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靴下ほど高い買い物はない

靴下がない。4足くらいしかない。だから洗濯のローテーションが回っておらず、ここだけの話、前日と同じ靴下を履いて出勤することもある。プロ野球で言うと、4人しか先発ピッチャーがいないので全員中3日で回していることになる。だったら先発ピッチャーを補強しろよという話なのだが、靴下とかトランクスを買うのってどういうわけか悔しい。

下着は人に見えるものじゃない。だから僕は平気で破れたものであっても使い続ける。買わなくてもなんとかなるんじゃないという思考が先に働くのだ。そもそも、家の中を隈なく探せば絶対に3足や4足は出てくる。諸々の理由で片方が行方不明になったやつらも足せば、もう2足くらいは絶対に出てくるはずなのだ。しかし、ない。下着ケースに靴下がない。もっとあったはずなのに。

そしてこの度、穴の開いていた靴下を妻に捨てられた。もう少し履く予定だったのだが、捨てられたものは仕方ない。だから僕の靴下ローテーションはカツカツというわけなのだ。
「靴下買ってきなよ」と何度も言われているが、その足取りは重い。靴下だけに。どうして靴下なんかに金をかけないといけないのか。「靴下を買う」というその行為自体が、自分に負けた気がして、許せない。妻にはそんな僕を許してほしい。

先月実家に帰った。オーストラリアからの荷物は一度全部ここに送ったので、靴下の残りはここにあるはずだ。ストッキング大捜索が始まる。しかしどこにもない。クローゼットの中、机の上、排水口の中、そんなとこにいるはずもないのに。

買いたくない理由はもう一つある。「普通に生きていたら誰かからもらえそう」だからだ。現に節目節目で僕は貰い物の靴下にありつけていた。だから最後に買った日は記憶にないくらいなのだ。実家の靴下捜索を断念し、母親に問うた。
「靴下もらえへん?」
「ないわそんなもん」
うなだれた僕は足元に目がいく。その靴下も穴が空いている。こいつも、復帰のメドがない故障者リストに入る日は近い。僕は涙目で、叫びたい衝動を拳の握力で抑え、うなだれながらファッションセンターしまむらへと入っていくのだった。

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松本拓郎
サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。