誰にでもできる仕事
大学生のころ、バッティングセンターでバイトしていた。
そこでやることといえば基本的には掃除。あとは突っ立って「安全確認」という名目でお客様がバッティングする様子を見るだけだ。やはりうまい選手は一目で分かる。聞いてみれば野球の名門校でプレーしている現役の高校球児だったり、かつてはノンプロで活躍していた人だったり、大阪では珍しい硬球が打てるバッティングセンターだったのでいろんな人が来店していた。現広島ヘッドコーチの藤井さんは当時タイガースの現役で、自主トレの一環としてその店に来ていた。
今年まで阪神で打撃コーチをしていた水口さんは野球教室をそのバッセンでやっていて、僕も教えてもらったことがある。
バイトしていて良かったのはそれくらい。基本的には暇。むちゃくちゃ暇だった。暇なバイトって楽でいいんじゃないかと思っていたけど、あれは苦痛でしかない。バイトはお金をもらうだけじゃなくて、社会の役に立っているという実感も必要だとそこで学んだ。
土地柄か、ヤンキーみたいなやつもたまに来ていた。やつらはルールを無視して、ティーバッティングスペースで遊びだすので、ようやくバイトの僕の出番である。注意しなければならない。しかしどう考えても怖いし、言うことを聞いてくれるわけもないので、そんな時は奥の控室で待機している強面の店長を呼ぶ。彼がシャンクスの「失せろ」ばりにひと睨みすればそれで万事解決なので、バイトの松本の出番はない。
暇すぎたのでそこのバイトは1年弱くらいで辞めた。仕事とかバイトって、忙しいのが嫌すぎて辞めるものだとばかり思っていた。その後に雇ってもらった明光義塾は程よく楽で、程よく忙しかったので僕の肌に合っていた。結局大学を卒業するまでの3年間はそこでバイトし、「就職決まってないんやったらうちで塾長やったらええやん」と当時の塾長に言われたが、丁重にお断りした。あの時受諾していたら全く別の人生になっていた気がする。
生活と仕事はほどよく忙しくないといけない。だから僕は、基本的に立ちっぱなしの仕事をしている人(駐車場の警備員とかライブ会場の警備員とか)には、無差別に尊敬してしまう。簡単だけれど、絶対に必要で、忍耐力の問われる仕事だ。誰にでもできる仕事って実は、誰もやりたがらない仕事だったりする。しかし社会的に評価されるのはいつだって「誰もできないことをやっている人」だ。いつか、暇を耐え忍ぶ人たちを集めて、大打ち上げを開催したい。俺たち暇だよな、しんどいよなと苦しみを分かち合いたい。大谷翔平もすごいけど、俺たちも頑張ってるよな!と確認し合いたい。バッティングセンターを半年で辞めた僕はどの立場からそれを開催させたらいいのか迷うところだが、その光景を眺めながらうんうんと頷いてあげることはできる。みんな頑張ってるぜ。