楽しい夜を探して
昨日はとんでもなく楽しい夜であった。
いまは奥さんと息子が実家に帰省している関係で、家に早く帰る必要はない。普段から奥さんは「別に飲みくらい行ってきてもいいよ」とは言ってくれるが、後ろめたさはやはりある。
「じゃあ行っちゃいますか」ということで、誘ってくれたのは学生時代のバイトの先輩であり、悪友キタさん。
神戸三宮の少し外れた場所で僕たちは会った。キタさんはこのnoteにも何度か登場したことのある傍若無人な男だが、意外と時間はきちんと守る。
「俺この辺取り締まってるから」と言われ、キタさんの馴染みの店をいくつか回ったがどこも閉店していた。気づけば先ほどから同じところをグルグルしている。そして4軒目に訪れた焼き鳥屋は開いており、やっと寒さを回避できた。
その焼き鳥屋は常連さんがしっぽり飲むタイプの落ち着いた店だった。「ここも行きつけやねん」とキタさんは言っていたが、マスターは黙々と調理するだけでこちらには目もくれない。
ゆっくり落ち着いて食べるタイプの店のはずなのに僕たちは急ピッチでオーダーした。学生が焼肉食べ放題に来た時ばりに僕たちは頼んでいく。せっかちなキタさんが急かすからだ。そして何よりあの人は声がでかい。
「マスター!僕のこと覚えてますか?」
静かな店内にキタさんの声が響く。
「ああ、覚えてるで」
そら覚えてるわ。こんな騒がしい人。
マスターは愛想が良いとも言えないリアクションだったが、キタさんはそんなことでめげるような男ではない。
「こんな美味しい冷奴初めて食べましたわ!」
「もうこれ以上食べれへんけど、鶏茶漬けも鮭茶漬けもどっちも食べるわ!」
気づけばマスターも周りのお客さんもキタさんの言うことに笑っていた。最初は迷惑がられていたのに。
続いて向かったのは、またもキタさんの行きつけだというスナック。ここは本当に常連のようで、入店するなり我々は大歓迎された。
スナックなんていつぶりだろうか。というか会社の飲み会が廃止になったから酒も久しく飲んでいなかった。
そこのスナックはお爺さんがマスターをやっており、50歳くらいのチーママと20代後半くらいのチャンネーが前線に繰り出してその日は営業していた。この3世代揃った家族のような3人のバランスが完璧であった。アットホーム感があって初見の僕にも話を程よく振ってくれる。横ではエンジン全開のおっさん(キタさん)が好き放題に話し、歌っている。おそらく新年会の二次会と思われる会社員たちもいて、その中の1人が大鶴肥満みたいな体型をしながら優しい声でKinKi Kidsを歌うのでそれがツボに入ってしまった。
「よっ!課長!うまいっすねー!」
などと煽るも「てへへ、平社員です」とカウンターを浴びせられる。なんて楽しい空間なんだろう。
マスターは僕のオーストラリアでの経験や家族のことを興味深そうに聞いてくれて「無理して飲まんでええからな」と気を使ってくれた。最後には昆布茶を出してくれて、これがまた美味かった。
スナックには1時間くらいで出ようと思っていたが結局3時間くらいいた。こんな日はたまにあってもいい。たまにあるから楽しいのだ。