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主人公は汗をかく

オーストラリアにいた2021年から2022年の間、シナリオセンターという青山にあるシナリオスクールにオンラインで参加していた。
20枚のシナリオを全部で30本ほど課題として書き、毎週の授業でそれを朗読にて発表する。この朗読というところが肝で、自分の書いたものを、7人くらいの前で、自分の声で読み上げるというのはなかなかに恥ずかしい。まさに学校という感じだ。

自信のあるシナリオの時はやはりどうしても声が大きくなる。どうだ、おもしろいだろう?俺の作品は!しかしそんな時に限って酷評が多く飛び交う。
「感情移入できない」
「ただ強いセリフを並べているだけな気がする」
「毎回似たような話ばかり」
これは僕も該当するのだが、こういうところに通っている受講生は自分の作品が一番おもしろいと思っているので、講評となると容赦ない。僕が聞く側に回ったときも、やはり他の生徒のシナリオはおもしろくねえなと思いながら聞いていた。感想を言えと言われても「おもしろくなかった」としか言えない。おもしろくない、を濁して濁して「主人公が汗かいてない」とか「展開がないですねえ」のような表現に変えるのがやっとだ。

同じクラスの人たちでライングループが結成されたが、脚本家志望の集まりなので調和を保ちながら平和にメッセージのやり取りなどできるわけがなく、皆が言いたいことを言う。自分が最近見たドラマでおもしろかったものを、おすすめという体で、グループ上に書いて発散させる。勉強会を開催しようとしても、開催に至るどころか誰も参加の可否を表明しない。
大人になってから脚本を書くような人たちの集まりだ。それくらいの状態が健全だといえる。僕の頃はスマホなどがなかったが、いまの中高生とかはクラスのライングループとかあるのだろうな。いろいろ大変だ。そういう意味ではそこも学校気分を味わえてよかった。

今はシナリオセンターには行っていないが、毎週自分の作品を発表して、つまらない他人の作品を聞いたあの時間は、結構幸福であった。月4回のレッスンで月謝は8,800円くらいだっただろうか。やはりそれなりにお金を払えば、癖のあるおもしろい人たちと知り合える。

「学ぶ人は、変えていく人だ」
これは旺文社のキャッチコピーである。学ぶことは社会を変える、そして何より自分を変える。でも1人で学ぶのは暗くて寂しいから、学校だったり、オンラインサロンだったり、共通項で語り合える場所に行って、自分は社会の一員であることを確認する。学んでいるかぎり、社会から取り残されることはない。
電車が遅延して駅員さんにキレているおっさんがたまにいるが、あれはおそらく学ぶのをやめた人だ。

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松本拓郎
サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。