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まだまだ語り足りない〜映画『ラストマイル』感想〜

こんにちは。とらつぐみです。

今週は、現在公開中の映画『ラストマイル』の感想です。

ラストマイルは、わたしの大好きなドラマ「アンナチュラル」「MIU404」と同じ監督・脚本によるシェアードユニバース映画(要はキャラクター大集合お祭り騒ぎ的な)と聞き、それに釣られて観に行った節があるのですが(正直)、

実際観てみるとストーリーがめちゃくちゃ面白い。面白すぎて2回目、3回目も観に行きました(軽率に映画館に行くオタク)。

・ラストマイルだいたいのあらすじ
大手通販サイトDAILY FAST社(以下、デリファス)が発送した商品が突然爆発する事件が立て続けに発生。
警察や配送業者の羊急便を巻き込んだ大騒ぎになる中、荷物が発送された西武蔵野ロジスティックセンターでは、センター長のエレナと部下の孔が発送を止めずに爆弾を回収しようと奮闘するが......?


このあらすじだけ読むと「ふーん?」という感じかもしれませんが(通販サイトの配送倉庫に興味ある人はあまりいない)、サスペンスとしても、「お仕事もの」としてもすごく面白い。

お祭り騒ぎエンタメ映画でもあり、観るものが色々考えさせられる硬派なドラマでもある、そんな作品でした。

感想がなかなかまとまらないので「浅い感想」と「深い感想(観て色々と考えたことをまとめたもの)」の2パートに分けて書いていこうと思います。

⭐︎注意⭐︎
ここから映画の結末にめちゃくちゃ触れる内容です(3回目は音声ガイド付きで見たので一部その内容も含まれます)。ネタバレが嫌な人は今すぐこのページを閉じて映画館に行け。そしてパンフレットを買って袋綴じに驚け(?)


ネタバレ防止用袋とじにびっくりしたパンフレット。キャストのインタビューがたくさん載っていてうれしい。


浅めの感想①登場人物みんな幸せになってほしい



ずっとハラハラドキドキでおもしれーーーーー!

エレナたちはほとんど倉庫から出ないから画は地味になるはずなのにずっと面白いのあれだ、映画「カラオケ行こ!」で見たやつだ!


・デリファス倉庫、明るい資本主義ディストピアすぎる。

機械音声が流れる工場、極限までシステムで管理された非人間的な労働、上から人が落ちてこようが荷物が爆弾が紛れてようが止められない出荷ライン。

(全然関係ないけどすみっコぐらしの映画(3作目。こちらもおもちゃ工場が出てくる)を思い出した。あれも従業員が機械に巻き込まれる労災が起きてもコンベアは止まらんかったな...…)


非人間的という点ではデリファスの体質もかなり資本主義の悪いとこ出てるよ!という感じだった。

とらつぐみは年功序列制の「日本企業の悪いところを煮詰めたような会社」で働いているので(?)デリファスのドライすぎるところがちょっと怖かった。外資ってどこもあんな感じなんですか?
(そんなわけない)

・エレナ『パワハラっぽい方の刑事』
   わたし「どっちだ????(たぶん刈谷さん)」

・主人公のエレナについて、最初は「あーはいはいこういうバリキャリ系の人ね」という印象だったのに、映画が終わると大好きになっていた。幸せになってほしい(?)

特に彼女が爆弾入り小包を開けてしまい、警察の到着を待ちながら自分の過去を語るシーン。あのシーンで特に感情移入してしまった。

「3日目...…眠れなくなった...…」の台詞で決壊したかのように涙が溢れるのを見て、「ああ...…」と深いため息を(心の中で)ついてしまった。

だから、その後にやってきた爆発物処理班を見て、エレナと孔と全く同じように、めちゃくちゃほっとした。

直前までエレナ怪しいんじゃね? と思っていたのに、そこまで感情移入できるというのは、演出の妙すぎるし、満島ひかりの演技がすごすぎる(手のひらでコロコロ転がされた観客)。


・羊急便の八木さんのキャラも好きだ(観客で嫌いな人はいないだろうが...…)。

社長に直接啖呵切っちゃって「あーあ俺は終わりだ」ってやけくそ気味になっていたのに、そのあと配送センターで爆発が起きた報告を聞き、(部下は無事)床にへたり込んでいた。

いや、部下思いのいい人すぎるやん...…

騒ぎが終わった後「妻と子供に、連絡!笑」って言ってたのも可愛すぎた。ほんとうに幸せになってほしい(2回目)。


・ドライバーの佐野親子もかっこよかった。

普段は不器用なお父さんが、息子が危ない目にあって集配センターの人につかみかかるシーンも好きだ。

そして、息子が自分の会社が売っていた洗濯機に爆弾放り込むシーンは、わかってても毎回なぜか涙がでた(?)

事件が終わった後、「10年後どうなってるだろうな」「俺は親父が元気でいてくれたらいいよ」というやりとりを聞き、しみじみと素敵な人たちだ...…と思った。



浅めの感想②:キャラ大集合祭りの面目躍如



・アンナチュラル組とMIU404組が「解剖の人」「警察の人」として出てきて、彼らは彼らでしっかり仕事をしているのもよかった。

ちょっと語ってもいいですか(いいよ)

・まず、志摩と伊吹が変わらなさすぎて笑った。伊吹ははしゃぎすぎだし志摩は放任しすぎ。

伊吹、感じたままを報告するにしても「犯人の部屋からきゅるっとした雰囲気がした」は感じたまますぎるよ。それが志摩によって正確に翻訳されたのも怖すぎるけど。

※2回目を観た時「きゅるっとした匂いがした」を桔梗署長に報告する前にが2人でちょっと打ち合わせしてるのに気づいて笑った。そのあとの「すみません気持ち悪くて」「うん」のやりとりに年月を重ねた志摩の諦めが見えた。

・ドラマ3話で偽通報いたずらをしてた勝俣少年が刑事になって、陣馬さんの相棒になっていたのは胸熱。

彼が活躍してるってことは、彼を無事「正しい道」に戻せたということの証明になってもいる。

勝俣くんを温かく見守る4機捜の表情に、流れた年月と、彼らの仕事への矜持のようなものを感じるのは、私だけだろうか。


・アンナチュラルチームも変わらなさすぎておもしろかった。六郎は慌てすぎ。「クソ」禁止令を律儀に守る中堂好きすぎる。

・中堂が「散々弄った後に死体を寄越しやがって」って言ってたが、実際真っ先に解剖をしていたら誰だこの遺体→被害者の身元洗いますという話になったかもしれず、その意味では少しぞっとする。

(もっともあれだけ爆弾が次々爆発していればそれもままならなかっただろうが...…)

伊吹が「きゅる」に気づかなければ、解剖が先に行われていれば、何か一つでも掛け違えたり順番が違えば結果が変わりうる、という点はサスペンスとしての面白さだと思う。

・黒焦げの死体が今回の犯人だと分かった後、「見上げた根性だ」「そんな根性なら、ない方がいい」と言葉を交わす中堂とミコト。根っこが同じようで方向性は真逆なこの2人を象徴するような台詞。

大切な人に起きた悲劇に対し、何もできなかったことは「罪」なのか。それを贖うための復讐は許されるのか。その問いに2人はどのように答えるのだろうか……


深めの感想①:世界一かっこいい「わたしの責任です」


・満島ひかり=エレナ、アテ書きなだけあってピッタリすぎる配役だ。場面が進むごとにどんどん印象が変わる彼女のキャラクターを演じきっていたのは凄まじかった。

欲しいものを聞かれて「全部」って答えたり、親からプレゼントを買ってもらえる子が羨ましかったと言ったり……

観客にとって重要な情報(彼女の生い立ちとか人としての「核」的なもの)をサラッと言っていたのがとても印象的だ。

バリバリ仕事して出世しておしゃれでいつも笑顔で明るくて、と自分への要求が高い「欲張り」。でも本当は脆くて弱い自分を見ないように(見せないように)しているだけで、無理をして心を壊してしまった。

 逆に言えばそんな経験をしたことがある彼女があのポストにいたからこそ、山崎が残したメッセージの真意を悟り、「配送を止める」ということができたのではないだろうか。

最初に上司(五十嵐)に詰められた時に開き直っていた彼女が、羊急便のストライキのときは「わたしの失態で、わたしの責任です」と言い切ってたのが印象的。

「壊れてしまった」人間が遺したものに対して、彼女の立場でしかできないことで答えを出した。そしてそれに責任を持った。

かっけえよエレナさん。もっとマシな職場あるはずだから転職活動頑張ってほしい(?)


深めの感想②「自己責任」を「みんなの責任」へと


・この映画のデリファス側の人物は皆、「ちょっとずつ悪いけど、決定的な悪ではない」という描かれ方だったのは印象的だ(人事データ勝手に消したり脅迫メールを握りつぶすのは普通にあかんと思うけど)。

成果主義は合理的ではあるが「失敗」が全て「個人の失態」に回収されるという問題がある。

つめつめのバスで工場に通う派遣とタクシーで出勤するホワイトカラーだとか、羊急便の社員に強く出れない委託ドライバーとか。  デリファスと羊急便の力関係以外にも、数多の力関係が存在していて、その中でエレナたちは働いている。

そう思うと彼女たちは「いいご身分」と言いたくなるが、一方で業績主義の名のもと、そういった資本主義の構造的な問題や矛盾を1人で背負わせられているとも言えるわけで。


会社が抱えている「爆弾」は1人でどうこうできる問題ではない。山崎があのようなことをしたのも、エレナの前のセンター長が心を病んで辞めたのも、個人の精神的な問題ではない。従業員が病むような労働環境が悪いに決まってんだろ。

※山崎の後任のポストが4回も(孔は2年いるから3年間で4回か...…)変わってるのに闇を感じる。山崎の直接の後任の女性は落下現場にいた1人で、5年前あそこにいて残っているのは五十嵐だけという台詞があったが彼女も辞めてしまったのだろうな...…


・最終的にエレナをクビにしたデリファスと、やらかしたのになんだかんだ八木さんはクビにならず、「ドライバー寄越せ!」と言ったら社長が来た(笑)羊急便、よく考えたらいい対比かも。

実力だけで評価される、ということは会社の利益にならない人材は速攻クビ、じゃあその利益を生み出す構造が問題点だらけであっても!? という事でもある。

デリファスに「いいようにされて」はいたけど最終的には従業員を守る道を選んだ羊急便やそれに協力した競合他社は、少なくとも従業員の声を聞き業界の未来という視点からものを考えられる人たちだったのだろう、と思う。

・佐野親子の活躍によって最後の爆弾の被害を防げた後、彼らが「たった20円の値上げか...…」と言っているシーンも象徴的だ。

彼らを取り巻く問題は、現場(構造の末端)が頑張ってなんとかなるわけではない(そこを「美談」にされがちなのもまた「悪」だ)。

それでも、「仕事ってのは魂込めてやるんだよ」と言う佐野父が配達先のことを覚えていなければ、息子の元職場が異様に高温に強いドラム式洗濯機を開発していなければ(?) 、最後の爆弾の爆発は防げなかったのは事実だ。

要するに、仕事への誇りとかやりがいを持って働いている人を搾取するのはほんまにカスということでもあるし、じゃあそうならないようにどうすればいいか皆で考えないとダメなのでは?というのを観客に投げかけてくる、そんな映画だったように思う。

・今回の映画、「働くこととは」というのを考えさせられる場面が多いけど、思えばそこはアンナチュラルもMIU404にも通底するものがあるのかもしれない。

「法医学は生きている人間のためにある」「誰かが最悪の事態になる前に止められる仕事」。

思えば彼らもやりがいや誇りだけでは仕事はできない、たったひとりで頑張っても全てなんとかなるわけではないけど、それでも一人ひとりが希望を繋いでいくような、そういう仕事の仕方。

エレナは五十嵐と自分を「同じレールの上にいる(=一蓮托生だ)」と表現したが、それは「働く人」という括りでは、八木も佐野親子もやたら豪華な警察の人も解剖の人も、そして観客も同じなのではないだろうか。


おまけ:3回観て+音声ガイド付きで観て発見した(気づかなくても良かった)小ネタ


・松本母娘の部屋番号が404なの、ファンサービスかと思ってたけど「Not Found=見つからない最後の爆弾」ってこと!?

・米本社のサラとエレナがWeb会議で話してるシーン、エレナはアクセサリーを全部外して髪を解いている。アクセサリーが「おしゃれで仕事ができる私」というある種の武装なのだとしたら、それを外して素を見せられる(はずだった)サラが情報を隠蔽してたの、ショックだっただろうな……

エレナの髪型でいうと最初は「ボブのハーフアップ(音声ガイド)」だったのが爆弾を開けちゃった時期くらいから一つ結びになっていったの、細かいけどなんかいいなと思った。ハーフアップって綺麗にやろうとすると難しいけど、一つ結びは楽だから……

・音声ガイドが人物の表情をかなり詳しく描写していたのが印象的で、聞きながら見ることで人物の心情の理解が進んだ。序盤の孔は「苦い顔」とか結構な言われようだった。あと、爆弾魔が犯人に対して「無事逃げられるといいけど」って言ってる時に泣いてるのは、別に気づかなくて良かった。

・山崎のロッカーの鍵穴周りが傷だらけなの、ストレスで引っ掻いたからなのかと思ってたが、回想をよく見ると「鍵を差し込もうとしたけど入らない」を繰り返しているように見えて、あれは疲労で目の焦点が合わなくてうまく鍵が回せなかったのでは……と気づき、とても悲しくなった。ロッカーの中の字が読めない程ではないが歪んでいたのもそのせいだろうか。やはり寝ないのは良くない……。

・佐野親子のお弁当、最初に食べているシーンでは「コンビニ弁当(音声ガイドより)」だったのが爆発物騒ぎが起きてから手作り弁当になったの、健康のためや気分を変えるため、とかならまだいいが、節約のためだった場合やるせないなと思った。
佐野父はしょっぱい方がいいと文句を言ってたのでこれまでは味が濃い既製品の弁当を買う余裕があったのだろう。爆弾騒ぎの割を(金銭的にも)一番食っていたのは彼らだということを示す表現かもというのは、考えすぎだろうか。

・黒焦げの死体を解剖するシーンの音声ガイドで、「左手の指が落ちる、黒焦げの婚約指輪」と丁寧に教えてくれたのも、気づかなくてよかったパート2だった。あと偽CM作成の時に使った山崎名義の口座、結婚資金を貯めるための共同口座だったりしますか……(だとしたら最悪だ)。

……と、考えれば考えるほど最悪の気づきが掘り出されてしまうので、ここまでとします。もし未見の方がいましたらぜひ、映画館で、ハラハラドキドキのストーリーに振り回されてみてください。

それでは、またどこかで。

ーー
初見の時になんだかんだ一番テンションが上がったのはメロンパン号登場のシーンかもしれない。まだちゃんと使われてるんだ……(とらつぐみ・鵺)