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奇跡の映画

奇跡のような映画を一作だけ知っている。

それは「14歳の栞」という2021年に上映されたドキュメンタリー映画だ。来年はあるか分からないが毎年春になるとリバイバル上映されるので、僕は2023年の再上映を池袋で見た。
この映画はおそらくテレビで上映されることもなければ、オンデマンドで配信されることもない。ドキュメンタリーとしてはあまりに異質すぎるからだ。

「14歳の栞」はどこにでもある中学校の、どこにでもありそうなクラスの1年間を追ったドキュメンタリー映画である。そこに非行生徒はいないし、学級崩壊は起こらない。普通の中学生たち31人にスポットを充て、1年間カメラを回し続けている。事件こそ起こらないけど、学校という場所を経験した人なら誰だって楽しめる内容になっている。普通の公立中学校になんて密着のカメラはなかなか入っていけないから、実体験としては知っていることでも、映像として見ることはなかなかできないからだ。

まず31人分の生徒、さらにはその保護者に撮影許可をもらったことに感服するし、商業映画として成立するかも分からない中で撮影を続けた竹林亮監督の執念に驚く。今後似たような映画が出てくることはないだろう。

映画には学校という小さな社会の暗部もしっかり描かれている。明言こそされなかったが「これってイジメじゃね?」「やってる側に自覚がないタイプのイジメじゃね?」みたいなコマがあるので、そこは少しヒヤッとした。
不登校の生徒もいて、当該生徒にちゃんと取材をして、不登校のきっかけを探るところなんかも緊張感があってよかった。

めんどくさそうなやつ、うるさいやつ、冗談の通じないやつ、いろんな生徒が映画には出てくる。そういえば学校ってそんな場所だったなと思い出させてくれる。会社ではみんな良い子にするが、人間とは本来自分勝手な生き物で、男子は気になる女の子のことしか考えていない。

僕は金八先生第7シリーズをVHSが擦り切れるほど観ていた子供だったので、濱田岳さんの今の活躍を見ると「伸太郎、すごい役者になったなあ」と謎の親目線で見てしまう。
映画に出てきた31人はいまどうしているのだろうか。おそらくだが映画は2018年から2019年の1年間を追っていたので、彼らは大学生になっていたり、社会人になっていたり、海外を放浪していたりするのかな。池袋でこの映画を観て、明転したあと、思わず周りの観客たちを見て、少し大人になった彼らが来ていないか確認した。できることなら毎年再上映してほしいな。

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松本拓郎
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