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タンガニーカ

もう去年になってしまったけれど、同じ保健センターにいたアメリカ人の友人が帰った。

帰ったと言っても、彼は親の仕事の事情でタンザニアにしばらくいて、今も両親はタンザニアにいるので、タンザニアに行ったのだけれども。アメリカへのフライトは31日だと言っていたから、もうついた頃かな。

「10年後の今日」にも書いたけれども、彼からはたくさんのことを教えてもらった。幼少期をタンザニアで過ごしたからなのか、彼は野鳥や野花の知識にすごく長けていた。一緒に山に登ったとき、たくさんのきれいな鳥の、花の、名前を教えてもらった。英語だったからあんまり記憶に残ってないのだけれども。

それまで僕にとってはただの風景だった鳥や花が、溜まったストレスや不安を癒やしてくれるものだと知った。この島には娯楽なんてほとんど無いに等しいと思っていたけれど、それはたぶん僕の観察眼が足りていなかったから。人間は多分どんなところにいても楽しみを見出す強さを持っているのだと思う。極彩色の鳥が、心にやすらぎを与えてくれることを知ったし、優しいにおいのする花が体を奥から癒やしてくれることを知った。

最後の日、彼とEKセンターで将来のことを話し合った。彼は今、医学部へなんとか入ろうと大学に願書を送りまくっているらしい。23歳から、もう一度大学に入り直す。僕にはとても大きな決断に思えた。

「どうして医者の道に進もうと思ったの?」

「今までの人生を振り返って、自分が一番喜びを感じるのは自分のためになにかしているときではなくて、他人のために何かをしているときだって気づいたんだ。車椅子が傾いて電車の線路に落ちてしまった人を助けたとき、冬の日、同じように車椅子の車輪を素手で回していた人に手袋を渡したときを考えてみて、自分が心から何をしたいかが分かった。いつか医者になって、難民キャンプで医療支援なんかができたらいいけどね。」

自分の心に素直になるって難しいことだと思う。何をして自分が喜ぶのか、何が嫌なのかなんて、きっとその場面場面に遭遇しないとわからないから、常日頃自分に対してアンテナを張っていないといけない。

自分に対して素直な人だと思ったし、自分もそうでありたいと思った。彼がもし、自分の夢を叶えてどこかの難民キャンプに医者として立つまで、どれくらいの時間がかかるだろう。そんなのはきっと僕が言わなくても彼が一番わかっていると思う。それでも彼は、自分が本当に喜べることを知っていて、それに対して素直に、実直にいたいと思っているのだと思う。

僕も自分が本当に喜べることを忘れずに生きていきたい。そうしていって、いつかまた彼と会える日が来たらいいな。

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熊谷拓己
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