ハードボイルドの本当の語源
先日、とある仕事でメンズ・ファッション評論家として有名な出石尚三さんとお話をする機会があった。主に帽子についてのインタビューだったのだが、戦後アメリカにおけるファッションついて話が展開していった。
アイビーリーグと呼ばれる、アメリカ東海岸に校舎を構える8つの名門私立大学に通った、白人青年(WASP=White Anglo-Saxon Protestants)たちの着こなしがアイビールックとして確立されたことに話が及ぶ。
そして裕福な家庭に育った彼らは、ある一定の年齢に達すると、必ずといっていいほど父親から英国留学を命ぜられたという。そこで彼らは英国流の着こなしやマナーを徹底的に叩き込まれて米国に戻ってきたそうだ。
彼らの着こなしのルールは1930年代の英国紳士たちの着こなし。アメリカ英語で言えばAカラー(日本ではレギュラーカラーと呼ばれている)のハードカラーシャツを着るのがルールであった。
その名の通り、糊を効かせてカチカチに硬くなった襟は、肌が弱い男性なら擦れて血が出るほどだったという。洗濯する時は固まった糊を落とすために、熱湯を入れた釜に入れて茹でなければならなかったほど。
ここ日本では、ハードボイルドは固く茹でられた卵を差し、その状態から転じて、感情に流されず精神的にも肉体的にも屈強な男性を指す言葉として理解されてきた。しかし、ハードボイルドの本当の語源は、ハードカラーのシャツを好んで着ていた、昔気質で融通の効かない男のことだったのだ。