やけくそ!
あなたもストレスを「ヤケ」で吹き飛ばすことがあると思う。
ヤケというのは良くも悪くも効果がある。漢字で書くと『自棄』だ。そのパンクすぎる字面のせいなのか、「ヤケ」とカタカナで処理されがちだ。というより漢字になると、いよいよ取り返しがつかない雰囲気が漂う。いよいよ…となったら脳内で漢字に変換されるのだろう。
「ヤケ界」ではヤケ酒、ヤケ食いなどがポピュラーだが、共通するのはすべて自傷行為ということだ。
リストカットなどもそうだが、自らにダメージを与えると「ヤケ」が満たされる。いよいよ『自棄』に進化して、ストレスが最大に膨れると人間は自殺するのだろう。
自分を傷付けると一定数、癒しの効果があると言われている。自傷行為というものにはそれなりに意味があるそうだ。
僕はよく「ヤケ人」というものをやる。
荒れた人間が巣食う場所に行って、荒れた生活とその腐臭を嗅ぐのだ。
悪趣味なのだが、誰にも迷惑もかからないし、自傷としてもほどよい。
健やかな人々と時間を共にするほうが気持ちいいのは間違いない。「ヤケ人」はこのおぞましい人種の群れに身を投じて、気分を害する行為だ。
不健全そのものみたいな人間と同じ空気を吸っていると「ヤケ起こしてんなぁ」と感じる。最悪な気持ちになる。
歌舞伎町に行くと、金の貸し借りで怒鳴り合う男女、ホスト同士のいざこざ、メンバー濃い目のラーメン屋で「二千万で片付くなら安いよな…」と電話口にささやくツーブロック野郎などが見られる。
あちらこちらの雑居ビルで時間を過ごしたり、路上をうろついたり、声をかけてきた怪しげな男にホイホイ付いていったりを繰り返す。
大体モメ事に巻き込まれる。内容もひどいものばかりだ。ぼったくり、目が合った、面構えが気に食わない。
そんなものばかりだ。
怖くないわけがないが、たまにこのスリルを味わうのがクセになっている。
もちろん苦味ばかりだし、金銭的に意味の分からない損失を食うこともある。言い合いになったり、小競り合いから、軽い怪我を追う場合もある。
だが、なんだか心は救われるのだ。
清々しさはまったくないが、魂が研磨される。ガリガリと削られる痛みはあるし、何ら良いことはないのだが、手を伸ばしてしまう。
『自棄』というものはどこまでも充実感からはほど遠い。
「心のバランスをいかにスリムにするか」と考えるほうが良い。
シリコンバレー式ライフハック本が本屋に平積みしているが、それだけだとハックできない。というよりハックしなくてはいけない現実から目を逸らせない。
現実から目を逸らしていると、成果をあげられないのかもしれないが、「自殺するよかマシっしょ」、「ヤケ酒よかマシっしょ」というような意識の低さが自分にはマッチしていると思ったりもする。
ヘルシーではないが、健康なだけじゃ人間なんてやってられない。
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