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いけすかないマイペース野郎


カイジの1巻で利根川先生というボスキャラが「野茂はウスノロ、羽生は根暗、イチローはいけすかないマイペース野郎」と語り「勝利の価値」を説くシーンがある。2024年の現在だと、「大谷は自分勝手なワガママ野郎、井上は気取ったかっこつけ野郎、藤井は弱者男性」あたりになるのだろうか。

ちなみに利根川先生が言いたいのは「あくまで彼らは勝ったから人格まですごいと思われてるよね。だから勝とうね」ということだ。一流の悪口を言いたいわけではない。

こうなった発端は多重債務者たちが「俺たちはかわいそうだ!」と騒ぎ立てたせいである。あいつらはすぐに騒ぐから。そこで「勝たないとだめ。負けっぱなしのままのくせに人並みに生きようとすんな」という激しめの帝国思想を演説するのだ。

そのたとえ話として野茂、羽生、イチローという当時の勝利者たちの人格について語り出す。一流のひとはあたかも人間性も素晴らしいとされているけど、もし彼らが負けっぱなしの人生だったら「野茂=ウスノロ、羽生=根暗、イチロー=いけすかないマイペース野郎」でしかないよねという極論で看破するのだ。

僕は高校生のときにこの話を読んだが、当時「いけすかないマイペース野郎」というフレーズがやたら刺さっていた。なんでそこが刺さったのか今でも意味わからないけど、この「いけすかないマイペース野郎」というフレーズが海馬から抜けなかった。しかし「マイペース野郎」というのは誰にとってもそこそこいけすかないんじゃないかと思うのだ。

というか僕自身がけっこうマイペース野郎ではないからかもしれない。関西人らしく、激しくせっかちなのだ。「早くしろ早く!何でもいいから早く!」と言いたくなることが多い。特にカイジを読んでからダラダラしていると「やべ、いけすかないマイペース野郎になってる俺!」と謎に生き急いできた。

しかし振り返ると結果を出せたときというのは絶対にマイペースじゃなかった。大きい仕事ができたとき、大量にお金を稼げたとき、まっさらな状態から何かを立ち上げたとき、いつもマイペースじゃなかった。
時代のペース、先駆者のペース、仕事のペース、流れのペースに巻き込まれながらコンディションとメンタルを傷つけながら泳いだ記憶がある。

小説と映画の仕事とバンドを並行でやっていたタイミングなんかは地獄だった。ずっと竜巻の中にいるみたいで振り回されまくった。でもマイペースで進めていたらそもそも着地もしなかったんじゃないだろうか。

成果を出さないひとに限って「マイペースで!僕なりの歩調で!」と言いがちだ。汗をかきたくないし、突き詰めると現状維持でいたい深層心理があるのだと思う。だけど身を削って、損して、辛い思いをして、やっと一人前というタイミングはある。そしてそこから逃亡して、現実から目をそらしても理想に対して、足りない自分が横たわりながら腐っていっているのが分かり、死にたくなる。

結果を出しているひとほど急き立てられるように走っている。マイペースという感覚はまったくなく、せき立てられるようにやっている。

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takuro(juJoe)
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