これから先を生み出す人へ
このnoteは精神科医 樺沢紫苑著『精神科医がすすめるこれからの生き方図鑑』の感想になります。
一般的に「先生」とは自分の学習してきたことや経験をもとに何かを教えたり授けたりする人たちのことだ。例えば教師や医師がそれにあたる。つまり,その道の先に生きてきた専門家である。私はこれまで何人もの先生に勉強や常識を教えてもらったり命を助けられたりした。一方で,現代社会は自然災害の発生,未知のウイルスの蔓延,戦争の勃発,自殺者の急増,貧困の格差など今を生きる「先生」があまり経験したことのない複雑な課題を抱えている。それらの課題を「先生」たちの知恵だけで解決することは困難である。したがって,その道の先に生きてきた「先生」ではなく,これから先を生み出す新しい「先生」の存在が不可欠だ。本書にはこれからの時代に対応できるような著者のノウハウが詰まっている。新しい「先生」は教師や医師とは限らない。自分の人生を幸せに生きようと日々学びながら接してくれる人が周りにいれば,その連鎖が広がり,複雑な問題さえも少しずつ解消されるのではないだろうか。今回は本書を読んで,私が実際に行動に移したノウハウを2つ紹介する。
一つ目は「これからは,気が利く人になる」だ。本書には気が利く人になるためには,仕事の目的と理由を理解することが大切であると書かれている。私はいつも自分の仕事をこなすことが精一杯で人が求めていることに鈍感で予想外のトラブルで悩むことが多かった。仕事の目的と理由を理解せずにただ指示された通りに動いてしまうと,そこにコミュニケーションの齟齬や不和が生まれてしまう。特に今は多様性の尊重や合理的配慮が求められるので個々人に応じた適切な行動が求められる。それから私は一つ一つの作業が仕事の目的に沿っているか考えるようになった。そうすると作業の無駄を省け,逆に必要な上司への確認の漏れが少なくなった。また,自分の行動の変化が起因してるかどうかはわからないが,私への周りの接し方も前向きに変わったような感じがする。気が利くと,良い人間関係の構築にも効くに違いない。
二つ目は「これからは,悩みを言語化する」だ。私は子供のことから我慢強い性格でいじられたりして嫌な気持ちになっても笑ってその場のノリに従っていた。それが私が知っている生き抜くための術だった。社会人になっても新人ということもあり,不条理なことがあっても文句を言わずに耐えた。しかし,それが限界を迎えて仕事を休んでしまった。私はいつも「自分が結果を残せないのは自分の努力が足りないからだ。自分にまだ価値はない。」と自分を責めてばかりいた。それは自分には何でもできるという大きな自尊心の裏返しだったのかもしれない。悪口は一切言わずに愚痴も吐くことはなかった。自分を癒す時間よりも自己研鑽のことばかり考えていた。しかしこの本にはポジティヴな言葉を増やし,適度にガス抜きをし,自分を癒すことが大切であると書かれていた。それから私は「ありのままでいい。」と自分に言い聞かせ,困っていることは他の人に相談し,自分の趣味の時間を増やした。そうすると不思議と,悩みは自分だけで解決しようとせずに他の人を頼ってもいいと思えるようにもなった。
ネット上に溢れるたくさんの情報に振り回されて価値観が常に揺らぎ,宙にずっと浮いていれば,自分という種はいつまで経っても根が地面の中で伸びず,葉は成長せず,花は咲くことはない。自分がどんな花を咲かせるのか不安で,恥をかくぐらいならずっと種のままでいる人もいるかもしれない。
さて,本書の冒頭にこんな問いかけがされている。
花の種はどんな花を咲かせるのか運命付けられているので咲き方は変えられないが,人間は生き方によって,これからどんな人生を歩むのかを変えることができる。サルトルの言葉を借りれば,実存は本質に先立つのだ。本書は単なる自己啓発本ではなく,著者の精神科医としての経験や医学的根拠を踏まえて書かれている。本書がこの先を新たに生もうとしている人に届くことを祈る。