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最終回 「旅の終り」

3/12日、僕らはホーチミン空港で出国手続きをしていた。

コロナが日に日に悪化してきた関係か、僕らが入国してきたよりも出入国者に対し一層厳しい措置が敷かれていた。そのため、面倒なことに巻き込まれないかと不安に思っていたが、運良く何事もなく手続きを済ませることに成功し、僕らはソファーに座り、ただひたすらフライト時間が来るのをぼーっとしながら待っていた。

結局オオハシのタイヤが完全にパンクした後、まだホーチミンまでバイクで行けるというオオハシの意見と、ここでバイクは諦めて電車で行こうというあべじゅん・僕の意見で真っ二つに割れた。

オオハシは自分の意見を押し通そうと、口横に唾を溜めながら、人の話を完全にシャットアウトし、僕らを煽るかのように自分の思いを容赦なくぶつけてきた。その姿は完全にシバターそのものであった。

正直言ってあべじゅんと僕も、オオハシ同様バイクでホーチミンまで行きたいという思いは強く強く持っていた。ただどうしても、これまで2週間という短期間で僕ら3人に起こったアクシデントを思い返した時に、ここでゴーサインを出したらまた何か大きいトラブルに巻き込まれると感じていたのだ。

それよりなら、運良くバイク屋の支店があるホイアンでパンクしたことをラッキーと思い、勇気ある撤退をしたほうが日数的にもメンタル的にもいい選択になると信じていた僕らは、なんとかしてオオハシに納得してもらうよう説得した。

途中、オオハシが一人で行くと言い出したり、それに対して僕がオオハシにキレたり、あべじゅんはやってらんねーよと自分の携帯を床に投げつけ壊したり、それはそれは話し合いは荒れに荒れまくった。

結局、最終的にはあべじゅん・僕の「電車でホーチミンまで行く」の案にオオハシに納得してもらい、ホーチミンまで電車で行くという結末で話が終わった。時計をみると、2時間が経っていた。

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その後バイクを返納した僕らは首尾よくダナンまで移動し、ダナン発ホーチミン行きの電車に乗り込んだ。

まあこの電車がひどいこと。コロナが広まりつつあるのにも関わらず、マスクはしないは席は守らないは椅子は硬いはと、バイクに乗っている方がまだマシだと思える、そんな環境だった。

しゃしょく.008


そんな劣悪な環境に耐え抜くこと20時間。僕らは方法は違えど、ようやく目指していたホーチミンまでたどり着くことができた。安堵の思いからか、僕は自然と深い溜め息をついていた。あべじゅんも僕と同様着いて安心したのか、キオスクで購入したビールを飲んでは、うまいうまいと、ただただ呟いていた。

一方でオオハシはというと、やはりバイクで来ることができなかったということに満足できていなかったのだろう。彼は悔しさのあまり、ひと目を憚らず大粒の涙を流していた。そして一言、

「やっぱり俺は諦められない。戻る。ごめんなあべじゅん・タクロー」

僕らをドンと押すと、一人駅の構内へと駆け込み、ハノイ行きの電車に乗り込んだ。慌ててあべじゅんと僕も走って追いかけたが、ホームに着いた頃にはもう電車は出発していた。

かか.009



オオハシ、、、お前はよ、、なんて勝手なやつなんだ、、、アホを通り越してクソ野郎だよ、、クソ野郎、クソ野郎、クソ野郎ーーー!!!!!!!!!

「タクロ-サン、タクロ-サン、タクローさん!!!」

はっ。あべじゅんの声で目が覚めた。

「タクローさん大丈夫ですか?めちゃくちゃうなされてましたよ?」

「大丈夫大丈夫。あれ、オオハシは!?あいつ電車に乗ってから、、、」

「はっ?電車?ここ、空港ですよ?オオハシさんすか?あそこいますよ。何いってんすかさっきから?それより荷物まとめた方いいっすよ。もうそろそろ出発時間なんで。」

時計をみると、出国手続きを終えてから1時間が経過していた。すっかり寝ていたのか。

「おお。わりーな。今すぐ準備する」

あべじゅんに謝り、すぐ準備に取り掛かった。しっかし随分怖い夢だった。あのホーチミン駅に着いたときのリアルさといい、いきなりハノイに行くって言い出して電車に乗り込む感じといい、現実世界で起こっていることだと思った。

ただ現実じゃなくて本当よかった。オオハシもいるしあべじゅんもいるし、そしてなによりここは空港だし。安心した僕は、思いっきり固まった体を伸ばして大きなあくびをすると、搭乗口付近で待つオオハシとあべじゅんの所へ急ぎ足で向かった。

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「タクロー。今回の旅どうだった?」

飛行機座席隣に座るオオハシが、離陸間近に不意に質問をしてきた。どうだったか。うーん、、、

思い出してみると、単独事故、穴に落下、ガス欠、ぼったくられる、財布を落とす、パンクと、本当に毎日何かしらのトラブルに見舞われた旅で、下手してたら死んでたようなこともあったんじゃないかな。

ただどんなトラブルに見舞われようと最後は笑いに変え、みんなで明るく次の目的地に向かおうとした、他人からしたら能無しかと揶揄されるような、僕らの底なしの「楽観」さに気づけたことは、今後この旅以上にトラブルだらけの社会を生き抜く上でいい経験になったのではと思う。

それ以外か、、、、まあ頭悪いやつが四の五の考えたって、何もねーわな。答えはいつも常にシンプルでいいって誰かが言ってた気がする。そう。この旅のように。

「楽しかったぜ。次はいつになるかわかんないけど、また面白い旅しようぜ」

オオハシにそう言うと、ニヤッとしながら、次もベトナムだな。そう一言だけいい、彼は重たそうな目を閉じた。

次もベトナムか、、、そうだな。このリベンジをしに、必ずまたベトナムに戻ってこよう。ただ、その時までには穴だけは塞いといてくれよ。

飛行機がゆっくり動き出した。そして滑走路に着くと、暗闇の中勢いよくスピードを上げ、僕らが帰るべき場所「日本」へと飛び立った。

バイバイ、ベトナム。また会おうベトナム。

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