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LOLOET troisとYes,and ―声を上げる勇気と、愛すべきべき臆病さ


Music×Workshop:Play for rights

先日、アムネスティ主催の人権デーイベント「PEOPLE POWER! 私たちは無力じゃない」にてYes,andワークショップを開催しました。今回はLOLOET troisの和田彩花さん、劔樹人さん、浜谷安里さんをお呼びしてのミュージックワークショップで30名近くの方とセッションしました。バンドの生演奏でやるワークショップは僕も始めてだったのでとても楽しみで、すごく緊張していました。無事に終わってよかった…
アムネスティのHPにイベント報告がありますのでぜひご覧ください。

ここだけの話ですがワークが始まる直前に気合を入れすぎたのか鼻血が出てきました。人は興奮すると本当に鼻血が出るんですね。ビックリしました。

まずはみんなで遊びながら「失敗を歓迎する」感覚を楽しみました。ゲームをやって誰かが失敗したら「イエーイ!」といいながらハイタッチする。そうやって少しずつ安心感を獲得していきます。和田さん劔さんはまちゃんの3人にも一緒に参加してもらいました。そこからは音楽に合わせていくつかのトレーニングを。お互いに影響を与え合い、変化し合う。参加者のパフォーマンスに合わせて音楽も変わり、変化を受け入れていく過程はすごくスリリングでした!

最後には参加者のみなさんに持ち寄っていただいた簡単な楽器と、劔さんのベース、はまちゃんのパーカッションと一緒にリズムを奏で、そこに和田さんが世界人権宣言の詩を載せるパフォーマンスを行いました。こういったワークはその場にいる人にしか味わえないもので、こうやって文章にしてもなかなかその空気感を伝ることはできません。あの時、あの場所、あの場にいた人たちでしか生み出せない、その瞬間だけのものを大切にするワークができたと思っています。みんなが持ち寄った楽器にはどこかの民族楽器もあったり、「何もなかったので」と言って拾ってきたぎんなんの実を袋に入れてシャカシャカならしてた人もいて最高でした!ああ楽しかった。

今回のワークでは「対等な関係を作る」ことに重点を置いていました。
僕は普段講師の仕事をしているんですが、講座では教える方と教えらえる方という明確な上下関係ができてしまいがちです。これはどんな会社や組織でもそうだと思うんですが、常に上下の関係性によってチームが作られてしまうと思います。もちろん大きな組織を作るためには必要なことなのかもしれませんが、それは社会のなかで必要な「道具としての関係性」であり、人と人の根本的な関係においては上下などないと思います。僕は講師で教える側だけど、それはそういう社会的な役割を演じているだけで、人間としては参加者のみなさんとなんの違いもないのです。だけど我々は社会的な道具としての関係性を人間の価値そのものと勘違いしてしまいがちです。だからこういったワークが大切で、我々の関係性は上下で作られるものではなく、みんなが対等にそれぞれを尊重し合っていいはずだということを再確認する必要があるのです。今回のワークでもリズムを奏でる我々と詩を載せる和田さんに上下関係はありません。ただ役割が違うだけです。これは演劇における主役と脇役でも同じです。主役が偉いというのとはありません。

今ここにいるのは全員が対等でありお互いの声を否定しない、という約束をもってワークをすすめるんですが、それでも多くの他者の中で自分の意見やアイディアを発信することは恐ろしいことです。
ワークの後で「本当は声を出したいところがあったんだけど出せなかった」という感想がありました。当然、ワークの途中で声を出してもそれを咎めることはしないし、むしろ歓迎します。でも多くの抑圧を受けて生きている我々は自分を抑えることに慣れてしまっています。自分を抑えるプロだと言ってもいい。声を上げてもいいんだと言われても体に染みついた抑圧の影響は簡単には消せない。だからこういったワークは何度も繰り返すことに意味があると思います。何度もやっているとそのうち急に勇気が出せる瞬間が来るかもしれないし、たまたま出しちゃったらみんなから歓迎されて「なーんだ」って拍子抜けすることもあるかもしれない。そういうタイミングは人それぞれまったく異なるので、自分を解放できないことに劣等感を覚える必要はありません。
「Play for rights」というタイトルのPlayは演奏することであり演技することであり、遊ぶことです。仕事しながら遊び、遊びながら尊重し合う。そんな社会になっていったらもっとみんなが生きやすい世の中になるんじゃないかと思っています。


LOLOET troisと白昼夢

ワークショップから一週間後、LOLOET troisの対バンライブを観に行きました。

これがもう本当に良かった!大満足のライブでした。白昼夢の方も素晴らしく、詩を載せる深津さくらさんはとんでもないパフォーマーだと思いました。普段は怪談師をされているという異色の方なのですが、ここで書き出すと長くなるので白昼夢の感想はまた後日。
LOLOET troisは即興演奏で30分~40分ほどノンストップで演奏を続けます。始まる前に和田さんが口上で「それでは良い旅を」と言ってスタートしたそのままに、多くの時間や場所を旅するような素敵な音楽で、お互いに影響を与え合いどんどん変化していく様はすごくスリリングでした。
その途中、和田さんがお客さんにクラップを求め(とはいえフェスのようにわかりやすく求めるわけではありません)、パーカッションのはまちゃんがタンバリンを鳴らしながら客席を歩き回る時間がありました。観客のみなさんはクラップに参加する人や傍観している人など様々だったんですが、僕はいっしょにワークをやった関係もあり、早い段階でクラップに参加していました。そして3人の音楽に影響を受けてクラップ以外のなにかをやりたくなりました。声をだしたり、持っているお酒の瓶で音を鳴らしたりクラップ以外の何かをやりたくなったんですが、勇気がでなくてできませんでした。普段は講師として「感じたとおりに表現していいですよ!」なんて言っているのに情けない。
でもここで再確認したのです。やっぱり影響を素直に表現するのって難しい。すごく勇気が要ります。たとえばその場面で僕が何か声を出したとしてもLOLOET troisの3人はYes,andしてくれるという信頼があります。でも他のお客さんたちはどうでしょうか。そういうことをやっていいと言っているワークショップではなくライブなのだから、お客さんが出しゃばって影響を与え始めたら「なんだこいつ…」っていう目で見られるかもしれない。そういう妄想が僕を襲い、結局は型どおりのクラップだけしかできませんでした。僕がお客さんたちを信頼しきれなかったのです。

愛すべきべき臆病さ

そんなことを考えていたらふとお隣のお客さんの姿が目に入りました。その方はクラップをやろうとしていたんですが、クラップの手がぶつかる直前で寸止めして、音を出さずにいました。その姿を見た瞬間、僕はその人のことが愛おしくてたまらなくなりました。正直、傍目から見たら滑稽な姿なのかもしれません。だってクラップしちゃえばいいじゃないですか。もう手は動いているんだからそのまま音を出してしまえばいい。そっちの方が自然です。でもその人は自分が影響を与えてしまうことが怖かったんだと思います。正解なんてないけどでも自分のクラップのタイミングが変だったらどうしようとか、音が大きすぎて浮いちゃったらどうしようとか、そういう感覚があったんじゃないかと思うんです。(※本人に聞いたわけじゃないのでぜんぶ僕の妄想です。)僕はこういう臆病さを情けないとは思いません。優しくていじらしい、人間の美しさだと思います。

「声を上げる」みたいなことをテーマにワークをやっていると「声をあげなきゃいけない」「声をあげなきゃ権利はない」「声をあげないやつって駄目だよね」となってしまいがちです。でもそんなことはない。それでは上下の関係を作ることと同じです。影響を与え合いながら変化していくYes,andはとても素晴らしいワークだけど、それだけがすべてじゃない。このやり方が合わない人だっているし、影響を与えない優しさや勇気だってあるでしょう。だからこの「Yes,and」の考え方が誰かを攻撃するこん棒になってしまっては意味がない。あくまで道具として便利に使えばいい。自分に合わないと思ったら捨ててしまってもいいし、どこかにしまっておいてもいい。いつか使える日がくるかもしれません。でも、もしよかったら体験してみて欲しい。道具を受け取ってみてからどうするか決めてくれたら嬉しいなと思っています。ということで次回ワークショップのお知らせです。


1/13(月祝)Yes,and演劇ワークショップ開催!

日時:1月13日(月祝) 13:30~16:30
※15分前からご入室いただけます

場所:就労継続支援B型 BASE CAMP
東京都豊島区要町3-22−10 星野館ビル 401

料金:一般/3,000円  学生/1000円
※見学は無料です。見学の場合も当日途中で参加したくなったらご参加可能です。(料金は現金でお支払いください)

参加資格:特になし
※車椅子の方はお申込みの際にご一報いただけると幸いです。
※手話・外国語には対応しておりません。通訳の方・介助者同行の場合は同行者無料といたします。

持ち物:靴下着用(カーペットのため) 飲み物 汗拭きタオル

詳細、お申込みは以下のリンクからどうぞ!


今年はアムネスティでのワークショップが始まり、本当に多くの出会いがありました。関わってくれたすべての方に感謝です。来年ももっとたくさんワークショップの機会が作れるといいなと思っています。なんかあったらぜひ気軽に声をかけてください!
それでは良いお年を!

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