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Vol.12 「撃沈」

僕らは明日から始まる長い戦いに備え、久しぶりに夜は出かけず、ホテルでゆっくり過ごしていた。

帰国まであと残り4日としたところで、ホーチミンまでの距離約1000km。最低でも明日から1日約300km以上はバイクで走らないといけない。これまで1日で走った最高の距離が250kmで、走った後の疲労度を考えると、300kmを毎日走るというのは恐ろしすぎる選択だ。

ランタン.010

ただ、これまで防げるようなミスや、防げないような自然の猛威に晒されてきたことが原因で、かなりの遅れをとっていた僕らに駄々をこねる資格はない。ホリエモンの言葉を借りると、

「未来恐れず、過去に執着せず、今を生きろ」 

これしか今の僕らにはないのである。

「タクロー、起きろ!4時になるぞ!」

オオハシの甲高い声で目が覚めた。時計をみると3:45分。オオハシはすでに出発できる体制を整え終えていた。

「すまんすまん。今から速攻で準備するわ」

まだ少し眠かったが、朝早く出発しようと言った張本人が起きなきゃどうしようもない。漬物石ほど重い瞼をヤスリで削る勢いで擦り、怠い身体を無理やり起こしシャワールームへと向かった。

本日の目的地は、ダナンに引き続きビーチで有名な町「ニャチャン」だ。ホイアンからの距離はなんと驚愕の500km。

驚愕なんて大袈裟な、なんて思ったそこの君。
日本をベースにして考えちゃあかんあかん。ベトナムの道路っちゅーのは、チョコで例えるならブラックサンダーで日本の道路は明治の板チョコや。

ブラックサンダーみたいな道、ボロッボロのバイクで走ってみーや?体揺られるし、バイクの半クラやブレーキやらなんやら気にせなあかんから、ほんましんどいで?

しかもそれが500kmもあるんゆーから、驚愕ゆーてるんや。理解してくれたか?理解してくれたならええねん。説教垂れてすまんなー。

*目も当てられないような茶番劇に付き合ってくれた人感謝である*

とにかく自分の身体もそうだが、バイクがヒートしぶっ壊れないよう細心の注意を払って、前へ前へと進んでいくしかない。

シャワーを浴び終え外に出ると、あべじゅんがオオハシに叩き起こされていた。
どうしても起きたくないのかあべじゅんは、布団を上から被り徹底抗戦している。こんな光景をみれるのも残り4日か。ホーチミンに着きたいのは山々だが、こんな日が一生続けばもっと楽しいだろうにな。そう思うと急に寂しくなった。

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「ブォーーンブォーン」

まだ日が上らず静まりかえった町の中、僕らはエンジンを思い切り吹かし気合を入れた。そして、一泊だけにする予定だったところを二泊に変更するくらい僕らが愛した町「ホイアン」にありったけの愛情を込め別れを告げ、僕らは勢いよく飛び出した。


たった2日間しかいなかったこの町だが、運転中目に入ってくる路上で働く行商の人たちやその横で元気に遊ぶ子供達、そして朝から元気よく買い物をしている人たちをみると、この町にこれて本当によかった。僕は心の奥底からそう思っていた。

次来る時は結婚した時だろうか。もしくは、また放浪の旅に出た時か。はたまた、今旅を辞退してここに残っちゃうか!?すっかり1人舞い上がりながらも、ハッピーな気持ちでバイクを運転していたその時だった

「パァーーーン!!!!!」

ものすごい音が鳴り響いた。これは銃声に違いない。この近くで発砲事件があったと思い、身の危険を感じた僕は、前を走っていたオオハシとあべじゅんを大声で呼び止めた。

「何も無くね?」

暫く止まって辺りの様子を伺っていたが、何事もなかったかのようにホイアンの町は動いていた。僕はおかしい、確かに聞こえたんだけどなと、首を傾げると、オオハシとあべじゅんは、なにまだ寝ぼけてんだよと言わんばかりの顔で僕のことをみてきた。

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納得はできなかったが、辺りが何事もなかったかのように動いてるため何も言えない。僕は一言ごめんなーと謝ると、自分のバイクの所へと戻った。そしてこの無駄だった時間を取り戻そうと、出発の準備を早々に終え一人飛び出そうとすると、

「タクローさん待ってください!!」

あべじゅんの声が後ろから聞こえてきた。慌ててバイクをとめ、あべじゅんの所へ向かうと、あべじゅんの隣りにいたオオハシの顔が真っ青になっていることに気付いた。何か僕に話したいようだった。

「オオハシ、どうした、、、?」
聞くのが怖かった。オオハシの顔をみたら、間違いなく悪い知らせであるということだと分かっていたからだ。しかし聞かなければ何もことが進まない。恐る恐る尋ねると、

「タイヤパンクしてる、、、」

今、さっきまで僕の中でモヤモヤしていたことが明らかとなった。

さっきの「パーーーン」って音、お前だったんかーい!!!

あさ

僕らは必死にバイク屋さんを探した。

唯一使えるオオハシのグーグルマップを頼りに、探しに探しまくった。ただ冷静に考えて、朝の5:30から開いているバイク屋さんなど見つかるわけがない。

ここで僕らの旅は終わりなのか、、?

正直言ってそんなこと考えたくなかった。ただ、時間的なこと・バイクの耐久性・これまで起こってきたことを考えたとき、そう僕の中で思わざるを得なかった。万事休すか。オオハシから携帯を借り、「ホイアン ホーチミン 電車」とググろうとしたその時だった。

前方にあるとあるホステルからおじさんが出てきて、バイクを修理し始めたのであった!!これはこれはこれは!!この人に頼むしかない!!いくらお金を積まれてもいいから、この人に頼んでこの窮地を脱出するしかない!!僕ら3人は、藁にもすがる思いでおじさんの所へ向かい、必死の形相で修理を頼んだ。

おじさんは最初僕らの必死さに驚いたのか、何事かという顔で僕らをみてきたが、バイクをみて状況を察してくれたのか、

「すぐ修理するから待っとけ」

そう言うと、すぐに修理に取り掛かってくれたのである。
これまで多くの奇跡があったが、これほどまでに奇跡と思ったことはおそらく人生で初めてじゃないだろうか。

僕ら3人は周りの人が変な目でみてきていることは分かっていたが、嬉しさのあまり、喜び組も驚くほどの喜びの舞を、修理するおじさんの横で踊りなが待っていた。

「パァーーーン!!!!!」

あれ?また銃声?またまた。銃声なわけないよね。パンク?いやいや。今おじさん修理してるし。解体屋ピーカプじゃあるまいし、修理するって言ってバイク壊す人いないよね? 流石にそんな適当なことするわけ、、、、
修理するおじさんをみると、やっちまったと言いたげに、苦笑いをしている。

まさか、、、、。


恐る恐るバイクをみると、空気を入れすぎたのか、一番重要であるタイヤ内部をパンクさせていた。

はい、終り。


ラスト「旅を終えて」に続く

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