クラファンあれこれ(2)浦島太郎ゆかりの浦嶋神社
前回は、クラファンが予想以上の成功を収めている事例として横浜シネマ・ジャック&ベティをご紹介しましたが、今回は、それとは逆、クラファンを複数回実施したものの、いささか不本意な結果に終わった事例をご紹介したいと思います。
最古の「浦島太郎」伝説を今に伝える、京都府与謝郡伊根町本庄浜の浦嶋神社(宇良神社)。西暦825年に創祀され、さ来年(2025年)には創祀1200年を迎えるとのこと。しかし社殿の老朽化がひどく、解体修理の必要があるため、2021年10月29日に、第1回のクラウドファンディングを開始しました。
https://camp-fire.jp/projects/view/486110
この時の目標金額は40,000,000円でしたが、2022年1月15日の終了時点で集まったのは目標金額のわずか4%、1,663,066円にとどまっています(支援者は106人)。
返礼品などの見直しを行い、目標金額も大幅に引き下げて、1年後の2023年1月7日に再度募集を開始。
https://camp-fire.jp/projects/view/633151
目標金額は、前回より9割以上ダウンの3,000,000円。ですが、この時の集計金額も、3月25日の終了時点で目標の18%、546,000円という結果でした(支援者は54人)。
前回の横浜シネマ・ジャック&ベティは70余年の歴史を持つ映画館でしたが、こちらは1200年の歴史を有する京都の神社。のれんの古さでは比較にならないはずなのに、これはどうしたことでしょう。映画館より神社の方が公共性ははるかに高いはずだし、何より、「浦島太郎」といえば、日本人の誰でもが知っている有名なお話なのに……。もっと食指を伸ばす人が多くていいような気がするのですが、やはり、ロケーションに問題があるのでしょうか。
実は、私は昨年(2022年)の9月、すなわち1度めと2度めのクラファンの間の時期に、この浦嶋神社を訪れたのですが、正直、交通の便の悪さには泣かされました(京都府内ではありつつ、京都駅からものすごく遠い!)。関東から日帰りでは滞在時間がほとんど確保できないため、前日、天橋立で一泊。翌日午前中は、伊根湾めぐりの遊覧船に乗るなどして……
午後2時すぎ、1時間に1本のバスでようやく現地に到着した次第です。
この時は宮嶋淑久宮司に、浦嶋明神縁起絵巻の絵解きをお願いし、ささやかにご寄付もさせていただいたのですが、お話をうかがったところ、コロナ禍で観光客が少なくなったのに加え、じわじわ進む少子高齢化と過疎化によって、氏子が減り続けているのが痛手とのこと。
なお、この浦嶋神社に伝わる「浦嶋子伝説」は、『丹後国風土記』に準拠しており、よく知られている「浦島太郎」のおとぎばなしとはかなり違います。一番大きな違いは、「助けた亀に連れられて龍宮城へ行く」のではなく、「たまたま釣り上げた亀が美しい乙女の姿に変わり、その乙女(=亀姫、実は仙女)に連れられて常世の国へ行く」という流れであること。浦島太郎も、腰蓑を着けた庶民的な漁師ではなく、容姿端麗で風流を解する青年・浦嶋子として描かれており、その風貌に魅かれた亀姫が、「嶋子と会ってお話がしたい!」との一念から風と雲に乗り、五色の亀に姿を変えてやってきたという展開で、この伝説はいわば、女性主導のラブストーリーなのです。
『丹後国風土記』の浦嶋子伝説が、いかにして現在の「浦島太郎」に変容したか、そのあたりの事情を詳しく書き出すときりがないので、ご興味のある方は、以下の関連書をお読みください(私が読了したもののみを示しました)。
「浦島伝説の探究」水野祐(1977・産報)
「浦島太郎の文学史」三浦佑之(1989・五柳書院)
「よみがえる浦島伝説」坂田千鶴子(2001・新曜社)
「浦島太郎の日本史」三舟隆之(2009・吉川弘文館)
「仮面をとった浦島太郎」高橋大輔(2022・朝日文庫)
神社から徒歩25分ほどのところには、浦嶋子が船を出したと伝えられる本庄浜があります(帰りのバスの時間が迫っているため、浜までは、宮嶋宮司の奥様に車で送っていただきました。感謝感激)。
景観的には、消波ブロックがなければ言うことなしなんですが…
鯛釣岩と呼ばれる奇岩。実際に上陸して釣りができるようです。
神社と本庄浜を結ぶ道の途中には、浦嶋子が龍宮(常世)から戻って来る際に通ったという龍穴も(といいつつ穴はかなり小さい)。
という感じで、交通の便はさておき、大変に風光明媚なところですので、京都まで行かれた方は、是非、足を伸ばしてみることをお勧めします。
さて、かなり残念な結果に終わった浦嶋神社のクラファンですが、現在では、別の形で支援を募っています。
京都地域創造基金のサイトで「浦嶋神社 大改修プロジェクト」と題して行われており、目標金額は20,000,000円。実施期間は2023年11月15日から2028年11月14日までと、かなり長期間です。開始から約1ヶ月が過ぎ、12月27日現在、23,000円の支援が寄せられています。
今回の、京都地域創造基金での支援募集は、通常のクラファンとは違い、リターン(返礼品)はなし。ただし、税制優遇措置が受けられるとのこと。リターンなしというと、一般人には面白みが薄いように思われますが、大口の支援をされる法人などにとっては、税制優遇は利得があるのかもしれません。いずれにせよ、歴史ある神社が無事に創祀1200年を迎えられるのを願うばかりです。