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「育ち」を身につける
諏内えみさんの『「育ちがいい人」だけが知っていること』を読み終えた。
著者は「マナースクールライビウム」代表。
この本を読んではじめて知ったマナーが実に多かった。
例えば、靴の脱ぎ方。私は、人の家に上がるときに、後ろ向きで靴を脱いで、そのまま上がってしまっていた。これはマナー違反で、粗雑で失礼なふるまいになるという。正しくは以下の通り。
正面(家の中)を向いたままで脱ぐのが正解です。脱いで玄関を上がったら、体の向きを変えてひざを折り、靴を180度回して隅に寄せます
言われてみれば、そうだよなと思う。自分がやっていた行為は本来あるべき動作を、めんどうだからと飛ばしてしまっているだけ。わざわざ体の向きを変えてひざを折る動作が急に美しく見えてくる。
他にもいろいろある。
試着した服はファスナーをしめたり、ボタンを簡単にとめたりして返しましょう。裏返し等のまま返すのはもってのほかです
クレジットカードの利用後やホテルのチェックインの際、サインを書き終わったら、そのままの向きで渡していませんか?どんな場面であろうと、どなたに渡すのであろうと、ごくごく自然に相手のほうに向けたいもの。相手をリスペクトする所作があなたの品位を高めます
思わずドキッとしてしまう…。試着した服は、ぐしゃっとしたまま返していたし、サインの後に相手のほうに向けるなど、考えたこともなかった。本当に恥ずかしい。ちょっとしたことではあるが、これでは相手への敬意や配慮が欠けていると受け取られかねないだろう。ただ、それ以前に、こういったマナーを知らなかった、あるいは、疑問にも思わなかったほうが問題なのかもしれない。
著者が本書でもっとも伝えたかった結論を要約すると次のようになるだろうか。
「育ちの良さ」を感じさせるような所作やふるまいは、いつからでも、今からでも身に付けられる
「育ちの良さ」は、良い家で生まれ、躾けられて身につくものだと思っていた。
そうではなくて、誰でも後天的に身に付けられるものなのだと著者は言う。
ここに驚きがある。
「はじめに」から著者の言葉を引用してみる。
「育ち」とは、その方の佇まいのこと
所作やふるまいを知っているかいないかだけのこと。
さらに言えば、
「知ろうとしているか、いないか」だけのの差にすぎないのです。
「育ちの良さ」とは、一度身につけたら失うことのない一生の財産です。
「育ちの良さ」とは、美しさを凌ぐ一生の武器となります。
そして、どなたでも、今からでも、手に入れることができます。
一生の財産とか武器とか、決して大げさに言っているわけではない。そうした「所作やふるまい」で、人の印象は大きく変わるし、人生が思わぬ方向に好転するということも充分あり得るのだ。
本書に紹介されている「所作やふるまい」は、全部で257項目ある。どれも今すぐにでも実践できる、TODO形式となっているのがありがたい。私が今からでも実践していきたいと思った項目をいくつか挙げてみる。
顔見知りでない方とすれ違った場合、目礼、会釈を。
あいさつは一旦立ち止まって、相手の顔をしっかりと見て行う。
受け渡しはいつ何時でも両手で行う。
歩き方のくせを知っておく。…気をつけたいのはまず姿勢。耳、肩、くるぶしが一直線になるように立つのがポイント。その上半身をキープし、かかとから着地するように歩く。
余韻をもって電話を切る。
ビニール傘を普段使いしない。
目上の人へのお礼状など気遣いの手紙は万年筆で書く。
洗面台は使ったら拭く。
会食の場面では、目上の方が注文されるのを待ってから自分の注文をする。「どうぞお先に」とさりげなく促す。
割り箸は横にして扇をひらくように静かに割る。
お料理は迷ったら左手前から。
ナイフとフォークの置き方。食べ終わったあと、ナイフの刃は内側に、フォークは仰向けにし、離れすぎないように、3時から6時の位置に置く。
などなど、たくさんある。「今さら聞けない知らなかったこと」的ないくつかにも気づくことができた。
あとは実践することで、一つでも身につけていきたい。
美しい所作やふるまい、品性というものの大切さが具体的な場面を通して語られている良書である。
著者は一部上場企業トップ陣や政治家、女優などにも指導してきた経歴を持つ。言葉のひとつひとつに説得力があった。