Intelの動画広告は成功しているか?
Intelの社会実験動画
iPhone Maniaさんで、以下の記事を読みました。
結構定期的に、「SamsungがAppleをディスってる」「AppleがWindowsをディスってる」という話題が出てきますが、今回も似たような話ですね。
当然ながら、人を侮辱しているような内容をみると、良い印象は受けませんので、他社をディスることは基本的にデメリットの方が大きいです。
今回は、明確にディスってるわけではありませんが、
「キミがほしいと言ってるその機能、別にAppleじゃなくてもあるんやで?
カスタマイズ?Windowsならあとからでもできるぜ。
ゲーム?もちろんいっぱいできまっせ。
だからバリエーションの多いWindowsをどうぞー」
とアピールしてます。
面白い動画だとは思いますが、残念ながら、この動画で「Mac(MacOS)買おうと思ってたけどWindowsにしよう!」と思う人は少数派でしょう。
ゲームに関してはWindowsの方が良いなど、もちろん頷ける部分もあります。
ただ、今回の動画では、「Apple製品が欲しい」という人のなかでも
「とりあえずパソコン(やタブレット)がほしい。オシャレなApple製品がいいな」という人でこだわりが強くない人や、
こだわりがあるからこそWindowsでいろいろな形のものから選びたい、
という人ぐらいしかWindowsに心変わりすることはないでしょう。
Intelは、コストをかけてこの動画を作ってまでこの少数のシェアを取りに行く意味はあるのでしょうか?
もし、この動画を出した目的がこの小さなシェアをとるための手段であれば、費用対効果が薄いと言わざるを得ません。
少ない売上を求めて高い広告を出すより、自社製品の価値を上げる方が、利益に繋がるからです。これは、ビジネスの基本です。
しかも、人によってはIntelのイメージが悪くなってしまうこともあるでしょう。
なぜ機能をアピールする動画がApple派に刺さらないのか?
では、Apple製品を買う人が求めているものはなんでしょうか?
おそらくは以下の3つ。
ひとつは、洗練されたデザイン。
もうひとつは、クリエイティブワークで使いやすい性能(デザイン関係の仕事の方はMacが多いです)。
そして最後のひとつは、トータルデザインです。
ここで言うデザインは、「設計」という意味です。
WindowsとChromeOSは分業
パソコンといえば、よく言われる分け方ではWindows(Microsoft)、MacOS(Apple)、ChromeOS(Google)の3つ。
これらはOSと呼ばれ、パソコンを使うためのオペレーションシステムのことです。つまり、デジタルデータのソフトです。
Windows(Microsoft)とChromeOS(Google)は、当然ソフト面(OS)を自社で作っていますが、パソコン本体のハード面を他のメーカーが作っています。つまり、分業。
この方が各社が得意分野に注力できるので、安く作れます。
対してMacOSは、ハードもソフトも含めすべてApple。
「作っている」とは言えAppleはファブレス(設計を自社で行い、それをもとに製造は外注する)ではありますが、一体モノとして作っているMacOSとWindows/ChromeOSでは、この点で大きな違いがあるのです。
分業のデメリット
何が違うのか?
これは、不具合が発生する確率や、操作性の統一感などにかかわってきます。
デジタルの世界ではバグ(不具合)は0にはなりませんが、ソフトとハードを別の企業が作っていれば、当然、相性の問題が発生します。
また、すべてのハードに対してOSをテストすることができないので、不具合の発生率が増える。
たとえば、OSがアップデートされたときにはよく不具合が起こります。
OSはソフト会社のタイミングでアップデートされますが、ハード会社のT社、S社、D社などそれぞれの会社が、アップデートされたあとに各社が出しているパソコンのすべての機能をチェックするわけです。
しかも、今出している製品だけでなく、顧客は過去に出していたパソコンも使っているわけですから、それらすべてをチェックする…なんてことできませんよね。
というか、ほぼしてません。
こうやって、不具合が発生しやすくなります。
操作性も、マウスパッドの操作方法など、各ハードメーカーがそれぞれ「これが良いはず」という使い方で設計するので、メーカーによって使い方が変わります。同じメーカーでも、製造年によって大幅に操作感が変わることもしばしばです。
トータルデザインは時間の節約
・不具合が起きてパソコンが使えない
・OSをアップデートしたら、○○の機能が使えなくなった 直すためにネットサーフィンしていろいろ試して、1日かけてようやく直すことができた
・パソコンを買い替えたら使い方が変わって慣れるのに時間がかかった
こんなことがよく起こるわけですが、これって、ストレスもかかりますし、時間の無駄遣いですよね。
これらをすべて自社で行えば、不具合の発生率が下がり、操作性も統一できる、というのがトータルデザインのメリットです。
つまり、最終的に時間の節約になる、ということ。
Apple製品を選ぶ人は、時間を有効に使うためにApple製品を選んでいるということです。
だから、Apple製品を気に入ったらなかなかWindowsにかえることはありません。
このような人たちに対して「機能は同じことができます」なんて訴求しても、まったく刺さらないのは当然ですね。
(近年Microsoftはハード面も自社設計のSurfaceを出しているので、Surfaceはこれから期待できるかもしれませんが。)
スペック(仕様)の違い
ちなみに、よくスペック面で「同じ価格でWindowsの方が良い性能」、「あとからカスタマイズできる」という点がWindowsの良い点だと言う人もいますが、
そもそも、MacOSはWindowsより低いスペックでWindowsよりサクサク使えます。
さらに、Windowsは使えば使うほど動作が重たくなるので、あとからスペックをあげないと性能が落ちます。だから、"あとからスペックを上げる必要"が出てくる。
これもじつは、トータルデザインだからできることです。
わかりやすく言えば、Appleは燃費がいいわけです(乱暴な言い方ですが)。
と、Apple製品の良い点を書いてきましたが、当然、違うソフトを複数立ち上げて使う必要がある場合など、目的によっては当然Windowsの方が良い場合もたくさんありますので、ご留意を・・・。
Intel動画の本当の狙いは?
ということでIntelの動画の話に戻ると、これらの点から、今回の動画はAppleからWindowsに買い替えを促すには、かなりのムダのように思えます。
おそらくは、既存顧客にWindowsの良さを再認識してもらうためのWindows派への囲い込み戦略のひとつ、とみる方が妥当そうです。
つまり、Windowsを使っている人に、Apple製品を買う必要がないことを知らせる、Windowsはカスタマイズも豊富で良い製品だと認知させるというような、既存顧客のエンゲージメントを向上させるための戦略だことです。
企業は利益を追求する組織
(あくまでわたしの推測ですが、)今回のように、企業は本来の目的をあえて公表せず、本当の狙いを隠してほかの表面上の狙いを作り行動することは多々あります。
ここで「詐欺だ!」ということは簡単ですが、企業はもともと利益を追求するための組織なので、利益を得るためなら当然の行動だとも言えます。
さらに言えば、嘘をつかれても自分にメリットがあれば、嘘をつかれることに何の問題があるでしょうか?
メリットが嘘をつかれることを上回ることは往々にしてあります。
たとえば、新車を買いに行った際、本当は売れ残りではないのに「この車、売れ残りなので30%割引します」と言われれば、「売れ残り」が嘘でも本当でも、「30%の割引」と比べればどうでもいい話です。
人は感情的に動く生き物
ダイレクトマーケティングで有名なジョセフ・シュガーマンは、
「人は感覚で買い、理屈で納得(正当化)する」
と言っています。
わたしもほしいものは感情的に「ほしい!」と思って飛び付き、そのあとで「本当にこれは買って良いのだろうか?」「買う意味はあるのだろうか?」と考え、性能などを吟味し納得してから買うことが多いので、この言葉は理解しやすいです。
(もちろん、衝動買いのときは除きますが・・・)
たしかに嘘をつかれること自体は気分の良いものではありませんが、この感情に振り回されて損をする、ということは避けられるようにしたいものですね。