ユー、やっちゃいなよ
録画していたNHKスペシャル「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」を見た。圧倒的取材力を振り回し、ジャニーズ帝国がいかに覇権を取ったかが詳細に語られた。NHKの番組なのに、ジャニーズとズブズブだった元NHK社員にも突撃取材していたのには思わず笑った。
そして見ていて意外だったのは、会社の実権を握っていたのはジャニー氏ではなく姉のメリー氏であったことだ。しかしどれだけ綿密な取材を重ねたとしても、どうしても「欠席裁判」になってしまうので本当のことは分からない。生きているうちにやらないと、残尿感は残るし、被害者の気分は晴れない。冤罪で長年刑務所生活を送っていた袴田さんでさえもギリギリアウトだと思う。
しかしメディア側も、亡くなったからこそ動き出せたというのもあるはずだ。現にテレビ東京はメリー氏と一悶着あって以来、全ての出演オファーをジャニーズ側に断られたと聞く。週刊誌だって、各出版社がいくつも出している刊行物の中の1つにすぎない。メリー氏の気分を損ねてしまうと、タレント本や写真集が発売できなくなるから、思い切ったところまで踏み込めなかった。圧倒的支配力。その牙城は本人たちの死を持ってしても、消えることがなかった。
隠蔽体質を作り出したのは「弟を守りたい」というメリー氏の同情が引き起こしたものだと番組は推測している。子供の頃に母親を亡くし、戦時中はジャニー氏と共に疎開。戦争が終わると生まれ故郷であるアメリカに、やはりジャニー氏と二人で戻った。「強い女」はそういうふうにして出来上がった。ジャニー氏は弟というよりも息子のような存在だったに違いない。愛に飢え、上しか見ることができなかった姉弟の逆襲は、結果的に多くのファンを熱狂させ、弱き立場の少年たちの人生を狂わせた。
虐待をしてしまう人は、自分も親から虐待を受けて育った可能性が高い、という話を父親から聞いた。だから僕は息子に虐待をすることがないらしい。本当だろうか?子育てを実際に初めてみて、今まで全く理解できなかった、虐待やネグレクトをする親の心理が少し分かるようになった。子供の泣き声は心に重く響く。泣き止まないだけでかなり疲れてしまう。疲れている時にかぎって息子がなかなか寝てくれない。そして赤ちゃんは熱い。ずっと抱っこをしていると汗が止まらない。多汗がゆえに発疹が出て痒みが出る。そんなパンチを繰り返されると、実際に乱暴をすることは当然ないけど、「プチンと切れてしまう人はいる」というのは容易に想像できる。
それでも僕が手を出さずにいられているのは、僕がそうされてこなかったからであり、旧ジャニーズ事務所の被害者たちの声が悲壮に満ちていたからだ。少年少女のトラウマは以後の倫理観や人間形成に大きな影響を与える。息子はたった一人の"You"だけれど、おそらく僕のことも好いてくれているだろうけど、僕は支配者にはなりたくない。