柴犬ゆずの日記 2020.06.17 弘法も筆の誤り
「空海さんに会いに行こか。」
今日は梅雨の合間のカラッとした晴れ。ご主人はこんな天気のええ日に、いつも突然遠足に行こうって言いだすんや。
「空海さんって誰?」
「空と海だけ見てた人や。」
ようわからんから、はよ行こ行こ。初めての場所はどこでもウキウキやし。
車に乗ったらくねくね道でちょっと気分悪くなったけど、家から1時間ちょっとで「高野山」ってところに着いたわ。
「意外と近かったな〜。」
「世界中から観光客が来る世界遺産、簡単に来れたな。」
「近くのええとこってまだまだ知らんな。」
ご主人と奥さんも久しぶりみたい。奥さんは30年前にお母さんと。ご主人は小学校5年の時やったって。
「ほんで、空海さんって誰やのん?」
「この高野山を開いた人や。」
へ〜、それやったらゆずにも凄い人ってわかるわ。
ここ、とっても空気がピンとしてて気持ちええもんね。木もまっすぐ高いのが立ってるし、みんな私を可愛いって言うてくれるし。
それと、何かいつもと違った不思議な気持ち良さがあるねん。
遠足行くと、犬禁止の場所が多くてがっかりすることが多いねん。でも高野山はお寺さんの建物はあかんけど、敷地内とか参道とかは私も普通にご夫婦と一緒に歩けるねん。
「それはな、空海さんは白と黒のワンちゃん二頭に導かれてここに来たかららしいで。」
「ホンマ? わたしら犬にもそんな素晴らしいご先祖がおったんやな〜。」
そんな話をしながら歩いてると「弘法大師」「弘法さん」っていう文字がたくさん見えるねん。ご夫婦も弘法さん弘法さんって言うてるねん。
「弘法さんって誰やのん?」
「字を間違える人や。」
「それ、あかんやん。何でそんな人が有名なん?」
「弘法も筆の誤りっていう言葉があってな。」
ご主人がカフェの豆腐チーズケーキを食べながら教えてくれるんやわ。
「弘法さんは筆の達人やったらしいんやけど、そんな名人も間違えることはあるってことやわ。」
「そんなん当たり前やん。ご主人も私も間違えるわ。何でそんなに間違える人がもてはやされるん?」
「ゆずに言われてみればそやな。。。ちょっと聞いてみるわ。」
そしたら、高野山の人が教えてくれたわ。
「あー、それは、弘法さんが文字を間違えて点が1つ足らんかったんやけど、その文字を額にかけたまま筆を投げつけて見事に修正したってことがあったんやわ。せやから、間違っても修正の仕方、立ち直り方が凄いってことやね。」
「間違っても立ち直る。大事なことやな〜。」
ご主人はしきりに感心してはる。私もそれならちょっとわかるな。筆を投げつけるっていうのはお行儀悪いんちゃうかと思うけど。。。。
「あ、言うてなかったな。弘法さんは、空海さんのことや。」
「え〜、そうなん? 道理でどこにも弘法さんって書いてあるはずやわ。でも何で2つも名前あるん?ややこしいやん!」
「ほんまやな、ゆずはゆずって名前1つでええもんな。」
にんげんって、ホンマにややこしくするのが好きやねんな〜。私みたいな犬にはようわからんわ。
「ゆず、最後に会わせたいワンちゃんがおるねん。」
「え? だれだれ?」
「ゴンちゃんって言うんやわ。」
そう行ってご夫婦は高野山のふもとの慈尊院っていうお寺さんに連れて行ってくれたわ。
「わ〜、ゴンの碑っていうのがあるやん!」
「ゴンちゃんはな、最初野良犬やってんけど、高野山への道案内するようになって、毎日20kmくらい歩いてんて。そんで、ここに飼われるようになったみたいやわ。」
住職さんがゴンちゃんのことを嬉しそうにたくさん話してくれたわ。その顔を見ているだけで、ゴンちゃんがとっても優しい犬やったことがわかるわ。
「ご主人、ええお話やったね〜。」
「そやな。僕もいろいろ考えたわ。」
「どんなこと?」
「ゴンちゃんが本当に人を案内しようと思っていたかどうかは分かれへん。見返りを求めず黙々と案内してくれた親切な犬、っていうのは人間が勝手に思っていることかも知れん。でも大事なことは、ゴンちゃんと人間が一緒に日々いい暮らしをつくっていたってことやわ。人生それでええんちゃうかなて。」
私もそう思うわ。
にんげんと犬、それとたくさんの違う生き物たち。みんな助け合って楽しい毎日をつくっていけばええと思うわ。
私とご夫婦を温かい気持ちにしてくれた高野山の皆さん、ありがとう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?