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料理も服選びも。何気ない積み重ねが企画そのもの。青山ブックセンター・山下優さん【書店のTAKURAMI】

「TAKURAMI STORY」では、商品、映像、音楽、写真、物語など世の中にワクワクする企画を提案してきた方々をお招きし、業界や肩書に捉われず、その企みを紐解きます。第3回は、青山ブックセンター本店の店長・山下優さん。

東京・表参道に店舗を構える、青山ブックセンター本店(以下、ABC)。出版不況が叫ばれる世の中で、書店の枠組みを超えた企画を次々と打ち出してきました。

例えば、書店がはじめた出版事業「Aoyama Book Cultivation 」や、ABCに入荷した新刊タイトルを毎週1冊取り上げるラジオ番組「Aoyama Book Cast」を実行。

これらを企画してきたのは、ABC店長の山下優さん。月20本のイベントを企画し、1年間ほど継続してきた経験もある山下さんにとっての企画とは?

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「企画とは、思考し続けること」「実行した後に次の企画まで考えることが、ひとつの企画」と語る山下さん。

そこには「そもそも、すごい企画は一発じゃ生まれない」という考えがあり、だからこそ、思考と行動の両方での積み重ねを大切にしたいという実直な思いがありました。

山下さんにとっての企画とは、思考し続けること

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──書店による出版プロジェクト「Aoyama Book Cultivation」や異業種とコラボしたブックフェアなど、書店の枠組みを超えた企画を打ち出す山下さんは、「企画」をどのように捉えていますか?

僕は出版事業もイベント、棚づくりにおいても、「企画をしよう」と意識してやっているわけではないんです。僕の中ではこれらの取り組みは、仕事でも普段の生活の中でも、自分がずっと考え続けていることから出発しています。何か企画しようという意識から始まっているわけではないから、企画をしている意識が薄いのかも。

僕がABCに入店したのは2010年ですが、その頃から変わらず出版不況と言われていて、書店がどんどんなくなっているのが現状です。その上で「今、書店は何ができるか」をずっと考え続けてきました。それがさまざまな企画へとつながっているので、僕にとっての企画とは、思考し続けることなのかもしれません。

──企画の多くが、書店の枠組みを超えたものになっているのも、思考し続けることから生まれているのでしょうか?

そうですね。異業種の方とのコラボ企画など、最初から書店として新しい企画ができていたわけではなく、思考し続けることの延長線上でできるようになっていきました。

「『思考すること』ではなく『思考し続ける』ことが僕にとっての企画」というのは、いわゆる企画を、どうやって考えたかよりも大切だと思うことがあるからです。どうやって考えたかだけでなく、どうやって実行したか、実行した結果どうだったのか、次の企画はどうすればいいのかまでをセットで考えて、やっとひとつの企画が終わるという感覚があります。

すごい企画は一発じゃ生まれない

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──形になって終わりではなく、しっかりと振り返りをして次の企画まで考えることまでがひとつの企画と考えるのは、どうしてですか?

いい企画ってなんだろう?と考えたときに、そもそも世の中の売れている漫画、音楽、映画……どれも一発でボンッとすごい企画にはなっていないと思うからです。音楽業界でサンプリングが多用されるのも、いきなりオリジナルな音でいいものを作ることが難しいからじゃないかと。だからこそ打ち上げて終わりではなく、思考を積み重ねていくことが大切だと思っています。

──山下さんはひとつの企画を実行したあと、どんなことを振り返るのですか?

例えば、著名な方をお呼びしてのイベントだったのに集客が悪かった、ということがあったとします。そのときに、平日開催だったから? 天候が悪かったから? そもそもうちのお客さん向きじゃなかったから? そんなふうに、ダメだったことを忘れようとしないで、成功したときも失敗したときも、次につながる思考の積み重ねを大切にしています。

──「Aoyama Book Cultivation」という大きなプロジェクトを始動する以前から、月20本のイベントを企画して1年間実行した経験がある山下さんの言葉は、思考だけでなく行動においても積み重ねることの大切さが伝わってきます。

書店でイベントを企画し始めた最初の頃は、選書フェアやサイン会が多かったです。それを実行していったら、もう少し大きなイベントにつながって、仲良くなった人たちから、「こういうことをやりたい、考えている」という声をかけていただいだき、それをまた実行して……と、積み重ねていくうちに出版プロジェクトまでつながっていきました。僕は、企画をひとつやっても「今の時代にABCが生き残っていく」ためには足りないと思っていて。だからとにかく企画は、やって、やって、やりまくる、という意識ですね。

──イベントで仲良くなった人から声をかけていただいて次の企画につながった、というお話がありましたが、こういったお話のように、積み重ねていくことで次の企画を考えやすくなったり、実行しやすくなるような面もあるのでしょうか?

すごくありますね。そもそも僕は、しっかりとした企画書を作ることがあまり好きではなくて。いい企画書ができちゃった瞬間に、何かが終わってしまう気がしちゃうんですよね。余白がある方がいいというか。あるとき出版社にイベントを提案して、概要しか書いていないものを渡したら、「企画書は?」と言われてすごく困ったこともあります(笑)。でも一度でも企画を実行してつながりや実績を作ると、それをもとにして次の企画を通しやすくなることがあるのだとわかりました。

実は誰もが、積み重ねの企画をしている

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──読書体験自体も、積み重ねることで思考が洗練されたり、広がりを持っていく行為ですよね。同じ小説でも、その本を1冊目に読んだ人と、100冊目だった人では、感じ取れることの総量も深さも、まるで違ってくるのではないかと。

おっしゃる通り、読書は積み重ねることで、自分の中に積み上がっていくものですよね。例えば、本を読むと、出典や引用を目にする。それを辿っていくと、自分の中の知っていることや考えられることが広がっていくと思います。

僕にとっては音楽やファッションが積み重ねたことの体験にあって、それが企画についての考え方にまでつながっていくかもしれません。音楽は店長になるまではライブのために毎年有給を使い切って海外まで行っていました。ファッションも、古着から輸入物、ブランド物までひと通り買ってみたことで、自分がどういう服を好きなのかわかるようになっていきました。

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──山下さんはご自身のカルチャー体験において、ひとつの関心を突き詰めるよりむしろ、いろんな興味関心を広げていきながら経験を積み重ねていったわけですね。

広く浅くでも興味関心を広げ続けるというのは、とても大切なことだと思っています。なぜなら、世の中のいろんなことはつながっていると考えているから。本だって、本単体として存在しているわけではなく、そもそも生活の中に存在しているものですよね。その生活というのは、お風呂に入ったり、洗濯したりと、いろんなことで成り立っているので、本とつながっている生活の範囲にまで興味関心を広げていけば、お客さんとの接点が増え、提案できることも自然と変わっていくはず。スタッフにも、ひとつの視点に縛られないで関心を広げ続けることの大切さをよく伝えています。

企画することも、「その企画は何とつながるのか」「自分は好きなテーマだけど世の中にウケるのか」「この企画にまつわる世の中の事情はどうなっているのか」など、やりたいことと多くの関心をつなげることで、考え続けることが難しくなくなるんじゃないかと思っています。

──すごい企画は一発じゃ生まれないから、山下さんのように思考と行動の積み重ねを日々大切にしていきたいと思いました。

意識していないだけで、実はみんなそうやって生きていると思うんです。例えば、服を買って似合わなかったときに、次はどんなことを意識して買うかとか。自炊で美味しくないご飯を作ってしまったときに、次はどうやって作るかとか。結局誰もが、日々思考し続けながら「企画」に近いことをしていると思います。

でもそれが、「企画する」という話になった途端に、企画をすること自体がゴールになりがち。そして実行するまでに悩んで、形にならないこともたくさんある。そうではなく、ある程度考えたならもう、どんな小さなことでも実行してみる。それを積み重ねていくことで、見える景色が変わっていくと思います。

■プロフィール

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山下優
青山ブックセンター本店店長。1986年生まれ、東京都出身。生後半年でロンドンに引越し、5歳のときに帰国。小中高はサッカーに励んだ。2010年、青山ブックセンター本店に入社。アルバイトを経て、2018年に社員になると同時に店長になる。2020年には青山ブックセンターのロゴの変更、出版プロジェクトを立ち上げた。

取材・文:小山内彩希
編集:くいしん