
ボーカルの彼女が口出ししたバンドの話
孔子の言葉に「その地位にいるのでなければ、その政務に口出ししてはならない」というものがある。
簡単に言うと「素人がプロに口出しすんなよ」という意味だと思う。
まぁ分かる。これはけっこう口を出されたら嫌だし、出さないようにしている。
ボーカルの彼女がスタッフをしているバンドがある。
これ自体は問題ないのだが、政務に口を出し始めるとキツくなる。
ボーカルの彼女が「もっとドラムの手数増やしなさいよ!」とスパイシーな助言を与えた結果、解散したバンドがいる。
手数が必要だったかどうかは知らないが、結果だけ見ると口出しはいらなかった。
それにしても孔子は「その地位にいるのでなければその政務に口出ししてはならない」と、どういう意味合いで言ったのだろうか。
「現場の角度からしか見えないことがあるで」だと思う。2500年前もあんまり変わらないということだ。
どれだけ優秀なひとも、偉い人も一緒だ。
目の前で現場を見て、毎日を過ごしているひとのキャリアには勝てない。
もちろん、少し引いた角度から見る意識や、違う界隈の意見を取り入れるのも、刺激としては良いと思う。
しかし、それらはしょせん刺激物だ。調味料だし、刺激は本質ではない。
決定を下す嗅覚は、その問題と対峙している人が一番優れている。 プロジェクトの本質は、その問題に触れている人が一番、分かっている。
これはもう、肌感というレベルで違う。
偉いひとが急に来て、現場のシステムを変えると、失敗するケースが多いのはそのためだ。
偉いひとは優秀なのだろうけど、その場所の空気感や肌感に限っては、現場にいるひとの方が優れている。
それに触れていて、そこで過ごしている時間も長くて、それについて考えている深度も深いのだから、当然だ。
「餅は餅屋」という言葉があるが、専門性の話というよりも、大切なのは、そのプロジェクトの水質を分かって泳げているかだ。
僕の知り合いのバンドはボーカルの彼女が、ドラマーのフレーズに口を出して解散した。
ドラムに触れてもいない女の子が、ドラミングをいじって、バンドは終わってしまった。
活字にしたらアホっぽい話だが、これは簡単な話ではないと思っている。
「スタッフや裏方のひとからの助言をどう扱うか」は僕たちクリエイターやパフォーマーのなかでも、最も難しい案件のひとつだ。
雑に捨てもできないし、だけど気を使って採用してもおかしくなる。
もちろん裏方の人たちは「助言をする」というのも、孔子で言うところの政務に含まれる。
そう考えると着地させることができる。簡単ではないが、最高難度というわけはないのかもしれない。
それに基本的に良かれと思っている助言だ。良くなることも多い。
最強に難しいのが、「お客さんの意見を取り入れる」だ。
ここから先は
¥ 100

音楽を作って歌っています!文章も毎日書きます! サポートしてくれたら嬉しいです! がんばって生きます!