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事実は一つや!
職場の近くには大阪地裁があるため、周辺には司法書士事務所や法律事務所が軒を連ねている。そのせいか忙しそうな人や急いでいる人が多く、外はなにかと慌ただしい。ランチのお店はどこも混んでいるし、コンビニはてんやわんや状態。週末の静寂とはまるで景色が違う。
あまり大きな声では言えないが僕は会社周辺の雑居ビルを探訪するのが好きだ。そのほとんどが先ほど書いたように法律関係の事務所だが、中には穴場のカレー屋があったり、インドとかスリランカあたりをモチーフにした雑貨屋があったりと思わぬ発見があるからおもしろい。
「その日」も、昼休憩の時間を持て余したのでお得意の潜入捜査を実行した。エレベーターホールで各フロアの案内板を見る。やはり法律系ばかり。ハズレか、と肩を落とし出ようとしたところ、エントランスでスーツを着た男女とすれ違う。おそらく男が上司で女がその部下だ。女の言葉は丁寧ながらも上司に何かを訴えているようだった。
「わたしはあの人が正しいと思うんです!」
「でも証拠がないと動きようがないやろ!」
法廷ドラマの撮影でもしてるのかと思ったがカメラはなかった。エレベーターを待っている2人の会話を聞くからに、おそらく彼らも法律の仕事をしている。小難しい話をし、女性の方は泣きそうになりながら何か訴えている。
「でも!私は!」
「ええか!し、事実は一つや!」
男は完全に、コナンくんのあのセリフが喉まで出たところを押し込んだ。やばい!と思ったのだろう。でも言いたいことはコナンくんと一致している。どうしよう。部下にカッコ悪いところは見せられない。しかもエレベーター付近では見知らぬ小さな男がこちらを見ている。そして男は「うーーー!事実っ!!」と絞り出したのだ。一瞬の葛藤が見てとれた。
今までは刑事ドラマとか見ていると「仕事中にこんなキザなこと言わねえだろ!」と文句を垂れ流し、缶ビールを投げてはテレビをぶっ壊していたが、案外実際の現場ではドラマくらいに熱い言葉が飛び交っているのかもしれない。
本気の人には本気の言葉がついてくる。そしてたまにコナンくんが憑依する。
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