感染宿主の生体内での鳥インフルエンザウイルスの変異への脅威に対する対応の重要性
2023年1月から、鳥インフルエンザウイルスの大規模感染が、野生の鳥類の生存に大きな影響を与えている。今のところ、鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染することはほとんどない。しかし、ウイルスは急速に変異することがある。異なる種類のウイルス株は、感染宿主の生体内でお互いの遺伝子配列をやり取りすることができる。そのため、遺伝子組み換えが起きたウイルスは、様々な環境下でも生き残って、感染拡大が生じる可能性がある。これまでの研究によって、鳥インフルエンザウイルスは、ネコ、キツネ、カワウソ、アザラシ、アシカなど、さまざまな哺乳類へ感染することが認められている。
新たなウイルス変異型が人間を含む哺乳類への高い感染力を獲得すれば、哺乳類から別の哺乳類へと感染が広がっていくことが考えられる。2020年に、デンマークやスペインのミンク飼育場において、SARS-CoV-2が、飼育員からミンクに感染し、養殖ミンク間でSARS-CoV-2の感染が大流行した。さらに、SARS-CoV-2が、養殖ミンクの生体内で遺伝子変異して、新たなSARS-CoV-2 variantとなり、飼育員に感染した。この時に、養殖ミンクの生体内で変異したSARS-CoV-2 variantが、COVID-19ワクチンにより誘導される抗ウイルス免疫から逃避する可能性が懸念された。
2023年2月までの調査によって、スペインのミンク飼育場でも、鳥インフルエンザウイルスの養殖ミンクへの感染が広がっていることが報告されている。そして、鳥インフルエンザウイルスが、ミンクから少数ながら人間へ感染していることが確認されている (1)。つまり、鳥インフルエンザウイルスが、養殖ミンクの生体内で遺伝子変異して、ヒトへの感染の能力を有する新たな鳥インフルエンザウイルス variantが生じた可能性が考えられる。
各国において、鳥インフルエンザウイルスの哺乳動物への感染に対する対応は検討されている。2022年4月、鳥インフルエンザウイルスの感染で死亡したキタキツネや衰弱したタヌキが発見され、日本の国内で、初の鳥インフルエンザウイルスの哺乳類への感染例となった。おそらく、キタキツネやタヌキが、鳥インフルエンザウイルスに感染した野鳥を捕食したことが、鳥インフルエンザウイルスの哺乳動物への感染の原因と考えられる。
鳥インフルエンザウイルスに感染している野鳥や養鶏を根絶することが、鳥インフルエンザウイルスの哺乳動物への感染流行を阻止することになる。2022-2023シーズンでは、日本国内において、既に、1200万羽以上の採卵用の鶏が、鳥インフルエンザに感染している。そのため、約1000万羽の採卵用の鶏が、殺処分されている。殺処分された採卵用の鶏の数は、日本国内で飼育される全鶏のおよそ9%である。日本政府は、養鶏の経営者に対する経済的支援を行わなければならない。
Hayashi T, et al. Highly conserved binding region of ACE2 as a receptor for SARS-CoV-2 between humans and mammals. Veterinary Quarterly. 2020 Dec;40(1):243-249.
We do not have potential conflicts of interest.
がん医療専門ドクター・新興感染症専門ドクター
Letter Published in JAMA February 20, 2023. by 京都@takumaH
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