閑話休題 公益通報受付窓口担当であったときに公益通報者保護法について学んだこと・考えたこと その1
「公益通報」の多義性
「公益通報」という語は、「セクシュアルハラスメント」という語のように、一般に広く用いられる語になっており、法的性質を検討する場合には、語の意味や使われる場面を限定する必要があると考えています。
「公益通報」は、一般的に、「公益」、つまり、「広く社会にとって有益な形で」、「通報」、つまり、「一定の情報を一定の機関等に伝えること」を意味する語として理解されているように感じます。
この点について、goo辞書というウェブサイトでは、「公益通報者」について、「企業・団体などによる組織ぐるみの不正を、その組織内部から告発した人。」と説明しています。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%85%AC%E7%9B%8A%E9%80%9A%E5%A0%B1%E8%80%85/
この説明には「公益」性の説明がないのですが、「不正を」告発したというところで公益性を説明しているものと思われます。
そして、通報者は「内部から告発した人」であって、どこに情報提供したかは問題となっていません。
一方で、消費者庁の所管している公益通報者保護法にいう公益通報とは、
「次の各号(筆者注:公益通報者保護法2条1項の各号を指しています。)に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(略)(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員(略)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者(以下「役務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(略)若しくは勧告等(略)をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者(次条第二号及び第六条第二号において「行政機関等」という。)又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(略)に通報すること」
と定義されていて、一定の範囲の人が、不正の目的でなく、役務提供先に関して、公益通報者保護法に定める通報対象事実が生じた、あるいは生じようとしていることについて、一定の通報先に通報すること、とされています。
つまり、一般的に用いられる「公益通報者」の用語から導かれる「公益通報」と、公益通報者保護法にいう「公益通報」とは、少し異なっているということになります。
さらにいえば、公益通報者保護法2条1項にいう「公益通報」に該当したとしても、公益通報者保護法3条以下の規定で保護される場合に該当するかは、別途検討の必要があり、保護される公益通報に該当しないという場合もあるわけです。
このため、ニュース等で弁護士等が「(公益通報者保護法によって保護される)公益通報に該当しないと判断した」などという発言をした(と報道されている)場合に、「(一般的な用語としての)「公益通報」には該当しているのだから弁護士の判断は間違っている」などと批判を受けることがあるのですが、発言や報道が指していることと、批判者の用いている語の指す場面とが合っているか、ということに注意が必要と思っています。
公益通報者保護法によって保護されるための要件の違い
先に述べたとおり、公益通報者保護法は、一定の範囲の人が、不正の目的でなく、役務提供先に関して、公益通報者保護法に定める通報対象事実が生じた、あるいは生じようとしていることについて、一定の通報先に通報することを公益通報と定義した上で、同法3条以下で、公益通報をした人について不利益取扱いをしてはならないことを定めていて、これは、公益通報者が不利益取扱いを受けないための要件を定めていると言い換えることができます。
そして、同法3条1号の勤務先に対する通報(1号通報とか内部通報と呼ばれます)の場合は、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」であれば良いのですが、同2号の当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する通報(2号通報と呼ばれます)の場合は、「通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」であるか、「通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(略)を提出する場合」である必要があり、書面を提出しない場合には、1号通報の場合と異なり「信ずるに足りる相当の理由」が必要となります。さらに同3号の「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対する通報(3号通報とか外部通報と呼ばれます)の場合は、2号通報の場合の「信ずるに足りる相当の理由」に加えて、3号のイからホまでのいずれかに該当する必要があります。
なお、私は、3号通報に該当すると認めた裁判例を寡聞にして知りません。正直に申し上げて、事業者以外の者に通報することが「通報対象事実(略)の発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要」と認められるケースはかなり少ないのではないかと思っています。事業者であれば自ら改善できますし、行政機関であれば指導等の権限行使で被害の拡大を防止できますが、それ以外の者の場合、直接的には「被害の拡大を防止」できるということはないので、「必要」という文言との関係で難しいと考えているのです。
話が逸れましたが、通報先との関係で、通報者が保護される要件に違いがあるわけです。
複数の通報先に同時に通報した場合に、仮に2号や3号の要件を満たさなくても1号の要件を満たすのであれば、同法3条や5条等によって解雇等の不利益取扱いは無効となりますから、保護される公益通報か否かの検討においては、他の号の要件を満たす可能性がないかというところについて注意が必要と思われます。
少し長くなってきたので、続きは別の記事で。