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デンマークは2050年にかけて国内の電力需要が6倍になる(らしい)

日本ではいま、第7次エネルギー基本計画の策定の時期ですね。
データセンター需要をどのように見積もるかを中心に、議論が白熱していることと思います。

先日の HVDC 見学の際に、デンマークのTSOである Energinet の方からデンマークの電力需給の見通しについて伺いました。

日本のそれとは様子が違い、えらく需要増加の見通しが立っていたので、何が見積もられているのか紹介しようと思います。

最新の需要見通しに個人的に少し疑問符がついたので、タイトルに(らしい)を付けてしまいました。すみません。


デンマークの電力需要見通し

前提として、いまのデンマークの電力需要は年30TWhほどで、北海道とほぼ同等の規模です。

2022年に公開された「AF20」予測に基づく電力消費量の見通しを以下に示します。

電力需要の見通し。データセンター・Power-to-Xプラントなどの新規需要が見込まれている
Energinet: "LONG-TERM DEVELOPMENT NEEDS IN THE POWER GRID Energinet’s long-term development plan 2022 – Needs analysis", p.6
https://energinet.dk/media/0rgldljv/lup22-behovsanalyse-el-engelsk.pdf 

図中の「AF20」とは、デンマークエネルギー機関(the Danish Energy Agency)と Energinet による分析 「Analysis Assumptions from 2020」にて推定された需要見通しを指しています。

この図だと2040年にかけて、年90TWh程度まで需要が増える見通しです。凄まじい。

またこのAF推定は年ごと更新されるようで、最新版はAF23となっています。
(AF24は現在取りまとめ中)

AF23はデンマーク語の資料しか見つけられなかったので参考程度に見てほしいのですが、より野心的な見積もりになっています。

具体的には、2040年時点の需要がAF20を大きく超え(150TWh/年)、2050年には現在の6倍強(200TWh/年)まで需要が増える想定を描いています。
これは今日の日本の電力需要(923TWh/年)の22%ほどに迫る数値です。

The Danish Energy Agency : Analyseforudsætninger til Energinet 2023
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Hoeringer/af23_sammenfatningsnotat_-_hoering.pdf 

AF23の上図の見通しの説明文の翻訳を以下に記載します。
Store varmepumper(ヒートポンプ)、Elkedler(電気ケトル)はガスの電化による需要増の想定みたいです。
それにしても、Power-to-X(PtX)の伸びがすさまじい。PtXは「電気を別形態のエネルギーに変換するプラントの総称」です。
とりわけ本資料では、電気から水素・アンモニアを生成するプラントを指す言葉として用いられています。

この推移は、70%という目標を達成するための基盤として、社会の一般電化を想定しているためである。
これは、2030年までに温室効果ガスを70%削減し、2045年までに気候変動を中立化するという目標を達成するための基盤として、社会の一般電化を想定しているためである。
2030年までに温室効果ガスを70%削減し、2045年までに気候ニュートラルにするという目標を達成するための基盤として、社会の全般的な電化を想定しているためである。
とりわけ、個人や集団のヒートポンプのための電力消費の増加を意味する。
家庭や企業における天然ガスの段階的使用廃止と、地域暖房の使用からの転換によるものである。
道路輸送のための電力消費の増加や、PtXのための電力消費の増加も意味する。PtXは、主に重輸送と工業で使用されると予想される。
分析の前提には、PtXの電力消費量も大きく含まれている。
また、分析の前提には、海上・航空による国際輸送の変遷に寄与する白金族の電力消費量も大きく含まれている。また、以下のことも想定している。
デンマークは長期的にはPtX製品の純輸出国になる。
北海のデンマーク海域の大規模な洋上風力ポテンシャルを利用するためである。図は、PtXのうち、送電網に接続されると想定される部分の電力消費量のみを示している。PtXのうち、洋上水素タービンが設置されると想定される部分は含まれていない、
また、電力消費量の増加は、データセンターの拡張によるものである。

Analyseforudsætninger til Energinet 2023, Slide11
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Hoeringer/af23_sammenfatningsnotat_-_hoering.pdf
Deelpで翻訳

クラスメイトに聞いてみたところ、ここまで舵取りが変わったきっかけは2021年の新政権が、Power-to-Xを国策にする意向を表明したことにあるのではないか、とのことでした。

デンマークは明確に、グリーン水素の輸出国になることを描き始めているように思います。

2022年3月、デンマーク政府はPtX戦略を策定
2030年までに4-6GWのPtXプラントを国内に建てる目標を宣言

どのエネルギー源で電気を供給しようとしているのか

では大幅に増える電力需要を、どのように供給しようとしているのか。
AF20の需要に対する供給の見通しは、以下のように見積もられています。

下図の供給容量は再生エネに限って記載されています。
2022年時点の10GW程度の容量とは別に、バイオガス、LNG、石炭火力も電源構成に含みます。
デンマークエネルギー機関の統計データでは、国内の全容量は2022年時点で17.6GW程度とのこと*1。 
再生エネ電力供給の見通し。太陽光と洋上風力の容量が2040年時点で各10GW程度に増加。
Energinet: "LONG-TERM DEVELOPMENT NEEDS IN THE POWER GRID Energinet’s long-term development plan 2022 – Needs analysis", p.6
https://energinet.dk/media/0rgldljv/lup22-behovsanalyse-el-engelsk.pdf

太陽光と洋上風力で大きく容量を増やす見通しとのこと。
これらの電源は、主にデンマーク西海岸地域および北海にて主に賄う見通しのようです。

Energinet: "LONG-TERM DEVELOPMENT NEEDS IN THE POWER GRID Energinet’s long-term development plan 2022 – Needs analysis", p.14
https://energinet.dk/media/0rgldljv/lup22-behovsanalyse-el-engelsk.pdf

Energy Island という見慣れない単語は、デンマークにて国家プロジェクトとして進行中の洋上風力を束ねるハブのような概念です。
電力供給の見通し図で、洋上風力とわざわざ分類を分けている理由は、このプロジェクトで3GWの容量建設を見込んでいることをわかりやすく表現するためではないかと推察しました。

ACCELERATED EXPANSION OF OFFSHORE WIND POWER
The Danish Folketing has decided to contruct two energy islands in Denmark – in the North Sea and in the Baltic Sea. The energy island on Bornholm will have a capacity of 3 GW with the possibility of 800 MW overplanting, while the one in the North Sea is expected to have a capacity of 3 GW at the start and 10 GW in the longer term.

One island – several connections: Energy islands can pool the power from multiple offshore wind farms and feed this directly to several countries. This represents a change from the previous philosophy of building isolated offshore wind farms with a power connection to one country only. Energinet has already joined forces with Germany's TSO, 50Hertz, in the Bornholm Energy Island project.

Various construction alternatives: The underlying structure is not decisive for the core function of the energy islands. The conversion of alternating current from large scale offshore wind power and the distribution of electricity across long distances may be implemented from platforms, artificial islands or, like on Bornholm, from an existing island. Platforms have shown to be the most economic and adaptable solution for Denmark in the North Sea

Hydrogen and green fuels: Excess green electricity from the Energy Islands can be converted into hydrogen and climate-neutral fuels (known as Power-to-X), which can be used in the decarbonisation of airplanes, ships, and heavy industry.

ENERGY ISLANDS IN DENMARK
https://en.energinet.dk/infrastructure-projects/energy-islands/

一方で、PtX戦略が策定されたあとに整備されたAF23に対する供給計画はどうなっているのか。

残念ながら関連する記載を見つけられませんでした。

これは、2050年に200TWh/年の需要が生まれたとして、どのような電源構成で供給するのかは現在議論されている、ということなのかなと思います。
(AF20に対する供給計画の記載がある Energinet の資料が2022年に公開されていることから、勝手に想定しています)

少なくとも、系統増強やPower-to-Xの事業性など、考えるべきことは山程ありそうです。。

この驚くべき需要増加見込みを示したAF23に対する供給計画が記載された資料を見つけたら、また紹介しようと思います。

今日の1枚はコペンハーゲンの Ørsted H.C. Power Station
この21MWコンバインド火力発電は首都の約25,000世帯の電気と地域熱供給を行う。1920年に運開し、1985年に石炭からLNGへ燃料を転換。

*1 Danish Energy Agency : Energy in Denmark, 2022, p.10
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Statistik/energy_in_denmark_2022.pdf
Electricity capacity (ultimo) [MW] = 17,597 MW in 2022


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takuroumi
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