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[デブサミ2021] 現場起点のアジャイル開発と組織のカルチャー 〜ビルドトラップを避け、生徒に“熱狂”を届ける〜

このnoteではDevelopers Summit 2021の登壇資料と、発表への反応をまとめています。

自己紹介

こんにちは、atama plusの江波です。2019年9月にatama plusにジョインしました。

atama plusは、学習をパーソナライズするAI先生「atama+」を全国の塾・予備校に提供してます。また、2020年7月より「オンライン模試」の提供も始めました。いつどこからでも受験でき、受験直後に結果が分かる模試と、分かった弱点にあわせて最短の学習ができるatama+を組み合わせることで、より効果的に生徒の学力を伸ばすループを作りたい。そんな思いで取り組んでます。

私はオンライン模試のプロダクトオーナーとatama+のプロダクトサクセスという2つの役割を担ってます。プロダクトサクセスとは、スクラムマスターと協力しながらプロダクトの成功確率最大化に向けた支援をする役割です。

自己紹介

僕らのプロダクトを取り巻く環境

atama plusは設立して3年半ほどの会社ですが、僕らのプロダクトを取り巻く状況はこのようになっています。

atama+を導入する塾・予備校は、21年1月時点で2100教室以上とこの半年で倍以上に急成長しています。

社内には、創業当初から全員でよりよいプロダクトをつくる意識が浸透しており、社内の誰もがプロダクトのアイディアを投稿するslackチャンネルには、年間3,000件以上投稿されています。

また、実際にプロダクトが使われる「現場」を大切にする文化が根付いているため、全員が塾を訪問し、授業の様子を観察したり、インタビューしたりします。そして、現場に行って気づいたことを、専用のslackチャンネルで共有しあっています。

こうして見ていくと、ある種プロダクト作りにおいて理想的な環境と思われる方もいるのではないでしょうか。

僕らのプロダクトを取り巻く環境


しかし見方を変えると、こういった環境はビルドトラップに陥りやすい環境とも言うことができます。

ビルドトラップとは、「組織がアウトカム(成果)ではなく、アウトプットで成功を計測しようとして行き詰まっている状況」を指した言葉です。違った言い方をすると「実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況」です。
参考:『プロダクトマネジメント――ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける』

以下はビルドトラップに陥っている可能性が高い事例です。
・顧客・社内外のステークホルダーの意見や要望をそのまま受け入れる
・目についた課題をピックアップし、その解決策を考える
・良さそうなアイディアを受け入れ、そのまま開発に着手する
・「こうしたい・こうあるべき」に愚直に従って機能を開発する

いずれも「作ること・届けること」に目が向いており、実際に生み出される(であろう)価値や成果に目が向いていません。

私たちはこのビルドトラップを避けるために3つの工夫とチャレンジをしています。

ビルドトラップを避けるための工夫とチャレンジ

1.デュアルトラックアジャイル

ひとつめはデュアルトラックアジャイルです。
デュアルトラックアジャイルとは、ディスカバリーとデリバリーの両トラックを並行する開発手法のことです。

私たちは、プロダクトディスカバリーを「アイディアの妥当性を検証するプロセス」と位置付けています。実際にプロダクト開発に着手する前に、解消したい課題に対して、アイディアを構築して、検証して、学習して、何かしらの意思決定をする。その一連のプロセスに取り組んでいます。

一見非効率に見えるかもしれません。それでもディスカバリーに取り組むのは、無駄を減らし組織のROIを高めるためです。作ってみたけど課題解決につながらなかった、使われなかった、つまり成果に繋がらなかった経験は、誰しもあるのではないでしょうか。最も避けるべき失敗は、それが「全力で作った後」に判明することです。

アイディアに潜むリスク(=不確実性)に早期に取り組み、成果に繋がらない「無駄」への投資を最小化するようにしています。

実際にオンライン模試の開発で行ったディスカバーの例を紹介します。

機能横断チームによるデュアルトラックアジャイルの具体例

オンライン模試を実施して、「紙の模試と比べて問題が見にくい・解きにくい」という課題が最も大きそうだとわかってきました。その時点でPOである私の中にはアイディアがいくつかありましたが、それをそのまま作るのではなく、まず全員でアイディア出しをしました。

あがった30〜40個のアイディアを全員で評価し、最初に構築するプロトタイプの方針を決めます。そして、最小限のプロトタイプでユーザーテストを行い、その様子をチーム全員で観察します。観察した学びを共有し、次のアクションを意思決定します。

1度で筋のいいアイディアが特定できると良いのですが、そううまくは行きません。プロトタイプに改善を加える、別軸のプロトタイプを作って試すなど、学びを繰り返すことでアイディアがブラッシュアップされ、デリバーの意思決定ができるアイディアに到達することができました。

実際にデリバーされたオンライン模試では、解きにくさが解消されており「オンラインの方が解きやすかった」という声も多くありました。ディスカバリーのプロセスが効いた事例かなと思っています。

ここで紹介したのは一例です。取り組む課題によって、ディスカバートラックの取り組み方も様々です。色んな方法やテクニックでアイディアの妥当性を検証しています。

プロダクトディスカバリーにおける重要なポイントは現場

プロダクトディスカバリーにおける重要なポイントは「現場」だと思っています。

必要最小限のプロトタイプを用いて現場や実ユーザーでの検証を重ね、求めるアウトカムに繋がるか否か、見落としているリスク(不確実性)がないかをシビアに評価することが重要です。

このプロセスにより、多くのアイディアが棄却されます。アイディアの棄却はもちろん、ときには取り組む課題自体を棄却します。私たちはそれを良しとしています。

atama plusのカルチャーを言語化した「atama+ culture code」でもこんなふうに明言しています。「現場のリアルの前に、それまでの自分の仮説やこだわりを軽やかに捨て、大胆に方向転換できるしなやかさを持つ。」
我々のプロダクト開発において、現場のリアルが何よりも重要です。
現場のリアルを起点に、アジャイルにものづくりを進めていくことが重要だと組織全体として信じています。

デュアルトラックアジャイルについて、くわしくはこちらもご覧ください。

2. BX・課題整理トラック

2つめのビルドトラップを避けるための工夫は、「BX(Business UX)」という役割と「課題整理トラック」というプロセスを新設したことです。

atama plusは急成長していますが、成長に伴う痛みも出てきました。プロダクト課題はどんどん複雑化し、顧客理解の重要性は日に日に増しています。その結果、1人のプロダクトオーナーが全ての課題の依存関係・構造を正しく把握・理解し、取り組む課題の選択・優先順位付けを行うことが現実的に難しくなってきました。

そこで、プロダクトオーナーと伴走するBXという役割を、プロダクトチーム内に新設しました。

BXは、ビジネス観点・顧客観点を持って、プロダクト課題の整理やディスカバリーを推進していく役割です。それまでビジネスチームでカスタマーサクセスや事業企画を担っていたメンバーを抜擢しました。これまでビジネスの第一線で活躍していた人材で、プロダクト開発経験は一切ありません。「兼務」や「期限付き」ではなく「完全異動」するという、ビジネスチームとプロダクトチームの双方にとって、インパクトの大きいトライです。

BXという役割の新設

また、先ほど述べたようにプロダクト課題が複雑化する中で、そもそも取り組む課題を正しく理解し、整理する必要性がプロダクトオーナーにとっても開発チームにとっても増していました。そこで、ディスカバートラックの前段に「課題整理トラック」というプロセスを明示的に置くようにしました。

そして、その課題整理トラックで取り扱う課題をプロダクトオーナーが選定したり、3つのトラックに職能横断チームが取り組むのをそれぞれBXが伴走する体制になっています。

課題整理トラックというプロセスの新設

顧客観点やビジネス観点を、プロダクトオーナーや開発チームに持ち込むことで、プロダクトチーム全体として現場・課題の解像度を高め、正しく意思決定できるようなトライをしています。

3. ビジネスチームとの共通理解

3つめの工夫は、ビジネスチームとの共通理解です。

ビルドトラップに陥っている可能性が高い事例に、「ステークホルダーの意見や要望をそのまま受け入れる」というのがありました。しかし、そういった意見や要望を軽視する/無視するのもまたNGです。

プロダクトチームはそれらを正しく咀嚼し、意思決定する必要があります。ビジネスとプロダクトが一緒に課題を解決するためには、ビジネスチームによるプロダクト理解と、プロダクトチームによるビジネス理解の両方が不可欠です。

相互理解のため、様々な施策に取り組んでいます。

ビジネスチームによるプロダクト理解

プロダクトチームによるビジネス理解

プロダクトチームがビジネスチームとの共通理解を持つことで、あがってきた意見・要望の背後にある課題を正しく認識できるようになります。

プロダクト開発における様々なトライを可能にするポイント

ここまで様々なトライを紹介しました。このような難しいトライを可能にするポイントはなんですか?という質問をよく受けます。

あえて一つ絞るならば、最も土台にあるのは組織のカルチャーです。表面的な打ち手だけを真似ようと思っても、そういったトライは続かないことが多いのではないでしょうか。

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私たちは、「生徒が熱狂する学び」を何より大事にしています。これを追求することが、ミッション実現の最短の道だと全員が信じているからです。

”Wow students.”に繋がるトライであれば積極的にやることが、カルチャーとして根付いているのです。

また、大切にしている3つの行動を定めていて、これらに基づいて行動することも推奨されています。

大切にしている3つの行動


大切にしている3つの行動を体現するために必要なことを精緻に言語化した「atama+ culture code」も存在します。今までもこれからも大切にしていきたい価値観を言葉にし、全員で分かち合うことで、Mission実現に向かっています。未来のatama plusメンバーにも共有するため社外にも公開しています。

こういったカルチャーの土台が、様々なトライのしやすさにつながっています。

プロダクトもビジネスも真似できますが、カルチャーだけは真似できません。
カルチャーに投資をし、唯一無二のカルチャーに根差したトライを重ねることにこだわっています。

これからも、ミッションの実現に向けたチャレンジを続けていきたいなと思っています。


登壇資料をそのまま見たい方はこちらをご覧ください。


いただいた反応

いただいた反応を見ていて、今回のテーマであった「ビルドトラップ」や「現場・顧客理解の重要性」は、多くのプロダクト開発組織にとって共通の課題なのだと改めて認識しました。

自分たちもまだまだ至らぬ点が多いので、改めて気を引き締めて日々のチャレンジを続けていきます。

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atama plusで一緒に働きたいと思ってくれる仲間を増やしたいと思っています。ミッションに共感いただけた方、これからの教育を一緒に作っていきたいと思っていただけた方、是非一度話を聞きにきてください!

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