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The Beach (英語で本を読むこと)

 職場の先輩と英語の話をしていました。
 私からしたらその人は「それなりに英語は話せる人」なんですが、
話題が決まってる人たちと、決まった言い方でやり取りすることはできる。でも、違う話題になると、もうてんでダメこれ、どうすればいいの?」という相談をされました。

 漠然とした「できない」ではなく、こんなふうにより明確で具体的な「これができない」という感覚について聞くことはとても貴重です。

 さて、この先輩とは結構な時間あーでもないこーでもないという話をしたんですが、こんな落としどころにしました。
・仕事に関わる内容の英文は、決まり切った形の英文しかないし、表現もあまり多様でないので、それを使って英語を伸ばすのには限界がある。
・特に、仕事に関わる英文は、説明的なものがほとんどなので、そこからはコミュニケーションの中で自分の気持ちを伝えるための表現を学ぶことは期待できない
・ならば、もっと文学的な、人の気持ちが表現されてるものを英語で鑑賞するのはどうか?英語で小説とか読んでみませんか?

 ということで、その人が好きだという英語原文の"The Beach"(Alex Garland作)という小説を、英語で読んでみましょうよということになりました。
私自身もなにか小説読みたいなという気分でしたし、小説を読むことで英語を学ぶということについて少しじっくり考えてみるいい機会だと思いました。

さて、この小説のあらすじはこうです。

イギリス人の若者リチャードは、トラベラーとしてタイに来ました。宿に着いて部屋で一息つこうとしたところ、隣の部屋の男が "beach" について息も切れ切れにつぶやいています。頼みもしないのにその男はリチャードに "beach" の話を始めます。あるところに未開の「ビーチ」があり、そこは地上の楽園である、と。次の日リチャードが朝ごはんを食べ終わると、リチャードの部屋にその「ビーチ」への地図が届けられていました。そして隣の部屋の男は、自らの手首を切って死んでいました。警察からの事情聴取を受け終わったリチャードは、同じ宿に宿泊していたフランス人カップルと「ビーチ」の話で盛り上がり、「行ってみようぜ、ビーチに」ということになりました。かくしてリチャードとカップルは「ビーチ」へと出発し、そこで地上の楽園を発見します。しかし、楽園と思えたその「ビーチ」も、少しずつその現実の姿を現し、リチャード達は決断を迫られます…

 で、今日読み終わったわけです。なかなか面白いです。ペーパーバックで439ページありました。アマゾンだとたっかいのしかなかったのでメルカリで買いました。メルカリいいですね。

 それで、「これを読むことでどのように英語の力がのびるだろう?」という話が本題なわけです。

 結論から言うと、本を一冊読んだだけで明確に「こんな風に英語が伸びた!」と感じることは期待しない方がいいかもしれません。(※PSとして下に書きましたが、英語で小説を一冊も読んだことがない方にとっては、まず一冊読むことは素晴らしい体験になると思います)
じゃあ英語の勉強として小説を一冊読み通すことは効果はないのかというと、そんなことはないです。むしろ、今少しじっくり考えてみると、やっぱり英語の勉強って「これをして明確にこれが伸びた!」っていう「単純な伸び」の繰り返しではないですね。本や音楽や映画やドラマとかの色んなインプット、そして会話やメールや文書作成とかの色んなアウトプット経験をじっくりじっくり積み重ねて、「自分の英語を大きくしていく」っていう、気の長い話なんですね。「この小説で出てきたこの表現を覚えて、会話の中で使う」っていうような、「記憶」っていう感じのものじゃないんだと思います。むしろ、ふと「そういえば、俺この表現どこで覚えたんだっけ?」と考えてみたら、確か最初の出会いは The Beach だった、とかそんな感じなんです。
 でも、一冊の本をただ読んだだけで終わらせてしまうと、その中で出会った単語や表現は忘れてしまうかもしれません。それをどうやって忘れないようにするか、そのためにどれだけ時間や労力を投資するか、これは勉強する人次第です。

例えばですよ、ビーチに関する会話の次の日、リチャードが朝起きてタバコを吸う場面で、こんな表現があります。

The early morning smoke was a tonic. I gazed upwards, an empty matchbox for an ashtray balanced on my stomach, and every puff I blew into the ceiling fan lifted my spirits a little higher.

(P11 from "The Beach" by Alex Garland, PENGUIN BOOKS)

 これは喫煙経験のある方なら「わかるわー!」となるんじゃないでしょうか。やっと宿に着いて、疲れてるのに隣の男にわけのわからんビーチの話をされながらなんとか寝て、翌朝静かな部屋の中でようやく一人で一服する一人旅欲求をくすぐられますね!そんな一服のすがすがしさを知っていれば、初見でも"tonic"(元気づけるもの) という言葉のイメージはありありと伝わってきますよね。そして「さあ、これからタイで何をしよう」というワクワクが、煙を吸って吐くたびに体の中で湧き上がってくる、そんな感じが "lifted my spirits a little higher" に込められているのかな、なんて思うじゃないですか。
(ちなみに私は元喫煙者です)

 で、ですよ。学習者はここで思います。
「この表現初めて見たけど、いいなあ。でも多分何もしないとこの表現は忘れてしまう、でもそれはさみしい。どうすればこれを忘れずにいられて、あわよくばこれから会話で使えるようになるだろう?
 ここまで考えると、自分がまだ今ほど英語に自信がなかったときに何をしていたか思い出しました。単語カードですね。コンビニや文房具屋さんで売っている単語カードに、出会った表現や単語を表(おもて)に書いて、その意味を日本語で裏に書いて、何十個と単語カードを作っていました。だから、「読んで、調べて、単語カードに書いて、また読んで」というのを全てひっくるめて「英語で本を読む」という活動としていました。それで、一日のどこかで単語カードを復習する時間を作って、忘れないようにしていました。

 面白いもので、単語カードは何十個もできていきますし、それを毎日全て復習はできないんですが、学習を続けているとむかーし作ったものも段々定着してくるんですよね。もしかしたら定着しなくて、前にカードに書いたものをまた新しいカードに書いてしまうこともあるかもしれませんが、それでもいいんです。

 これをきちんとやれば確実に英語力はアップします。本に限らず、音楽や、映画に関してもやるといいですね。山ほど単語カードができます。単語カードを復習するのと合わせて、たまには読んだり聞いたりしたものをもう一度見直す・読み直すのもいいですね。

単語カードについてはまた今度書きますが、これは最強の学習ツールだとだけ言っておきます。

まとめ

・小説を英語で一冊読んだだけで「あ、伸びた!」とはならないかもしれません。
・英語の学習は、インプットやアウトプットを少しずつ積み重ねて「自分の英語を大きくしていく」気の長い過程です。なので、色んなジャンルのものにたくさん触れた方がいいです。本ならたくさん読んで、曲ならたくさん聞いていくべきです。
・触れたもの一つ一つを自分の力として蓄積させるために、単語カードは最強のツールです。最初は面倒かもしれませんが、「読み進める、調べる、カードに書く、復習する」のリズムを作れれば、英語力は確実についていきます。


 私がどんな本を読んできたか、「英語の本を読むだけの力がない人はどうすればいいの?」という人への助言など、今後書いていこうと思います。今日はここまでです、ありがとうございました :)

PS. ここまで書いて、英語で小説を読んだことが全くない人にとって、英語で小説を読むという「新しい経験」は、ただの「英語力の伸び」というもの以上に、もっと何か違う次元で得るものがあるんじゃないだろうかとも思いました。まず、達成感は大きいと思います。「英語で本を読んだぞ」というのは自信につながります。
 でも、それ以上に、これは特に小説の話ですが、小説って一つの「世界」なんですよね。登場人物達の人物像が少しずつ自分の頭の中に出来上がってきて、場面の風景や、人間関係について、血の通った世界が作られていきますよね。「あー、俺はあの時期あの小説読んでたな。あの時期、現実世界では仕事がこんなことあって、あの人と仕事してたけど、本の世界ではリチャードとエティエンヌやフランソワーズ達のタイでの冒険を体験してたな」っていう形で、読書経験って自分の人生の一部になるんですよね。これを英語だけで体験するっていうのは、英語の参考書を勉強するっていうのとは違う次元の、純粋に英語だけでの人生経験になりますよね。これは結構大きいんじゃないかと思います。「登場人物のこのセリフ、えぐかったなあ」っていう記憶のそのセリフも、英語なわけですからね。こんなふうに、自分の人生の一部を英語で持つっていうのは、確実に自分の財産になりますよね。
 なので、長編小説を英語で読むっていうのは、もしやったことない方は、一度挑戦してみるといいかもしれません。

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