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あの子が可愛くなかった時

20年ほど前だろうか。TBS系例で香里奈さんが主演で「だいすき!!」というドラマが放送されていた。主人公には軽度の知的障害があり、周りの支えなどがありながら、ゆっくり成長していくというような物語だったと記憶している。
ウチは両親共々障害者福祉事業に従事しており、重度の自閉症、知的障害者の方々の世話を日頃からしている。ましてやウチの母親は大のドラマ好き。「だいすき!!」はもちろん観るのだろうと思ってたが、観ている気配がない。
なぜかと理由を聞くと、あのいつものほほんとしている母が怖い顔でこう言った。
「美化や。あんなもんは。香里奈が自閉症で頑張ってるからみんな助けてるんやない。顔が可愛いからや」
「そうなん?」
「顔のフィルターを取り除いて観てみたいわ」

たしかに、と思ってしまった。親がそういう仕事をしているものだから、小さい頃から知的障害のある方々は身近にいた。ドラマでは軽度の知的障害という設定だが、重度になってくるとまず言葉を発さない。ヨダレがずっと出続けている。言葉を発したとしてもキャッチボールなんてできるはずがなく、決まったことしか言わないしやらない。家族で見るような時間帯にやるドラマになんかなるわけないのだ。
あの香里奈を観た視聴者が「知的障害者とは大体こんなもんだろう」と判断するのは危険だ、と母は言いたかったのだと思う。現実はもっとダークで、それこそもっと深いドラマがあるのに。もったいない。

テレビにはどうしても制約があって、レベルが100まであるとしたら80くらいまでしか映せない。Netflixをはじめとする配信サービス系は、100のうち90くらいまで、もっと奥まで行けるので段々と視聴者がそちらに移行しているというのが今の流れだ。これから、テレビも負けてられないと追随するのか、攻めないという攻めをするのかは分からないが、少なくとも20年前に作られたあのドラマは踏み込まなかった。

でもどうなんだろう。このことに関しては未だに考えてしまう。香里奈という綺麗で知名度もある女優が知的障害者を演じることで、いろんな人が興味持ったというのは紛れもない事実だ。社会にはいろんな人がいる。誰でもできることができないかと思ったら、ある特定の分野でとてつもない才能を発揮する人がいる。

「オアシス」という韓国映画がある。ヒロインはなんと脳性麻痺を持っていて、女優の方が見事に演じきっている。もう本物の脳性麻痺患者かと思ったくらいで、その方の名前を検索したら他作品では「普通」の役を演じていたので驚いた。それくらい圧巻だった。たとえ観る人のパイが少なくなってもあれくらいのリアルを見せるべきなのか、大衆に寄せるべきなのか、その答えは分からないので僕に脚本書かせてください。ゴリゴリのディープを書いてやる。

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松本拓郎
サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。