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生まれる3日前から、日記をつけてみた。 生まれて3分後に、親の役割を直感した。

明後日は、妻の出産予定日。
妻の実家での生活も、今日で3日目になった。

もう予定日が迫っているというのに、これまでに無いくらい、自分の心の内が分からない。今の自分の心を言語化することなんて不可能なのではないか、とさえ思えてくる。

いつも自分の感情を言語化するときには、感情の波の高い部分を見つけて、その波を手がかりに感情の分析を始める。しかし、今は小さな感情の波さえも感じ取ることができない。もちろん、感情の分析の手がかりとなるような高い波なんて全く感じられない。

子どもが生まれてくることに対する茫漠とした不安感が、感情の波を感じ取ることを妨げているのだろうか。強いて言えば、「子どもが生まれることに対して、自分の心がどんな反応をしているのかさえ分からない」という今の状態に対する失望だけが、確かに存在している。子どもが生まれることへの「期待」や「希望」というものをビビッドに感じられていない自分は、あまり父親に向いていないのかもしれない。

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そんな中でも、少しでも自分の感情の輪郭を探れないかと、キーボードに向かっている。今の自分の状態を生々しく書き留めておくことが、誰に対するものかは分からないが、せめてもの「責任」かのように感じられる。明日も日記を書こうと思う。

●出産予定日の前日 / 5月26日

今日の14時から、妻は明日の出産に備えて入院する。(無痛分娩のため、予定日通りでの出産を目指す。)

コロナの院内感染防止のため、出産の立ち会いや、出産後5日間の入院期間中のお見舞いもできない。そのため、妻と再会するのは、早くても6日後ということになる。心細いだろうと思って、家を出る1時間ほど前に「大丈夫?緊張してきた?」と訊ねると、「ううん。そんなに。」とのこと。ソワソワするぼくとは対照的に、妻は落ち着いて入院の支度を済ませた。

病院に向かう妻に、何と声をかけて良いか分からなくて、「頑張ってね」と言って見送った。まだ子どもが生まれてくることの実感は湧かない。もちろん、退院してきた妻が抱える子どもを見て何を思うのかも、全く想像ができない。わが子を見て、喜びや愛おしさを感じることができなかったらと思うと、変な不安が募ってくる。

今まで「子ども」というものと、積極的に関わろうとはしなかった。友達の子どもに会うと「可愛い」と思うが、子どもに対してどんな「分人」で接したら良いのかが分からず、毎度けっこう緊張するからだ。相手の反応を必要以上に気にして緊張するという意味で、ぼくは人見知りだと思っているが、「子ども」という理解の範疇を超えた存在は、「大人」よりも遥かにぼくを緊張させる。この、「子ども」に対する経験値の低さも、不安の種の1つなのかもしれない。

寝る前に、妻から入院初日の様子が送られてきた。当たり前のように使われている単語の意味が分からず、ググりながら解読する。

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処置の内容を細かに教えてくれたお陰で、ようやく少しずつリアリティが湧いてきた。この日、妻のことはずっと気がかりではあったが、いつも通り仕事をしながら過ごしていた。正直、妻からの連絡が届いた時も、仕事(自分のこと)に夢中になってしまっていた。妻が1人で痛みに耐えながら頑張ってくれているのに、本当に申し訳ないし、何より情けない。

明日は朝から分娩室に移動して、いよいよ陣痛促進剤を打つ予定。無事に出産を終えられるように、対面での立ち会いはできなくても、様子をこまめに確認しながら、精一杯応援しようと思う。

●出産予定日 / 5月27日

朝起きると、妻から不在着信が入っていた。病院の朝がこんなに早いとは思わなかった…。すぐに折り返して、ビデオ通話した。

妻は思ったよりも明るくて、冗談を言い合いながら、今日の予定や今の様子を話してくれた。「Zoom立ち会い」をするために、スマホをベッドに固定するためのアームを用意していたのだが、分娩室のベッドには取り付ける場所がないらしい。この後に1錠目の陣痛促進剤を飲んで、11時に麻酔チューブを入れるとのこと。

早ければ昼過ぎから本陣痛になるのかと思うと、やれることも無いのにソワソワする。まだ自分の感情の正体は掴めないが、何よりも妻に無事に帰ってきて欲しいという祈りだけは鮮明に感じていた。

妻から連絡があり、驚くほどたくさんのチューブを繋がれているとのこと。(麻酔チューブ/点滴/心電図/酸素測る機械/血圧測る機械/赤ちゃんの心拍数測る機械…カオス) まだ、陣痛の間隔は7分ほどだから、いつも通りにお昼ご飯を食べて、その後で2錠目の陣痛促進剤を飲むそうだ。妻は相変わらず、思ったよりも明るい。

今プロジェクトを一緒に進めている人たちには予定日のことも話していたので、朝から「いよいよだね!頑張ってね!」といった主旨の連絡を何人かからいただき、関係性の中で仕事をさせてもらっているありがたみを感じる。ただ、悲しいくらいに頑張れることがない。側にいてあげることさえできない。

夕方、妻から泣きながら電話があった。陣痛促進剤を1日の限度量まで飲んだものの、陣痛の周期が短くならないため、今日の処置は終了になったとのこと。明日また促進剤を飲むか、点滴で促進剤を入れるか決めるようだ。それでも10分間隔での陣痛はあるし、点滴や麻酔用のチューブも刺したままだから、すごく痛いらしい。しばらく電話していたら落ち着いてきて、明日また頑張ると笑っていた。

日付が変わるころに様子を訊ねたら、たまに陣痛があって寝られる気がしないとのこと。本当に僕は寝ても良いのかな…と思いながらも、明日の朝の診療で方針を決めるということだったので、電話があったら気付けるように音量を最大にして眠りについた。

●入院3日目 / 5月28日

突然部屋が明るくなって、ぼんやりとした頭と目で、ドアの横にお義母さんが立っているのを見つけた。スマホを渡されてLINEを見るように言われて、家族LINE(妻の家族+ぼく)を見ると、深夜2時過ぎに妻から「生まれるかも」「激痛で子宮口7cm開いてたから分娩室きた」と連絡が来ていた。お義母さんは「虫のしらせ」で目が覚めて、連絡が来ていたことに気づいたのだと言う。

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急いでリビングに降りて、Zoom立ち会いの準備を進めた。ビデオ通話がつながると、妻は意外にも冷静な様子で安心した。麻酔医がいない間に陣痛がきたことに、パニックになって泣いているのを想像していたので、僕よりも遥かに大きな覚悟を持って、この瞬間に臨んでいたんだな…と今になって気がつく。

すぐ側で立ち会えないことを残念に思っていたが、Zoom立ち会いだからこそ、お義母さん、義弟と一緒に立ち会いができたので、それは良かったと思う。途中麻酔が効きはじめてからは、妻にも話す余裕がでてきて、一家団欒なムードで楽しく会話していた。助産師さんがとても良い方で、妻もリラックスできているようだった。

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朝5時ごろから陣痛が弱まり、すぐに生まれることはなさそうなので、みんなで1時間ほど仮眠をとった。子宮口は8cmくらいまで開いているが、まだ破水は起きず、なかなか赤ちゃんの動きが進まない。無痛分娩だと陣痛が弱まってしまうことがあると、助産師さんが話してくれた。

8時ごろ、お医者さん(?)が来て、点滴で陣痛促進剤を入れることになった。そこから妻の体勢を変えたりして、少しずつ赤ちゃんが降りてくる。この頃から、陣痛のたびに「イタタ…」と声を漏らすようになり、分娩室も慌しくなった。画面の向こう側が賑やかになるのとは対照的に、ぼくたちは固唾を飲んで、祈るように見守っていた。陣痛は来ているのに、まだ破水しない。

11時ごろ、人口破水させることに。いよいよ助産師さんの声に合わせて、妻がいきみ始める。妻が「痛い!」と叫ぶ声や、今まで聞いたこともない声にもならない呻き声を聞いて、涙が止まらない。助産師さんが「もう頭半分出てるよ!」と声をかけるのを聞いて、その時が近づいているのを感じた。

【2020/5/28(木)11:29】
大きな鳴き声と一緒に、赤ちゃんが生まれてきた。2854gの男の子。

赤ちゃんの元気な様子に緊張がほどける。生まれたての赤ちゃんを可愛いと思ったことは1度もなかったけど、画面越しにでも「愛おしい」と思えた。

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気がつくと、ずっと自分につきまとっていた、形のない感情は跡形もなく消えていた。きっとその正体は、赤ちゃんが生まれてくるという事象に対して、自分の心がどんな反応を示すのか想像できないことへの不安感だったのだろう。

助産師さんが赤ちゃんをベッドに移すと、彼は両腕を天井に突き出して、両手をめいっぱい広げて、震えながら腕を大きく振り回した。その動きは、まるで「手探りで世界を知ろうとする」かのようだった。自分でも不思議なくらい、”その動き”を見た瞬間に、ぼくは彼の動きの意図を直感した。

これから、ぼくが果たしていくべき役割は、そんな彼が世界を知ることを少しでも手助けすることなのかもしれない。

まだ触れたこともない息子をみて、そんなことを想った。

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自分の「想い」を大切にしながらも、「相」手の「心」も想える人に。
そんな願いを込めて、「想(そう)」くんと名付けました。

写真は生後7日目の想くん。ぎゃんかわ。

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#出産レポート #Zoom立ち会い #日記

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Takumi Shimada
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