借金生活のススメ
借金のできる人間になりたい。でもおそらく借金しない人生のままこのまま死んでいくのだと思う。僕はそういう人間である。たとえば5%くらいの期待値で脚本家になれるイベントか何かがあったとしても、その日が仕事なら僕は何ともない顔で出社すると思う。だって減給とかされたら嫌だもの。借金できるほどの度量が、過去も未来も鑑みない大胆な姿勢が、僕には足りない。
松本人志さんは、自身の父親が人生でリスクを取らなかったことにずっと腹を立てていたらしい。借金くらいせえよと。「貧乏は別にええねん。でもそれは勝負した上での貧乏なのか、ノーアクションでの貧乏なのかで全然違うから!人生かけてどっかで勝負しろや!」
ラジオで半ば怒りながらそう叫んでいたのが耳に焼き付いている。とんねるずは体育会系で、ダウンタウンは文化系だとよく称されるが、ダウンタウンもバリバリに体育会系側だと思うのは僕だけだろうか。
人生にはいつか「ここぞ」が来る。それが来たとき、乗るか乗らないかは自分次第だ。平成5年からの人生を振り返ってみて、僕はおそらく何度かここぞを逃している。小学校4年生のとき、あまりに泳げなさすぎた僕を見かねて母親が夏休み水泳教室に応募した。僕も最初は意気込んでいたが、日が近づくにつれて憂鬱になり、ついには当日自分で電話してキャンセルした。あの時、間違いなく別路線が動き出したと思う。キャンセルした理由に関しては、4年生にもなって低学年にまぎれてカナヅチという醜態をさらすのが嫌だったからだ。無駄で愚かなプライド。何も考えず飛び込めばよかった。
僕が、大人になってからも留学したり、大学に通い始めたりする人に拍手を送りたくなるのは、自身の逃げた過去があるからだと思う。オアシズの光浦さんも、大江千里さんも50手前にして海外留学をした方々だ。彼らの中に留学は若い人がするもの、という凝り固まった考えはない。学びたいから学ぶ。とてもシンプルだ。
何かを始めることに年齢は関係ないし、遅すぎることもない。なりふり構わず突き進める人はきっと、借金できる人でもある。
いま売り出し中の芸人で、僕が大好きなひょうろくさんという方がいる。ひょうろくさんが売れたのは、さらば青春の光のYouTube企画で「⚪︎時までに事務所に来てオナラをこけたら賞金ゲット」がきっかけだ。その時ひょうろくさんは飲食店でバイトしていたが、その企画には絶対参加しないと!という気持ちが勝ち、店を抜け出して五反田の事務所に駆けつけ、そこから人気に火がついた。いくらバイトでも僕にはそんなこと絶対できない。人に怒られるのが何よりも嫌いだからだ。
でも「芸人として売れたい」という夢が一番にあるのなら、バイトを抜け出すことが異端なのではなく、なりふり構わず五反田へ行くことが至極真っ当だろう。
家族を持つとどうしても守りに入ってしまう。守りを固めた父親の背中を見て、果たして息子は大きく育つだろうか。ロケバス不倫はリスクの振り切り方を間違えていると思うが、多少の「借金」は人生に必要だ。海老で鯛は釣れない。
サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。