
自由を目指して
自由だ、と思う。
手前味噌になるが、自分の長所を聞かれたら「自由」と「視力」と答える。
「視力」は生まれつきだが、「自由」は後天的な要素が大半を占める。「そもそも自由とは?」とか書くつもりもない。
だけど、むかしから僕は自由に渇望してきた。他のひとと比べても、とにかく自由を求めて生きてきたように思う。こいつのように。
僕のことを「忙しそう」と言う方がいらっしゃるが、そんなに忙しくない。というより、譲れないのだ。「忙しいこと」が嫌、というよりも「自由が奪われること」がキツイ。
これは普通の社会人の方々からしたら、わがままに映るだろうし、「人生そんなことじゃやっていけんぞ!」と100万回ぐらい言われ続けた。
それでも「自由が奪われる」ということからは、なんとかかんとか逃げながらやってきた。
しかし結論から見ると、「やっていけないことはない」だ。
年上たちの吐いた「人生そんなことじゃやっていけんぞ!」は嘘だったのだ。もはや呪術に近いものだった。
あの大人たちはどこまで考えていたのだろう。
「自由は何かとトレードオフだよ」となんで言ってくれなかったのだろう。なぜ僕の「自由がほしい」を応援してくれなかったのだろう。
方法を知らないなら知らないでいい。
でも正々堂々と「俺には分からないよ。だって教師しかやったことないんだもん」と言えばいいのにと思う。
10代のときに身につけておいた方がいい技術がある。
偉そうな年上に対して「分からないなら黙ってろ」という姿勢の保持技術だ。
力も金もTOEICの点数もなかったけど、僕にはその技術だけはあった。「黙ってやがれ一級」だった。
そのおかげで呪術師たちの呪いにかからなかった。
とにかく、少しずつだけど自由に近づこうとしていた。
働くにしても「自由」を求めた。
「シフト自由」や「服装・髪型自由」ぐらいの話だったが、少しでも自由度が高そうなものを中心に選んだ。
これらの仕事はデカビタのビンが飛んできたり、延髄蹴りを食らったりする仕事内容だった。だが構わなかった。
「暴力の風にさらされるのは絶対にいや」というひともいるだろう。だけど僕は「自由が奪われること」の方がはるかに嫌だった。
このトレードオフがきっと価値観、人生観にあたる。
「Aは我慢できるけど、Bは我慢できない」を自分で理解すると圧倒的に生きやすくなる。何を差し出して、何を差し出さないかが明らかになるからだ。
もちろん、デカビタも延髄も食らいたくはない。楽しくなかったしキツかった。今もう一度やれと言われたら無理だ。だけど、マクドナルドやローソンで働いたときよりも「自由」だった。
キツイ系のバイトは給料も高かったので、少ない時間で済んだ。いつ行ってもいつ帰っても構わないような仕事だった。
そして人生が進むにつれ僕の「自由への挑戦」は少しずつ実現した。
デカビタと自由の対価交換だった暮らしはコンマ単位で動き出した。
だんだんデカビタじゃない部分を差し出せるようになったのだ。能力だったり人脈だったり、経験だったりになった。
もちろん「勢力による保証」や「属する安心感」なんてものも、差し出しているのだろう。
だからトレードオフであることには変わらない。人生は何かをギブしないと何もテイクしてもらえない。
たしか22歳ぐらいのときだっただろうか。気づいたことがある。
「時間拘束」をギブると、一気に身動きが取れなくなるということだ。
正直、一撃で詰む。他のギブを作ったり考えたり、探しようがなくなってしまう。
僕はとにかく「時間拘束」以外のものをギブれるように頭をひねった。
大枠で捉えると「自由をギブるかギブらぬか」になるのだろう。そして僕は自由だけはギブりたくなかった。
気の弱いひとなら社会から弾き出される疎外感から眠れなくなるだろうか。僕は閉鎖空間から距離を取るほど楽しくなっていったし、夜もよく眠れるようになった。
そういう意味では学生さんたちはかわいそうだ。強制的に「自由」が奪われているからだ。いきなり詰みからスタートする無理ゲーに叩き込まれているのは同情する。
ただでさえ同じ年に同じ地域に生まれたというだけで、集団化させられて、同じものを食べさせられて、清掃なども強いられる。刑務所同様に自由はまず手に入らない。
これでは身動きが取れるはずがない。後悔は先立たないが「高校に進学しなければよかった」と今も思う。
先日久しぶりに「自由になりたいのだが」というDMが来た。ゴリゴリのうつ病患者さんからだった。
うつのキツさは分かっているし、「自由になりたい」というひとが、自分を頼ってくれるのはなんだかひとつの使命なんじゃないかとも思った。
それに「このままじゃこの人は死ぬな」とも感じたのでこの記事を書いた。
力になれることがあったらなりたいが、一番は投薬だ。気分を変えるのに薬を使うのが早い。
彼が自由を目指すように、僕もさらに自由を目指したい。
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