をしています。

Retrasib社製33/60kV交流変圧器と60kV系統接続設備
系統接続設備はSkive地区のDSOであるD1社が管理

訪問した時は試験中で、訪問中に突然全ての風力発電器が発電をやめて、しばらく停止したのちに再度動き出す、といったことがありました。

「こういうことがボタンひとつ押すだけでできるんだよ〜おかしいよね」と担当の方がおっしゃっていましたが、
ボタン1つ押すだけで数十MWの発電が変動するの、凄まじいです…もちろんこのような試験は事前にDSO、TSOに通達の上で実施しているとのこと。

いきなり回転が止まり出す風車

なお、この発電所域内には「コントロールルーム」は存在せず、オールボー近くの事業所から遠隔で監視できるようになっているそうです。

また、風力や太陽光設備に異常が生じたときは Vestas や SMA がサポートしてくれるものの、ほぼリモートで点検が完了することも少なくないそう。
そのような遠隔サポートを実現するためのネットワーク接続と、ファイアウォール等のセキュリティ対策をしているとのことでした。

終わりに

大変ありがたい機会をいただいたと同時に、日本のCIGRE国内委員会の学生会員・若手会員の存在をいままで知らなかったことがショックでした。。。

CIGREは多くの送配電会社が加入する国際会議団体なので、この記事を読んだ電力に興味のある学生は、ぜひ参加を検討してみてください!
私のように、見学会に行けるチャンスが得られるかもしれません😊


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takuroumi
いただきましたサポートは、のちの投稿内容となる、デンマークや欧州でのエネルギー工学の学びや体験に活用させていただきます。